貧弱の英雄

カタナヅキ

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嵐の前の静けさ

第974話 選抜の儀式

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「お待たせしました!!魔剣「氷華」です!!」
「おおっ、丁度いい。その机の上に運んでくれるか?」
「はっ!!」


騎士は袋詰めされた氷華を机の上に置くと、慎重に袋を開いて氷華を取り出す。この時にナイは氷華を間近で見るのは初めてのため、その美しさに見惚れてしまう。


「わあっ……これが魔剣「氷華」なんですか?」
「なんと美しい……」
「ふんっ……で、これをどうする気だい?」


会議室にいる全員が氷華の存在感に圧倒され、その中でテンだけはつまらなそうな表情を浮かべていた。彼女にとっては氷華は敬愛していた王妃の形見であり、できる事ならば彼女以外の人間には触れて欲しくはなかった。

氷華をマホがこの場所へ運び出した理由を説明する前に、彼女は会議室の中の人間を見渡し、この時に氷華と同じ属性の魔力を宿す「蒼月」の使い手のリーナを指名した。


「リーナよ、この中で氷華を扱える可能性が一番高いのはお主じゃ」
「えっ!?ぼ、僕が!?」
「ふむ……リーナよ、試してみたらどうだ?」


マホの言葉に彼女の父親であるアッシュは頷き、他の者も反対はしない。リーナは恐る恐る机の上の氷華に手を伸ばし、覚悟を決めた様に柄を掴む。


「え、えいっ!!」
「……どうじゃ?何か感じるか?」
「だ、大丈夫なのか?」


リーナが触れても特に変化は起きず、氷華の恐ろしさを知っているガロは心配そうに尋ねる。リーナは慎重に氷華を持ち上げると、鞘から刃を抜いた。

鞘から刃が抜かれると蒼月のように青く光り輝く刀身が露わとなり、それを見た者達はあまりの美しさに言葉を失う。しかし、氷華を握りしめているリーナだけは違和感を感じたのか、彼女は慌てて鞘に刃を戻す。


「うっ……」
「どうしたリーナ!?」
「急に頭が痛くなって……」
「むうっ……駄目だったか」


ガロの時のように鞘から抜かれた氷華が暴走する事はなかったが、触れただけでリーナは頭痛を覚えて氷華を机の上に戻す。その様子を見ていたイリアがリーナの元に赴き、額に触れて熱を測る。


「ふむ、体温が低くなってますね。それに頭痛を感じたという事は……魔力を吸収されたようですね」
「何!?リーナは大丈夫なのか?」
「う、うん……ちょっとくらっとしただけだよ」
「まあ、放っておいても大丈夫ですよ。念のために薬も分けてあげますね」


イリアはリーナの容体を調べて氷華に触れた際に魔力を奪われ、その影響で彼女が頭痛を起こしたと判断した。イリアが常備している魔力回復薬を受け取ると、リーナは薬を飲んだ途端に頭痛が和らぎ始めた。


「ふうっ……ありがとう、イリアさん。大分楽になったよ」
「いえいえ……それにしても少し触れただけで頭痛を引き起こす程に魔力を奪われるなんて、相当に危険な代物ですね」
「そりゃそうさ、その魔剣を扱えるのは王妃様だけだったんだ……あの人は本当に凄い人だったよ」


一番期待されていたリーナでさえも氷華に触れただけで頭痛を引き起こし、それを見ていたテンは氷華は王妃以外には扱えないと確信する。念のために他の者も試しに触れていくが、だいたいの人間がリーナと同じように反応を示す。


「うおっ!?な、何だこれ……」
「うっ!?寒気がっ……」
「これは……きついな」
「ひゃんっ!?ヒヤッとしますわ!!」


黄金級冒険者のガオウ、フィルも試しに触れようとしただけで異様な寒気を引き起こし、銀狼騎士団の副団長のリンは触れる事はできたがリーナと同じように頭痛を起して即座に手を離す。黒狼騎士団のドリスに至っては触れる前に冷気を感じ取って手を離してしまう。

色々と試した結果、水属性に適性がない人間は触れる事すらもできず、適性が低い人間の場合は触れる事はできるが氷華の力を使いこなせない事が判明した。


「ほら、もう分かっただろう?そいつは誰にも扱えないのさ」
「いや、まだじゃ……後一人だけの残っておる」
「……ナイかい」
「えっと……じゃあ、やってみますね」


最後の一人はナイであり、彼が氷華に触れようと全員が注視する。皆に見られながら氷華に触れる事にナイは緊張するが、柄に手を伸ばした時に彼は手を止める。


「うわっ!?」
「きゃっ!?」
「ど、どうしたんだい!?」
「い、いや……凄い鳥肌が立ちました」


氷華に触れる前にナイは伸ばした腕に鳥肌が立ち、本能的に触れる事を拒否した。その反応を見て彼も氷華を扱えない事が確定し、予想はしていたが氷華の使い手になりえる可能性を持つ人間はこの会議室にはいない事が判明した。


