貧弱の英雄

カタナヅキ

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砂漠の脅威

第916話 魔笛

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「アルト王子、それは何なんですか!?」
「魔笛だよ。この笛を吹けば特定の魔物を引き寄せる事ができる」
「魔笛?」


アルトの説明を聞いたナイはシノビとハンゾウが飼育している魔獣の事を思い出す。シノビ兄妹が相棒として飼っている魔獣の「クロ」と「コク」は二人が持っている特殊な犬笛を利用する事で呼び出す事ができる。

今回のアルトが取り出した笛はシノビ兄妹が利用する笛とは別物だが、魔物を引き寄せる効果は共通していた。


「この笛を吹けばゴーレムを引き寄せる事ができる……はずだ!!」
「はず、なんですか!?」
「分からないんだよ。僕も今まで忘れてて使う機会がなかったんだ。だが、これを使えばゴーレムの注意を引く事ができる……はずだ!!」
「そこは言い切ってほしかった……」
「で、でも……その笛を吹けばこのゴーレム達もどうにかできるの!?」
「ドゴン?」


不安を煽るような説明だったが、アルトの話が事実ならばゴーレムを引き寄せる笛を使えば氷壁に迫るゴーレムの大群を別の場所に注意を引く事ができるかもしれない。しかし、それは誰か一人を囮役として使う事を意味する。


「この笛を何処か別の場所で吹けばこのゴーレム達もそこへ誘導できるはずだ!!だが、そうなると誰かが囮役になる事に……」
「囮役って……これだけの数のマグマゴーレムを引き寄せるなんて無謀過ぎますよ!!」
「いや……どうにかなるかもしれない」
「「「えっ!?」」」


ナイはアルトの話を聞いてこの状況を打破する方法を思いつき、一か八かの賭けにはなるがナイはアルトから笛を受け取ると、ドゴンに声をかけた。


「アルト、信じるからね!!ドゴン君!!」
「ドゴン!?」
「俺を向こう側に思いっきり投げ飛ばして!!」
「ナイ君!?」
「いったい何を!?」


笛を手にしたナイはドゴンに自分をマグマゴーレムの大群の反対側に投げ飛ばすように指示をする。ナイの言葉にアルト達は戸惑うが、今は事情を説明する暇も惜しいのでナイはドゴンに頼み込む。


「ドゴン君!!早く俺を投げて!!」
「ドゴン……」
「ナイ君、駄目だよ!!危険過ぎる!!」
「大丈夫、俺を信じて!!」


リーナはナイの身を案じるが、そんな彼女にナイは笑みを浮かべ、自分を信じる様に他の者も促す。そんな彼に対して他の者たちは何も言い返せず、仕方なくアルトもドゴンに命令を下す。


「やるんだ、ドゴン!!」
「ドゴォンッ!!」
「うわっ……!?」
「ナイ君!?」


ドゴンは片腕で氷壁を抑えながらもう片方の腕でナイの身体を持ち上げると、氷壁の向かい側に押し寄せるマグマゴーレムの大群を確認する。ドゴンは持ち前の馬鹿力でマグマゴーレムの反対側、つまりは火口付近に目掛けてナイを投げ飛ばす。


「ドゴォオオンッ!!」
「うわぁあああっ!?」
『ゴアッ……!?』


勢いよく投げ飛ばされたナイはマグマゴーレムの大群を飛び越え、火口の近くまで投げ飛ばされる。この時にナイは旋斧を引き抜き、落下の寸前で風属性の魔法剣を発動させて勢いを殺す。

落下の直前でナイは風属性の魔力を旋斧に纏う事で墜落の際の衝撃を最小限に抑え込み、無事に着地に成功して安堵する。そしてアルトから借りた笛を取り出してマグマゴーレムの大群を引き寄せる。


(上手くいってくれ!!)


ナイは笛を吹くと坂の方で氷壁に阻まれていたマグマゴーレムの大群が振り返り、火口の付近で立っているナイの存在に気付いた。笛の音に引き寄せられるように坂を駆けあがってナイの元へ迫る。


『ゴァアアアッ!!』
「うわぁっ……これはちょっとまずいかも」


坂を登って自分の元に迫る100体のマグマゴーレムを前にしてナイは冷や汗を流し、背中の岩砕剣に手を伸ばす。流石にこれだけの数の魔物を相手に戦うのは無理だった。

マグマゴーレムは全身が溶岩で攻勢された最も危険なゴーレム種であり、近接攻撃しかできないナイでは本来は分が悪い相手だった。しかし、何も考え無しにナイも火口に戻ったわけではなく、彼は魔笛を確認すると懐にしまい込む。


(後はこれだな……頼むぞ、相棒)


ナイは懐から別の笛を取り出すと、それを勢いよく吹いて準備を行う。時間は掛かるだろうが必ず自分を助けに味方が来る事を信じてナイは両手に大剣を構える。


「ゴアアッ!!」
「ゴオオッ!!」
「ゴルァッ!!」
「こっちだ、化物共!!」


次々と火口に迫るマグマゴーレムに対してナイは二つの大剣を振り回し、誘導するように集めていく。囲まれそうになったら「跳躍」の技能を利用して逃走し、魔法剣を駆使してマグマゴーレムを打ち倒す。しかし、数が多すぎて対処しきれない。


