貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1043話 一人じゃない

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(眩しい……何だ?)


自分の顔に光が当てられた事にナイは驚き、どこから光が当てられているのかと視線を向けると、ナイは自分の反魔の盾に太陽の光が反射して自分の顔に当たった事に気付く。

ただの偶然だろうが、ナイは反魔の盾の跳ね返した光を浴びた途端、この反魔の盾の本来の持ち主であるゴマンを思い出す。彼を思い出したナイはある事に気付き、自分は今日まで生き延びる事ができたのはこの盾のお陰だと思い出す。


(そうだったね、ゴマン……それに爺ちゃんもいる)


ナイはアルの形見である旋斧に視線を向け、この盾も旋斧もナイが信頼する二人から受け継いだ物である。自分にはこんなにも心強い味方が常に居た事を思い出し、ナイは初心を思い出して自分の持てる全てを利用して戦う事にした。


(そうだ、僕は一人じゃない……爺ちゃんもゴマンも一緒に戦ってくれるんだ!!)


気を取り直したナイは牙竜と向き合い、その表情は完全に恐怖を打ち消していた。先ほどまで孤独感で心が押し潰されそうになったが、亡き養父と親友の形見が傍にある事を思い出してナイは戦う覚悟を決める。


「諦めるもんか……絶対に!!」
「グギャッ……!?」


自分に対して恐怖を抱いていたはずのナイが唐突に変化した事に牙竜も気づき、戸惑うように距離を置く。そんな牙竜を見てナイは旋斧を背中に戻し、装着していた刺剣を取り出す。


(この刺剣だってアルトが改造を加えたんだ!!)


この場にはいないアルトの事を思い出し、刺剣を手にしたナイは柄の部分に取り付けられている風属性の魔石を操作する。アルトの改造を施した刺剣は風属性の魔石を利用して貫通力と移動速度を高め、攻撃に利用する事ができる。


「喰らえっ!!」
「グギャッ!?」


命中と投擲の技能を生かしてナイは牙竜に目掛けて刺剣を投げ放ち、予想外の攻撃を行ったナイに牙竜は咄嗟に右前脚を顔面に構える。彼が投げ放った刺剣は空中で高速回転しながら接近し、牙竜の羽根に衝突する。

刺剣の刃はミスリル製であり、これを打ったのは王国一の鍛冶師であるハマーンだった。ハマーンによって刃が取り換えられた刺剣は攻撃威力が増し、土鯨級の硬さを誇る牙竜の鱗を抉り、刃が体内にまで突き刺さる。


「グギャアアアッ!?」
「そこだっ!!」


刺剣によって右前脚を負傷した牙竜は悲鳴を上げ、その隙を逃さずにナイは瞬間加速を発動させて接近する。彼は旋斧を振りかざし、負傷した箇所に目掛けて刃を叩き付けた。


「だああっ!!」
「ッ――――!?」


傷口に目掛けて振り下ろされた旋斧の刃がめり込み、それによって牙竜の体内に直接闇属性の魔力が流れ込む。その影響で牙竜は生命力を大きく削られてめり込み、その隙にナイは距離を置く。

調子に乗って追撃を加えれば牙竜の反撃を受けるかもしれず、ナイはドルトンから授かった左腕の闘拳に搭載している「フックショット」を利用する。近くの森の樹木に目掛けてナイはフックショットを撃ち込み、それを利用して身体を引き寄せてその場を離脱した。


「グギャアアアッ!!」
「うわっ!?」


ナイがフックショットで退避した直後、牙竜は左前脚を振りかざしてナイが立っていた場所に叩き付ける。その結果、左前脚は地面の中に陥没し、それを見たナイはもしも判断が遅ければ自分は死んでいたと冷や汗を流す。闘拳を与えてくれたドルトンに感謝しながら改めて構える。

そろそろ強化術が切れる頃合いだと判断し、一旦離れて森の中に逃げ込む。強化術が完全に切れる前にナイは身を隠し、煌魔石を利用して肉体の回復に専念する。


(ふうっ……やっぱり、モモの煌魔石が一番だな)


モモが作り出した煌魔石は普通の聖属性の魔石よりも魔力が宿り、回復効果も高い。ナイは魔力を聖属性の魔力を利用して再生術を発動させ、強化術の反動で傷ついた肉体を治療する。



――グァアアアアッ!!



木々を薙ぎ倒す音と牙竜の怒りの咆哮が響き渡り、どうやら森の中に逃げ込んだナイを追って牙竜が暴れているらしい。しかし、ナイはそれを予測して事前に「隠密」の技能を発動させて気配を殺す。

障害物の多い森の中でナイは気配を殺して身を隠し、今の所は順調に牙竜に損傷を与えていた。しかし、牙竜との戦力差は大きく、相手の攻撃を一発でもまともに受ければナイは敗北する。それでも他の仲間が駆けつけるまでナイは時間を稼ぐ事に集中し、肉体が回復するとナイは森の中で身を隠す。


(時間を稼ぐんだ、一秒でも長く……そうすれば皆が来てくれる)


牙竜の様子を伺いながらナイは旋斧を握りしめ、今度はどのような攻撃で牙竜を翻弄するのか考える。こんな状況だというのにナイは無意識に笑みを浮かべ、気持ちが落ち着いた事で心の余裕ができた。


(これまでの経験を全部生かすんだ)


ナイは自分の手持ちの装備を確認し、他に何か使える物がないのか探していると、闘拳に埋め込まれた水晶に気が付く。



(そうだ、これを使えば!!)