「失敗、か……」
「ほらね、あたしの言った通りだろう?ここにいる奴等が無理なら他の人間だって無理さ」
「ナイ君でも駄目なんて……」
「さっきの反応を見る限り、やっぱりナイさんは聖属性の適性が高過ぎるようですね」


イリアの見立てでは他の属性の適性が高い人間の場合、氷華に触れる前に身体が拒否反応を引き起こすのが確定した。実際にナイの他にドリスやヒイロと言った火属性の適性が高い二人の場合は氷華に触れる事すらできなかった。

氷華の使い手の条件は水属性の適性が高い事、そして氷華の能力を引き出せる程の膨大な魔力の持ち主にしか不可能だと発覚する。


「やはり無理か……」
「だから言っただろう?氷華を使いこなせる人間なんていないよ」
「仕方あるまい、氷華はもう一度保管してくれるか?」
「はっ!!」


王国騎士達はマホの言う通りに氷華を運び出し、もう一度厳重に保管される。マホがこの場に存在する者達の中ならば氷華の使い手に選ばれる人材がいるかと思ったが、結局は無駄に終わってしまった。

それでも彼女は氷華と炎華の新しい使い手を探す事は諦めず、いずれ他の人間にも氷華を試す事を心の中で誓う。しかし、今はマグマゴーレムの問題解決を優先し、彼女は次の案を出す。


「氷華に頼れない以上は仕方あるまい……やはり、あの二人の力を借りるしかあるまいな」
「あの二人?」
「誰の事だ?」


マホの言葉に全員が首を傾げ、彼女はしばらくの間は考え込んだ後、意を決したようにある二人の名前を告げた。


「王都の監獄で収監されておるロランとゴウカをする事を儂は陛下に頼もうと思う」
「な、何だと!?」
「正気か!?」
「ええっ!?」
「ちょ、ちょっと待ちな!!何を言い出すんだい!?」


思いもよらぬマホの言葉に誰もが驚きを隠せず、テンでさえも彼女が何を言い出すのかと焦ってしまう。しかし、この状況でマホは冗談の類を言い出すはずがなく、彼女は真面目な表情で答えた。


「儂は本気じゃ。あの二人を一時的に釈放して共に戦ってもらう。元大将軍に黄金級最強の冒険者が味方に加わればこれ以上に心強い事はないじゃろう?」
「い、いやいやいや!!」
「いくらなんでもそれは……問題があるのでは?」
「でも、確かにあの二人がいれば……」


マホの言葉に他の者たちは話し合い、彼等二人が作戦に加わればこれ以上に心強い味方はいない。ロランはこの国の最強の将軍にして騎士でもあり、ゴウカは間違いなく王国一の冒険者なのは確かだった。

二人の実力は疑いようがなく、あの伝説の武人「リョフ」にも劣らない。だが、どちらも現在は収監中の囚人である事が問題だった。しかし、国家の一大事とあればマホは体面を気にしている場合ではないと告げる。


「陛下には儂が報告し、全ての責任は儂が負う。儂の見立てでは二人とも国に逆らうつもりはない。それに仮釈放と言っても条件を付ける」
「条件……とは?」
「あの二人を監獄から出す際は拘束用の魔道具を取り付ける。二人にはマグマゴーレムの討伐の際に大きな功績を残さなければ監獄に戻る事を伝え、仮に脱走を計ればその時は儂が対処しよう」
「マホ魔導士……本気であの二人を解放するつもりか?」
「これは仕方がない事じゃ……賛成の者は手を上げてくれ」


マホの言葉に会議室の全員が黙り込み、やがてちらほらと手を上げる者が出始めた。その中にはアッシュやテンの姿もあり、二人ともゴウカはともかくロランは信用に値する人物だと信じていた。当然ながらロランに直々に訓練を付けて貰っているナイも賛成する。


「まあ……ロラン大将軍が戻ってくるのならこっちも気が楽になるけどね」
「うむ、ロランは王国に忠誠を誓う武人……奴の父親が犯した罪をこれ以上に背負う必要はない。それに罪を償うのであれば監獄にいるよりもこの国に尽くした方がいいだろう」
「わ、私も……ロラン大将軍に復帰して欲しいです」
「賛成ですわ」
「僕も賛成です!!」


ロランを信じる者は多く、彼の釈放に関してはだいたいの人間が賛同した。しかもゴウカの方の釈放に関して賛成する人間もいた。


「……まあ、あいつとは決着がついてないからな。俺は賛成するぜ」
「よく言うわい……まあ、儂もあいつとはそれなりに長い付き合いじゃ。ここは友人として賛成するか」
「「…………」」


ゴウカの釈放はガオウとハマーンが賛成するが、リーナとフィルは手を上げなかった。彼が犯した罪は決して軽くはなく、もしも彼が再び王国の敵に回れば大変な事態に陥る。

多数決の結果、ロランとゴウカの釈放に賛成する者が多く、マホは宣言通りに国王に直訴しに向かう――
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