貧弱の英雄

カタナヅキ

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砂漠の脅威

第932話 グツグ火山の脅威

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「――これは思っていたよりも厄介ですね」
「う、ううっ……」
「た、助けてくれぇっ……」
「死にたくねえっ……」


バッシュの命令を受けてイリアは村に赴くと、酷い火傷を負った鍛冶師達の姿を見てため息を吐き出す。とりあえずは治療するために薬を分け与えるが、火傷の類は回復薬の類でもすぐには治らない。

回復薬は人間に自然治癒力を高める効果を持つが、火傷の場合は完治まで時間が掛かり、薬よりも回復魔法で治す方が速い。そのためにナイもイリアに同行し、彼等に治癒魔法を施す。


「大丈夫ですか?すぐに治してあげますからね……ヒール」
「うあっ……い、痛みが引いていく?」
「坊主、治癒魔導士だったのか!?」
「いえ、でも回復魔法の基礎は教わりました」


ナイは陽光教会に世話になっていた頃に回復魔法も習得しており、さらに聖属性の魔力を自在に操れるようになってからは回復魔法の精度も上がっていた。イリアも火傷用の薬を取り出して怪我人に分け与える。


「この痛み止めを飲んでください、これから火傷にちょっと特別な薬を塗ります。このままの状態で薬を塗ると大変な事になりますから、痛み止めは必ず飲んでください」
「い、いったい何が起きるんだ?」
「痛み止め無しだとあまりの激痛に耐え切れずに暴れ狂う危険性があります」
「どんな薬だ!?」


イリアの説明を受けた鍛冶師達は驚愕の表情を浮かべるが、今は怪我をした者達を救うために彼女の指示に従う。怪我人に痛み止めと治療薬を渡した事で一先ずは全員の治療を終えた後、詳しい話を彼等から伺う。


「こんな火傷を負うなんていったい何があったんですか?マグマゴーレムにでも襲われましたか?」
「ああ、その通りだ……唐突に火口の方からマグマゴーレムが現れやがった」
「えっ!?ここにもマグマゴーレムがいるんですか?」
「基本的に火山地帯にはマグマゴーレムは生息していますよ」
「といっても、奴等は滅多に姿を現さないんだが……今回は違った」


火山の採掘に向かった鍛冶師達を襲ったのは先日にナイ達も遭遇した「マグマゴーレム」らしく、唐突に現れたマグマゴーレムにやられて鍛冶師達は怪我を負ったらしい。

但し、この火山に生息するマグマゴーレムは滅多に火口から離れる事はなかったのだが、襲われた鍛冶師達は火山の中腹で採掘をしていた所、急に現れたマグマゴーレムに襲われて逃げ帰ってきた。


「奴等が今まで火口から離れて襲い掛かってくる事なんてなかったはずだ……それなのにいきなり現れたんだ」
「マグマゴーレムに襲われるなんてここ数十年はなかったはずだぞ。いったい、何が起きてやがる……」
「もういい、これ以上に無理にしゃべるな……生きて帰れただけ有難いと思え」


グツグ火山に暮らす鍛冶師達がマグマゴーレムに襲われたのは数年ぶりらしく、それだけに今回の出来事の異常性が伝わった。グツグ火山で何か異変が起きて火口に暮らすはずのマグマゴーレムが山を下りてきたのかもしれない。


「ふむ……これは出発前に少し調べる必要がありますね」
「調べる?まさか、火口に向かうんですか?」
「原因を突き止めない以上、ここの人たちも危険な目に遭わされるかもしれませんよ?それにナイさんも気になっているんでしょう?」
「それはそうだけど……」


イリアは鍛冶師達の話を聞いてグツグ火山のマグマゴーレムが火口から離れて山の中腹にまで降りてきたのかが気にかかり、調査に出向くようにナイに促す。ナイとしても怪我をした人たちを見て、彼等が襲われた原因だけでも突き止めるために同行する――





――怪我人の治療を終えてナイ達はバッシュに報告を行うと、彼も鍛冶師達がマグマゴーレムに襲われたという話を聞いて気にかかり、ハマーンが目を覚めるまで飛行船を動かせないためにナイとイリアの調査に許可を出す。


「なるほど、火山の調査か……分かった、いいだろう。但し、期限は日没までだ」
「日没までに原因を調査して戻って来ればいいんですね?それなら楽勝ですよ」
「え、でも山を登るとしたら結構大変なんじゃ……」
「こういう時の事を想定して騎乗用の魔獣も用意してるんですよ」


イリアによると飛行船には騎乗用の魔物も飼育する部屋もあるらしく、すぐに兵士が山を登る際に役立つ魔獣を連れてきた。


「シャアアッ!!」
「うわっ!?何、この大きな蜥蜴……」
「リザードマンです。正確に言えばリザードマンの幼体ですね」


飛行船に飼育されている魔獣はリザードマンの幼体であり、ナイが知っているリザードマンとは大分外見が違った。リザードマンと言っても生まれた環境と育ち方によって外見は大きく異なるらしい。


「安心して下さい、このリザードマンは人を襲わないように調教しています。ナイさんが戦ったリザードマンのような狂暴な魔物じゃありませんよ」
「へ、へえっ……」
「シャアアッ……」