ナイは水晶に触れながら牙竜の位置を確認する。牙竜は完全にナイの居場所を見失っており、見当違いの方向へ向かっていた。

牙竜が離れると討伐隊と出くわしてしまう可能性があり、それを避けるためにナイは牙竜を引き寄せるために水晶を利用する。太陽の光を反射させ、上手く牙竜の目元に光を放つ。


「グギャッ!?」
「こっちだ!!」


水晶が反射した光に気付いた牙竜はナイの存在を捉え、即座にナイは駆け出す。牙竜はナイの後を追いかけて木々を破壊しながら移動を行う。



――グギャアアアアッ!!



背後から聞こえてくる牙竜の声にナイは背筋が凍り付き、もしも追いつかれたら今度こそ殺されてしまう。それでもナイは危険を犯して牙竜を引き寄せたのは逃げ切れる自信があったからだった。

山や森の中を移動する事は子供の頃から慣れており、しかもナイに都合がいいのは牙竜は図体が大きすぎて森の中を移動する場合は木々を破壊しなければならない。樹木を壊しながら移動する場合、いかに牙竜といえども移動速度は若干落ちてしまう。

もしも牙竜が冷静に木々を潜り抜けて移動すればナイに瞬く間に追いつく事もできたかもしれない。しかし、ここまでの戦闘で牙竜は頭に血が上って冷静な判断ができず、ナイの後を追いかける事だけに集中していた。


(よし、付いて来ている!!後は上手くこれを使えば……!!)


ナイは自分が持った水晶に視線を向け、牙竜を罠に嵌めるためにまずは牙竜を一度振り切る必要があった――





――しばらく時間が経過すると、ナイの後を追っていた牙竜は谷の川原の方に戻ってしまう。ナイの後を追いかけていたのだが、いつの間にか回って戻ってきた事に気が付く。


「グギャアッ!?」


川原に辿り着いた牙竜は周囲を見渡し、この場所に間違いなくナイが逃げたはずだった。この川原のどこかに身を隠しているのは間違いなく、牙竜は周囲を見渡しながら様子を伺う。

ナイの姿は見当たらないが、この川原には彼が身を隠すには十分な大きさの岩があちこちに転がっている。牙竜はナイが隠れられる大きさの岩を見つけると、前脚を叩き付けて粉々に吹き飛ばす。


「グアアアアッ!!」


川原に存在する全ての岩石を破壊する勢いで牙竜は次々と砕いていくと、その途中で目元に光を押し当てられる。


「グギャッ……!?」


森の中でも目元に光を当てられた事を思い出し、目が眩んでよく分からないが視界の端に青色に光り輝く水晶を捉えた。牙竜はナイの仕業だと思い込み、水晶に目掛けて突っ込む。


「グアアアアアッ――!?」


だが、牙竜が突っ込んだ先には岩の上に闘拳に嵌め込まれた水晶だけが輝いており、肝心のナイの姿は見当たらなかった。牙竜は闘拳の水晶が太陽の光を反射して自分の顔を照らした事に気づき、肝心のナイがいない事に気が付く。

ようやく牙竜は罠に嵌められた事を悟り、水晶の輝きに反応して隙を見せた牙竜の背後に近付く影があった。それは岩の中ではなく、川の中に身を隠してたナイが全身水浸しになりながらもを手にして牙竜の背中に飛び掛かる。


「うおおおおおっ!!」
「グギャアアアアッ!?」


岩砕剣が牙竜の背中に叩き込まれ、牙竜は悲鳴が響き渡る。不意を突かれた牙竜は背中に岩砕剣の先端が突き刺さり、今度は掠り傷程度の損傷ではなく、刃が食い込む。一撃の重さは岩砕剣の方が上回り、更にナイは旋斧を引き抜いて岩砕剣が突き刺した傷口に旋斧を叩き込む。


(ここだっ!!)


岩砕剣の一撃で牙竜の背中にできた傷口に旋斧を叩き込み、闇属性の魔法剣を発動させた。体内に再び闇属性の魔力を送り込まれた牙竜は生命力が削り取られ、必死にもがいてナイを振り払おうとした。


「アギャアアアアアッ!?」
「くぅうっ……!?」


みっともない悲鳴を上げて牙竜はナイを振り払おうとしたが、ナイは旋斧を背中に突き刺した状態で必死にしがみつき、硬化の技能を発動させて両手を固定すると、万力の握力で意地でも離れない。確実に牙竜の体内に闇属性の魔力が流し込まれ、生命力を削っていく。


(こいつだって生き物だ!!いくら化物のように強くても不死身じゃない!!)


竜種という生物はどれほど恐ろしい存在なのかはナイも理解しているが、それでもこの世になど存在しない。いくら強大な力を持つ牙竜といえど、体内から攻撃を与えられえれば無事では済まない。

闇属性の魔力は生命力を奪い、その効果が表れ始めたのか牙竜の動作が鈍くなっていく。それでも竜種の生命力は凄まじく、牙竜は渾身の力を込めて上空へ跳躍した。


「グガァアアアアッ!!」
「なっ……!?」


牙竜は上空へ跳躍すると、背中から地上へ向けて落下する。このままではナイは押し潰されてしまうと思われた時、何処からか衝撃波が発生してナイの元へ向かう。
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