貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1015話 妖刀の封印の地「牙山」

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「妖刀が隠されている場所に関しては心当たりは付いている。しかし、その場所が問題がある」
「問題、というと?」
「……その場所は我々シノビ一族の人間でも滅多に足を踏み入れない危険地帯だ」
「危険地帯?どういう意味ですか?」


シノビによると彼が二つの巻物に記されていた暗号を解いて発見した場所は、シノビ一族の人間でさえも立ち入れない危険な魔獣が生息する地域だと判明した。


「その場所は「牙山」と呼ばれている。名前の通りにその牙山は動物の牙の如く歪な形をした岩山だ」
「その岩山に妖刀が封じられているというのか?」
「間違いありません、しかし過去に牙山に足を踏み入れた人間は殆どが死んでいます。奇跡的に生還を果たした人間もいますが、その人間達も致命傷を負って最終的には死んでしまいました」
「なんと……」
「いったいその場所には何が住んでおるのだ!?」


牙山に生息する魔獣のせいで誰一人として近づけなかった。その魔獣の正体というのが口に出すのも恐ろしく、シノビは震え声で語る。


「我が国ではその魔獣の事を「牙獣」と呼んでいました……名前の通り、恐ろしい牙を持つ魔獣です。しかし、私の調べたところによると獣人国にも同じ魔獣が生息しており、その名前は「牙竜」と呼ばれているそうです」
「が、牙竜だと!?」
「まさか……竜種か!?」
「有り得ぬ!!我が国の領地には火竜以外に竜種は存在せんはずだぞ!?」


牙竜の名前を耳にした途端に国王は立ち上がり、他の者たちも動揺を隠せない。牙竜とは獣人国の領地に生息すると言われる「竜種」であり、全ての竜種の中で最も気性が激しく、火竜の次に人々に被害を与えた竜種として語られていた――





――牙竜は竜種の中でも珍しく「群れ」を成して行動を行う。単体の戦闘力は火竜には及ばないが、それでも竜種以外の魔物達と比べると一線を画す。牙竜は火竜と違って空を飛ぶ能力はないが、それを補って余りある程の機動力を誇る。

牙竜の移動速度は尋常ではなく、その速さは白狼種をも上回ると言われている。しかも彼等の鋭い爪と牙は岩石を破壊し、破損しても新しい牙や爪に生え変わる。厄介な事に生え変わった牙や爪は以前の物よりも強靭となり、彼等はその習性を生かして強敵との戦闘の度に爪や牙を壊れるほど新しく生えた牙と爪は強くなっていく。

本来は獣人国に生息する牙竜だが、彼等は獣人国の北の地を生息圏としており、獣人国は決して牙竜の生息地には足を踏み入れない。稀に生息地から離れた牙竜が獣人国の村や街を襲うという事件があり、かつて牙竜が獣人国の都市を滅ぼした事もあった。

火竜には劣るとはいえ、牙竜の厄介な点はその機動性と強靭な生命力であり、白狼種以上の移動速度と大型の魔物さえも一撃で殺す程の牙と爪を持つ相手に敵う手段はない。過去に獣人国は万を越える兵士を派遣して牙竜に挑んだが、結果は一人残らず牙竜の群れに殺されたという記録も残っている。



冒険者になった後にシノビは独自に調べ、牙山に生息する魔獣の正体が獣人国に生息する「牙竜」と特徴が一致するという。しかし、多少異なる点があるとすれば獣人国の牙竜は100年ほどで死亡するらしいが、牙山に潜む魔獣の場合は少なくとも数百年以上は生きている事が判明した。


「俺も妹も実際に牙山に訪れて魔獣を確認したわけではないが、あの地を調べようと何十人もの忍が向かった。しかし、殆どの人間が殺され、辛うじて生きて帰って者も致命傷を負って助からなかった」
「あ、あの地に妖刀が封じられていると知って……拙者達にはどうしようもないと思ったでござる。あそこは危険過ぎる、はっきり言って回収なんて無理だと思ったでござる」
「なるほど……だから妖刀の居場所を知りながら我々に黙っていたのか」


二人の話を聞いて彼等が妖刀の隠し場所を既に見抜いていたにもかかわらず、報告を行わなかった原因は牙山に生息する魔獣を恐れていた事が発覚する。しかし、その話を聞かされた者は逆に安心する。


「父上、話を聞く限りでは牙山にそれほど恐ろしい存在がいるのであれば誰も妖刀に手を出せないのでは?」
「そうだな……竜種を屠れる程の力を持つ存在でもない限りは妖刀の回収は不可能でしょう」
「そうじゃな、つまりアンという輩も妖刀の回収は不可能という事か」


シノビの話を聞いて牙山に封じられた妖刀はその地に生息している「牙竜」を始末しなければどうしようもなく、アンがいくら強力な魔物を従えて居ようと竜種に勝る魔物を従えている可能性は有り得ない。

魔物の中でも竜種は生態系の頂点に位置しており、竜種を倒すのであればそれこそ竜種を用意しなければならない。しかし、その話を聞かされたアルトだけは嫌な予感を抱き、彼は最悪の可能性を皆に語る。


