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最終章
第1045話 追い詰められた獣の恐ろしさ
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「やりましたわね!!この調子なら他の皆さんが到着する前にいけますわ!!」
「ああ……牙竜といっても我々の敵ではない」
「油断するな!!追い詰められた獣ほど恐ろしい存在はいない!!」
「……大将軍の言う通りだな、こいつは腐っても竜種だ。最後まで気を緩まない方がいいぜ」
「はあっ、はあっ……」
ナイとの戦闘とロランの猛攻によって牙竜は重傷を負い、戦況は討伐隊の優位だった。しかし、ロランは決して最後まで気を緩めず、ガオウも彼の意見に賛成する。
牙竜は火竜のように吐息を吐き出す能力はないが、火竜をも上回る生命力を誇る。そして牙竜は遂に本領を発揮し、討伐隊に真の力を解放した。
――グォオオオオオオッ!!
牙竜は目元を充血させ、凄まじい咆哮を放つ。鳴き声が変わった事にナイは驚き、歴戦の猛者であるロランでさえも牙竜の迫力を目の当たりにして無意識に後退る。ドリスもリンもガオウも同様に身体が固まる。
(何だ、この迫力……!?)
最初に遭遇した時もナイは牙竜の威圧感に圧倒されたが、今回の場合は最初に会った時以上に牙竜は存在感を放ち、ナイ達は自分達がまるで大型の肉食獣に遭遇した小動物のような気分を味わう。
威圧感を更に増した牙竜は自分の鳴き声で硬直状態に陥った者に視線を向け、最初に攻撃対象に選んだのはナイを抱えているガオウだった。
「グオオオオッ!!」
「なっ……いかん、避けろ!?」
「うおおっ!?」
「うわぁっ!?」
ナイに肩を貸していたガオウに大して牙竜は右前脚を振り下ろし、恐ろしい怪力で川原の地面に叩き付ける。それだけの行為で大量の土砂が舞い上がり、無数の石礫がナイ達の元へ向かう。
まるで散弾銃のように放たれた石礫二人の身体に襲い掛かる寸前、ナイはどうにか反魔の盾を構えて攻撃を防ぐ。しかし、ガオウの場合は避け切れずに身体のあちこちに石礫が刺さり、彼は地面に倒れ込む。
「ぐああっ!?」
「ガオウさん!?」
「そ、そんなっ!?」
「くっ……このっ!!」
ガオウが倒れたのを見て慌ててリンは反射的に風の斬撃を繰り出すが、その攻撃に対して牙竜は尻尾を振り払い、彼女の風の斬撃を力ずくで掻き消す。
「グアッ!!」
「なっ!?そんな馬鹿なっ……!!」
「取り乱すな!!落ち着け!!」
鋼鉄さえも切り裂く自分の風の斬撃を尻尾で掻き消した牙竜にリンは唖然とするが、ロランは彼女を落ち着かせるために声をかける。しかし、牙竜はリンの動揺を見逃さず、彼女に目掛けて口元を広げて突っ込む。
「グァアアアッ!!」
「うわっ!?」
「リンさん、危ない!!」
リンの元に目掛けて突っ込んだ牙竜を見てドリスは真紅を構え、彼女は柄の部分から火属性の魔力を放出させて加速を行う。リンが喰われる前にドリスは彼女の腕を掴み、強制的に引き寄せて駆け出す。
牙竜はリンを噛み付く事には失敗したが、地上に着地すると今度は加速中のドリスの後を追いかけ、リンを連れて駆け出す彼女の後に続く。
「グオオオオッ!!」
「おい、追いかけてくるぞ!?」
「そんなっ!?」
「ちぃいっ!!」
加速中のドリスを上回る程の移動速度で牙竜は追跡し、二人に噛みつくために口元を開く。それを見たロランは見ていられずに双紅刃を振りかざし、二人の頭上を飛び越えて攻撃を仕掛けた。
「ぬんっ!!」
「きゃああっ!?」
「うわっ!?」
「アガァッ!?」
ロランが振り下ろした双紅刃は追跡を行っていた牙竜の牙に叩き付けられ、この際に刃に蓄積されていた魔力が解放して衝撃波を発生させる。
