貧弱の英雄

カタナヅキ

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王国の闇

第749話 イーシャンの仙薬

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「――よし、上手くいったぞ!!」
「ぬおっ!?イーシャンよ、こんな時間に何を騒いでおる!?」
「あ、ああ……すまねえ、起こしちまったか?」


時刻は夜明けを迎えた時、イーシャンは馬車の中で大声を上げ、その声を耳にして起きたドルトンは彼に声を掛ける。街から戻ってからイーシャンは馬車に引きこもり、何らかの薬を調合していた。

イーシャンの周囲には調合器具が並んでおり、その中には上級回復薬や聖水といった一般人では簡単に手に入らない高級な薬まで入っていた。しかし、イーシャンはどうやらそれらを材料にして何か新しい薬を作り出している様子だった。


「薬の調合か?何を作っておる、お主がそこまで騒ぐという事はそれほど調合が難しいのか?」
「ああ……俺が若い頃に作ろうとした薬なんだが、その時は失敗してな。借金までして素材を集めたのに上手くいかなかった。けど、今なら作れると思ってな……ようやくいくつか成功した所だ」
「ほう、それは良かったな。ところでどんな薬を調合したのだ?」
「仙薬だ」
「せんやく……?」


聞きなれない薬にドルトンは戸惑うが、彼の手元には液体の薬ではなく、粉薬のような物を作っている事が判明する。この世界の薬は殆どが液状だが、イーシャンは作り出そうとしているのは粉薬を固めた物らしく、彼は頭を掻きながら説明する。


「仙薬というのは昔、和国という国の薬師だけが作り出せた薬だ」
「和国……かつてゴブリンキングに滅ぼされたという伝説の国の事か」
「そうだ。俺も若い頃は色々な国の薬の使い方を学んでいたんだが、昔読んだ本によると和国の薬師が作った「仙薬」というのはなんだ」
「丸薬?」
「ああ、戦闘の際中に回復薬や魔力回復薬を飲む込むのも大変だろう?特に激しい戦闘の時なんか飲み物を飲んでいる暇なんてないはずだ。だが、この丸薬の場合は口に含んで噛み潰すのも良し、そのまま飲み込むだけでも効果を発揮する。だから戦闘では使いやすい代物なんだ」
「なるほど……それは一理あるのう」


ドルトンは元々は冒険者であり、確かに若い頃の彼は戦闘中に薬の類を使用する事の危険性を理解していた。特に命を脅かす存在を前にして回復薬の類を飲む行為の危険性はよく知っている。

魔物達も馬鹿ではなく、呑気に薬の類を飲み込もうとする人間を見かけたら真っ先に命を狙う。傍に仲間が居て他の人間が援護できる状況ならばともかく、たった一人で魔物に囲まれた状況では回復薬の類を飲むのも難しい。

一番の問題は怪我などの場合は回復薬は飲むよりも怪我口に振りかける方が効果的である。しかし、戦闘の際中に悠長に怪我に回復薬を浴びせる暇はない。そこでドルトンは回復薬の代わりとなる新しい薬の開発を行う。


「その仙薬という丸薬を作れば戦闘中でもすぐに回復できるのか?」
「ああ、そうだ。丸薬一つ分に回復薬一本分の効果がある。それに丸薬を種類分けすれば状況に応じて対応できるからな」
「対応?」
「例えばこいつは市販の回復薬から作り出した丸薬だ」
「ほう、これが仙薬か……」


ドルトンに対してイーシャンは生成に成功した丸薬を見せつけると、見た目は緑色のビー玉のような形をしており、実際に触れてみるとそれなりの硬さがあり、これを噛み砕く事で回復薬を同じ効能を発揮するという。


「それでこいつが街で売っていた上級回復薬の仙薬だ」
「ほう、確かに色合いが違うのう」


回復薬と上級回復薬を素材にした丸薬は微妙に色合いが異なり、上級回復薬の方が濃い緑色をしていた。他にもイーシャンは聖水や魔力回復薬の仙薬を作り上げたらしく、それぞれが白と青の色合いの丸薬だった。


「こいつを使い分けて使用すれば戦闘でも役立つと思ってな。ナイのためにコツコツと作って持ってきてたんだよ」
「お主、そんな物まで用意しておったのか……」
「へへっ、あんたやアルほどじゃないが……俺もあいつとは長い付き合いだからな」


イーシャンはここまでの道中にナイの役に立つだろうと信じて仙薬の調合を行い、彼は丸薬を詰めた瓶を取り出す。そんな彼を見てドルトンは笑みを浮かべ、言われてみれば彼はドルトンとアルに次いでナイと付き合いが長い事を思い出す。

アルとドルトンにとってはナイは息子代わりの存在であり、イーシャンにとってもナイは小さい頃から知っているため、放っておくことなどできなかった。それに彼はヨウの予知夢を聞いた時からナイの身を案じて密かに作っていた。


「上級回復薬が買えたのは助かったぜ。騒ぎが起きる前に買い込んどいて正解だった」
「そうか……しかし、もう夜も遅い。しっかりと休んでおけ」
「ああ、そうさせてもらうぜ……うおっ!?」
「な、何じゃっ!?」


馬車の外から大きな物音が聞こえ、悲鳴のような声をも耳にした。何事かとドルトンとイーシャンは馬車の外へ抜け出して様子を伺うと、そこには予想外の光景が広がっていた。
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