イリアの説明を受けてナイは恐る恐るリザードマンの幼体に近付くと、人間が近付いてもリザードマンは反応せず、むしろ興味深そうにナイの顔を覗き込む。

ナイがこれまで交戦したリザードマンは野生の種だが、飛行船に連れ込まれたリザードマンは卵から育てて人間の手で世話を受けている。野生のリザードマンは厳しい環境を生き抜くために力を身に付ける必要があるが、人の手で育てられたリザードマンは特に大きな危険もなく安全に育てられる。その影響なのか両者の外見は異なる。

野生種のリザードマンは人間のように二足歩行ではあるが、生まれた時点では蜥蜴のように四足歩行である。成長するにつれて二足歩行で行動するようになるのは厳しい環境を生き抜くため、リザードマンが両腕を使っての攻撃手段を身に付けたためである。

しかし、人の手で育てられたリザードマンは野生種のリザードマンとは異なり、比較的に安全な場所で育てられ続けたために、身体が成長しても四足歩行のままである。そのために野生種と比べると戦闘力は劣るが、人間の言う事を忠実に従うので騎乗用の魔物として愛用されていた。


「このリザードマンはまだ幼体ですが、山登りなら役立ちますよ。それに人間に慣れているので私達を襲う事はありません」
「なるほど……餌は何を与えているの?」
「穀物だけです。下手に動物や魔物の肉を与えるとその味を求めて暴れ出す危険性があるので肉を与えないんです」
「へ、へえっ……」
「シャアアッ?」


リザードマンは雑食だが人の手で育てられた個体は肉類は与えられず、その影響もあって野生種よりも成長が遅い。下手にリザードマンに肉を与えてしまうと、肉の味を覚えて自ら求めるようになり、他の動物や魔物を襲い掛かる。最悪の場合は自分を育てた人間にまで手を出す可能性もある。

そのためにリザードマンを連れて移動する際は穀物の餌を用意しなければならず、定期的に餌を与えないとリザードマンは言う事を聞かない。逆に言えば餌さえ与えればリザードマンは従うため、今回の山登りには最適な魔物だとイリアは判断して連れて行く。


「それじゃあ、行きましょうか」
「えっ!?二人だけで行くんですか?」
「大人数で動けば見つかる恐れがありますからね」
「お前達だけで大丈夫なのか?」
「問題ありませんよ、それじゃあ夕方までには戻ってくるので勝手に飛行船を飛ばさないでくださいね」


今回の調査はイリアはナイだけを連れて行う事を告げると、彼女はリザードマンに乗り込む。ナイはリザードマンに乗るのは初めてだが、イリアの後ろに座ると乗り心地は悪くなかった。


「うわぁっ……まさかリザードマンに乗り込む日が来るなんて思いもしなかったよ」
「本来は貴族でもないと飼育する事ができない貴重種ですからね、しっかりとくっついて下さい」
「わ、分かりました」
「気を付けて言ってくるんだぞ……時間までには必ず戻れ」
「はいはい、了解しました」


バッシュに見送られてナイ達はリザードマンの背中に乗り込んで出発すると、リザードマンは普通の馬よりも素早く移動を行う。


「シャアアッ!!」
「うわっ!?」
「しっかりと掴まって下さい!!山道はもっと揺れが激しくなりますからね!!」


リザードマンはイリアの言う通りに険しい山道に入っても移動速度は落とさず、普通の馬よりも早く坂道を登っていく。この調子ならば火口に辿り着くまでそれほどの時間は掛からないと思われたが、思っていた以上に揺れが激しくてナイは酔いそうになる。


「うっ……け、結構揺れますね」
「うぷっ……私もちょっと気分が悪くなってきました」
「イリアさんも!?」
「シャアッ♪」


背中の二人が気持ち悪そうにしている事も気づかず、リザードマンは元気よく山道を移動する。飛行船に居た時はリザードマンは外にも出られずに閉じこもっていたため、久々に身体を動かせて嬉しそうだった。

山道をリザードマンは駆け上り、途中で何度か休憩を挟んだが昼前には目的地である火口付近に辿り着く。この時にイリアは火口へ赴く前に熱でやられないようにナイに熱耐性が高いマントを渡す。


「ナイさん、これを纏ってください」
「あ、これって……熱に耐性があるマントだよね?前にアルトから借りたよ」
「そうです。これを身に付ければある程度の熱さには耐えられます」
「でも、リザードマンは大丈夫?ここまでの移動で疲れていない?」
「シャアアッ?」


自分達を背負ってここまで移動したリザードマンが疲れていないのかを心配するが、当のリザードマンは火山の熱気の影響を全く受けていないかのように平気だった。


「このリザードマンは元々暑い地方で育てられてたんです。だからこれぐらいの熱気は平気なようですね」
「そ、そうか……無理しないでね」
「シャアアッ♪」


ナイがリザードマンの頭を撫でるとリザードマンは嬉しそうに彼に頭を擦りつけ、すっかりとリザードマンはナイに懐いていた。今まで人を襲うリザードマンとしか遭遇してこなかったため、ナイはリザードマンの行動に新鮮さを感じる。
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