「ゴアアッ!!」
「あぶなっ!?」


一瞬でも気を抜くとマグマゴーレムの大群が迫り、その一体がナイの目前にまで迫ると抱きつこうとしてきた。溶岩の外殻で構成されているマグマゴーレムに抱きつかれればいくら「熱耐性」の技能を持つナイでもひとたまりもなく、瞬間加速を発動して距離を取る。


「はあっ、はあっ……流石にこれ以上はきついかな」
『ゴアアッ……!!』


火口にて100体のマグマゴーレムに追い詰められたナイは汗を流し、この汗は冷や汗なのかそれとも高温による汗なのかはもう本人にも分からない。普通の人間ならば火口の熱気とマグマゴーレムの放つ高熱によって耐え切れずに死んでいてもおかしくはない。

四方八方をマグマゴーレムに取り囲まれたナイはもう逃げ場はなく、これ以上の逃走は不可能だと判断したナイは岩砕剣を背中に戻して旋斧を構えた。それを見たマグマゴーレムの大群は一斉に襲い掛かってきた。


「「「ゴオオッ!!」」」
「うおおおおっ!!」


ナイは全力で旋斧を振りかざすと、正面から飛んできたマグマゴーレムに目掛けて大剣を振り払う。下手に切り付ければマグマゴーレムの肉体を切り裂いてしまう恐れがあり、敢えて大剣の刃の腹の部分を叩き付けて吹き飛ばす。


「おらぁっ!!」
「ゴアッ!?」
「ゴガァッ!?」


マグマゴーレムを吹き飛ばす際についでに他の個体も巻き込み、一度の攻撃で二体のマグマゴーレムをぶっ飛ばす。それでも焼け石に水であり、大群を止める事はできない。


「ゴオオッ!!」
「くっ……このぉっ!!」


拳を振りかざして殴りつけようとしたマグマゴーレムに対してナイは旋斧から岩砕剣に切り替え、刃を腹部に貫通させる。この状態でナイは剛力を発動させて大剣にマグマゴーレムが突き刺さった状態で振り回す。


「おらおらおらおら!!」
「ゴアアッ!?」
「ゴウッ!?」
「ゴオッ!?」


大剣にマグマゴーレムを突き刺した状態でナイは身体を回転させ、あまりの勢いに大剣に突き刺さっていたマグマゴーレムは腹部から刃が抜けて火口に落とされてしまう。

いくら切りつけようと体内の核を破壊しなければゴーレムを倒す事はできないため、ナイは確実に敵を倒す事よりも、今は生き延びる事を優先して止めを刺す事に拘りはしない。下手に倒そうとすれば時間もかかるし、他の個体に狙われやすい。


(無理に倒す必要はない、時間だけを稼げ!!)


マグマゴーレムを打ち倒しながらも止めを刺さず、ナイは相棒が来てくれる事を信じて戦い続ける。しかし、遂にはナイは火口の付近まで追い詰められてしまい、今度こそ逃げ場を失ってしまう。


「ゴオオッ!!」
「くっ……ここまでか」


これ以上に下がれば火口の溶岩に落ちてしまう場所にまでナイは追い詰められ、一際大きなマグマゴーレムがナイの元へ迫る。これ以上の時間稼ぎは不可能だと判断したナイは岩砕剣を正面に構えると、接近してきたマグマゴーレムに対して刃を振り下ろす。


「ゴオオッ!!」
「だああっ!!」


正面から突っ込んできたマグマゴーレムに対してナイは岩砕剣を勢いよく振り下ろし、バル仕込みの「剛剣」の剣技で見事にマグマゴーレムの肉体を真っ二つに切り裂く。

身体を左右に切り裂かれたマグマゴーレムは悲鳴を上げる暇もなく地面に倒れ込むが、この時にマグマゴーレムの肉体から溶岩が噴き出してナイの元へと飛び散る。


「あちちっ!?くそっ……ごめん、アルト!!」


事前にナイはアルトから熱耐性が高いローブを受け取って身に付けていたが、咄嗟に溶岩がこびり付いたローブを脱ぎ捨ててしまう。いくら熱耐性があると言っても溶岩には耐え切れず、そのままアルトの貰ったローブは燃え尽きてしまう。

マグマゴーレムを倒す際は溶岩が散らばる可能性を考慮してナイも慎重に戦っていたのだが、ローブを失った事で溶岩が身体に浴びればナイもどうする事もできない。いくら「熱耐性」の技能があろうと溶岩を浴びればひとたまりもなかった。


『ゴオオオッ!!』
「ははっ……あと、99体ぐらいかな?」


ナイが倒した1匹を除いたとしても99体のマグマゴーレムが残っており、これらの敵を損傷を受けずに倒す事など不可能に等しい。しかし、ナイは生き延びるために岩砕剣を構えて戦おうとした時、少し遠くの方から鳴き声が響く。



――ウォオオオンッ!!



その声を聞いた途端にナイは無意識に笑みを浮かべ、山の麓からわざわざ駆けつけてくれたの姿を確認するために顔を上げる。そこには狼車を麓に残して駆けつけてくれたビャクの姿が存在した。
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