「父上……もしも、あくまでももしもの話なのですが、仮に牙山に生息する魔獣をアンが従える可能性もあるのでは」
「……な、何じゃと!?」
「馬鹿な、そんな事は……!!」
「有り得ない、とは言い切れないのでは?」


アルトの言葉に玉座の間の人間達に衝撃が走り、確かに彼の言う通りにアンが牙山に生息する「牙竜」を従えさせる可能性もある。彼女は普通の魔物使いではなく、ネズミによると魔物使いの中でも特異な存在だとナイは聞かされていた。

牙山に封じられている妖刀を手にするためには牙竜の存在は無視できず、この牙竜をアンが従える事ができたとしたら彼女は大量の妖刀だけではなく、竜種という強大な戦力を味方につける事ができる。そうなった場合、最悪の事態に陥る。


「シノビ!!本当にお前達の故郷に牙竜が生息するというのか!?」
「間違いないかと……」
「で、ですが噂によると牙竜は竜種の中でも食欲旺盛でトロールのように大量の餌を食さなければならない生き物と聞いています!!どうしてその牙竜は牙山から離れないのですか!?」
「それは我々にも理由は分かりません。しかし、あの地には何か秘密が隠されている……もしかしたら牙山に妖刀が隠されているのは、牙竜に守らせるためかもしれませぬ」
「という事は……牙山に暮らす牙竜は、自然に住み着いたわけじゃなくて人為的に牙山を守るために残された竜種という事かい?」
「そ、そんな事があり得るのか?」


シノビの言葉にアルトは牙山に生息する牙竜は偶然に住み着いたわけではなく、何者かの意思で牙山から離れられないようにされたのではないかと考える。

この推測は絶対にあり得ないとは言い切れず、例えばナイが王都に来たばかりの頃、魔獣が街中で暴れないように拘束具の魔道具をビャクに取り付けられた事があった。魔道具の中には魔物の行動を制限する種類の魔道具が存在し、それらを利用して牙山に牙竜が離れられないように拘束している可能性も否定しきれない。


「竜種を拘束する程の魔道具があるとは思えないが……だが、和国は妖刀を作り出す技術がある。それを応用すればもしかしたら……」
「……可能性はあると思います。かつて和国には腕利きの鍛冶師が揃っていました、彼等ならばもしかしたら竜種を制御する魔道具を作り出せたかもしれません」
「信じられん……しかし、その話が事実だとすれば辻褄は合う」


妖刀が封じられた地に都合よく牙竜が住み着くとは考えられず、しかも何百年も住処を変えずに暮らし続けているとすれば信憑性は増す。

だが、それが事実ならば牙山に生息する牙竜の元に魔物使いのアンが訪れるのは非常にまずい。もしもアンが牙竜を服従させる事に成功した場合、彼女は大量の妖刀と牙竜という恐ろしい戦力を手に入れる。


「なんとしても止めねばならぬ!!聖女騎士団の報告はまだか!?」
「今だに届いておりません……恐らく、アンは追って街を転々と回っているのでしょう」
「むむむっ……」
「落ち着いて下さい、父上。アンが王城に忍び込んでからそれほど日数は経過しておりません。奴が旧和国の領地に辿り着くまで時間はあります」
「そうですわね、どれだけ早い馬を用意したとしても王都からイチノまで移動するには一、二か月は掛かりますわ」
「……ただのの場合ならな」


アンが王城に忍び込んだ日数を考えればまだ彼女が旧和国の領地に辿り着いたとは思えない。しかし、彼女が仮に馬よりも早い生物を従えている場合、一刻の猶予もない。


「仮にアンが馬よりも早い魔獣を従えていた場合、聖女騎士団は追いつく事は不可能だろう。そうなると我々が動かねばなりません」
「し、しかし……どうすればいいのじゃ?」
「飛行船を使うしかないでしょう。あれならば数日で目的地へ辿り着けます。確実にアンよりも早く、旧和国領地に辿り着けます」
「おおっ、その手があったか!!」


バッシュの言葉に国王は納得しかけるが、ここで問題を思い出す。それは飛行船を運転できるハマーンはもう亡くなっており、彼以外に飛行船を運転できる人物は一人しかいない。


「兄上、飛行船を動かすのであれば僕の力が必要でしょう」
「……そうなるな」
「ま、待て!!アルトに飛行船を運転させるというのか?いくらなんでもそれは……」
「父上、僕以外に飛行船を運転できる人間はいません。どうかお任せください」


国王はアルトに飛行船を運転させ、危険な魔獣が住む地域に彼を派遣する事を躊躇する。しかし、彼以外に飛行船を運転する技術を持つ人間はおらず、ここは彼に任せるしかなかった。


「むむむっ……シノビよ、お主には色々といいたい事がある。しかし、これからアルトが向かう先はお主の故郷、つまりはお主の力を借りなければならぬ。いいか、くれぐれもアルトを危険な目に遭わせるのではないぞ」
「……誓います、我が命に代えてもアルト王子をお守りしましょう」
「約束できるか?」
「約束します」


シノビの言葉に国王はため息を吐き出し、仕方なく彼はアルトに飛行船の運転を任せ、そして和国の旧領地へ向かう面子を厳選した――
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