貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
793 / 1,110
王国の闇

第778話 シンの切札

しおりを挟む
「さあ、観念して下さい。手荒な真似は私も好きじゃありませんから」
「……勝ち誇るのはまだ早いのではないか?儂と繋がりを持つ人間がどれほどいると思う、その全員の根回しは済んだのか?それは有り得んな、イリアよ。お主の方こそ儂を甘く見ておる」
「この状況でまだそんな事を言える余裕がありますか?」


既にシンの元に兵士が近付き、マホの言葉を聞いて彼等はシンの事を「偽物」だと思い込んで武器を構えた。しかし、そんな彼等に対してシンは神妙な表情を浮かべ、やがて笑みを浮かべた。


「……マホ魔導士、それにイシよ。そこにいる小娘はともかく、お主等ならばもう気付いているのではないか?」
「何じゃと……」
「な、何の話だ?」
「愚かな……この顔を良く見よ」


マホとイシはシンの言葉を聞いて訝し気な表情を浮かべるが、この時にシンの顔を見続けてある違和感を抱く。


「まさかお主は……」
「気付いたところでもう遅い……さらばだ」
「ま、待て!!何をする気だ!?おい、早く取り押さえろ!!」
「はっ、はい!!」
「覚悟!!」


イシはシンを取り囲む兵士達に指示を出すと、彼等は慌ててシンを抑えつけようとした。だが、そんな彼等に対してシンは笑みを浮かべ、やがて彼の全身から闇属性の魔力が噴き出す。

その光景を見た者達は愕然とするが、すぐにマホはこのままでは危ないと判断し、彼女は杖を構えてシンの周囲に立っている人間を魔法で吹き飛ばす。


「いかん!!離れよ、皆の者!!」
『うわぁあああっ!?』


杖を振り下ろすとマホを含めてシンの周りに立っていた者達が風圧で吹き飛び、直後にシンの肉体は爆散し、闇属性の魔力を含んだ肉片が飛び散る。その光景を確認した者達は驚愕し、一方でイリアはいち早く状況を理解した。


「まさか……死霊人形!?既に入れ替わっていたんですか!!」
「くっ……ぬかった、まさか既に父親の亡骸と入れ替わっていたとは……」
「ぜ、全然気づかなかったぞ……くそっ!!」


はシンは既に自分の父親の死霊人形と入れ替わり、それを操作して行動していた事が判明していた。シンは父親と瓜二つの容姿をしており、数十年も付き合いがあるマホやイシでさえも気付く事ができなかったと思われる。

シンの姿をしたシンの父親が爆散した姿を見て他の者達は状況を理解できず、混乱する。その一方でシンを取り逃がしてしまったマホは悔しがり、イリアも流石に冷や汗を流す。


「まずいですね、この状況で宰相を引き留めれば私達の勝利は確定したのに……」
「イリア、イーシャン!!すぐに国王を目覚めさせる事は出来ぬのか!?」
「い、いや……薬の効果が切れるまで最低でも一日はかかる。それまでの間は何もしない方が……」
「それなら薬の効果を打ち消す薬を作ればいいんですよ!!ほら、猛虎騎士団が訪れる前にちゃっちゃっと作りますよ」
「お、おい!?本気か!?」


イリアはイーシャンを連れて国王の眠りを覚ます気付け薬の製作のために動き、マホは消えたシンを追いかける事にした。しかし、ここで彼女が疑問を抱いたのはシンの父親の死霊人形の言動であった。


(あの死霊人形を操作していたのは恐らくはシャドウのはず……だが、奴が操っていたのならば先ほどまでの言動は全てシャドウだったのか?)


あくまでも死体を操作する能力を持つのシャドウであり、シンは死霊魔術師ではない。それなのに偽物のシンはまるでシン本人としか思えない言動だった。

この事から考えらえるとしたらシンは既にシャドウと合流し、彼を通して父親の死体を操って指示を出していた事になる。しかし、マホは自分の推理に完全に納得できず、シンの死骸の一部を見下ろす。


(これはまさか……!?)


マホはシンの死骸をみてある結論を抱くが、冷静に考えれば絶対にあり得ない事である。しかし、それ以外には考えられず、彼女は頭を抑えながら天を仰ぐ。


(シンよ……お主はそこまでしてこの国を自分の一族がする事を望むか)


シンの一族が国のために貢献してきた事は事実であるが、同時に彼等は邪魔者と判断すれば国を治める立場の王族にさえも手を出した。この事から彼等の目的は国を支える事ではなく、裏から国を支配する事ことだと伺える。

シン自身も気づいていない様子だが、彼は国を支える事ができない事を恐れたのではなく、自分が国を裏から動かす立場であり続ける事に拘り続けていた様にマホは思えた。大義名分として国を支えると訴え続けた彼だが、実際にしている事は自分達の都合がいいように国を裏から動かし続けていたに過ぎない。

マホはシンの覚悟を感じ入り、やがて訪れであろう猛虎騎士団やシャドウとの決戦は避けられぬのかと考える――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

処理中です...