足場のない空中では踏ん張りがきかず、ロランは吹っ飛んでしまったが牙竜も顔面に衝撃波を受けて吹き飛ぶ。しかし、牙竜の場合は地面に爪を喰い込ませて衝撃に抗い、どうにか踏み止まる。
「グゥウウウッ……!!」
「そ、そんな……無傷!?」
「有り得ない……あの一撃を受けて何故平気なんだ!?」
ロランの渾身の一撃が決まったにも関わらず、牙竜は傷一つ負っていなかった。その理由はロランの振り下ろした刃は牙竜の牙に接触したからである。
双紅刃を正面から受けたにも関わらずに牙竜の牙には傷一つなく、罅すらも与えられなかった。牙竜という名前は伊達ではなく、並の魔法金属よりも頑丈さと耐久力誇る。それを見たドリスとリンは圧倒され、改めて自分達の先ほどの考えが甘い事を思い知らされる。
(強い……火竜も凄かったけど、こいつもやばい)
ナイは倒れているガオウを抱き上げ、手持ちの仙薬を彼の口元に運ぶ。まだ意識はあるのかガオウは苦し気な表情を浮かべながら呟く。
「ぼ、坊主……油断するな、あいつは化物だ……」
「ガオウさん、しっかりして下さい!!」
「俺の事は良い……あいつと戦う事に集中しろ、そうしないと生き残れないぞ」
ガオウの言葉にナイは言い返せず、確かに彼の言う通りに牙竜は恐ろしい敵だった。それでもナイ達は逃げる事は許されず、自分も仙薬を口にして怪我と体力を回復させた。
(さっきまで牙竜の動きは鈍かったのは闇属性の魔力が体内に入っていたからだ)
ナイは最初に闇属性の魔法剣を発動して牙竜に切り付けた事を思い出し、これまで牙竜の動作が鈍かったのは闇属性の魔力が体内に残っていたに過ぎないと判断する。
闇属性の魔力は生命力を削り取るため、ナイの攻撃で体内に闇属性の魔力を送り込まれた牙竜は本来の動きを発揮する事ができなかった。しかし、時間が経過するにつれて体内に送り込まれた闇属性の魔力が消えてしまい、今現在は元通りの状態へ戻った。
動きが鈍いうちに止めを刺せればよかったが、竜種である牙竜は耐久力も体力も並の魔物の比ではない。もう一度闇属性の魔法剣で攻撃を仕掛けるとしても、牙竜はナイを警戒して不用意に近付こうとはしない。
(あいつだってここまでの戦闘で傷を負っている……でも、まだ足りない。確実に仕留めるためにはもっと強い攻撃を与えないと……)
これまでの戦闘でナイは強化術を発動させて攻撃を行っていたが、牙竜の肉体の硬度はブラックゴーレムにも匹敵する。強化術を発動した状態のナイの渾身の一撃を受けても牙竜は倒れなかった。
(もっと威力を引きださないと……けど、どうすればいいんだ?)
限界まで身体能力を強化させた攻撃も通じず、だからといってナイに他の戦い方はできない。彼は魔術師のように魔法は扱えず、万策が尽きたかと思われた時、瀕死のガオウがナイに声をかける。
「坊主……こいつを使え」
「えっ、これは……」
「へへ、弱い魔物を追い払うために作った特製の粉薬だ……こいつを牙竜の顔面にぶち込めばあいつだってしばらくは目が利かなくなるはずだ」
ガオウはナイに小袋を差し出し、それを受け取ったナイは驚いた表情を浮かべると、ガオウはこれまでの牙竜の戦闘を思い返してナイに伝える。
「あいつは目を頼りに戦っている。俺達の動きを目で追って攻撃してるんだ……普通の魔獣なら気配を感じ取って行動する事もあるが、あいつの場合はどうやら目で敵を追って攻撃することしかできないみたいだな」
「そんな事が分かるんですか?」
「へへへ、仮にも黄金冒険者だからな……あの野郎、きっと生まれてから一度も自分を脅かす「天敵」と遭遇しなかったんだろう。自分よりも強い存在が居るはずがない、だから気配を感じ取る能力も身に着ける必要がなかったんだ。それに鼻も利くからな、こっそり近付こうとする敵も気づけたんだろう。だが、この粉薬を奴の顔面にぶち込めば視覚も嗅覚も一時的に封じられる」
「な、なるほど……」
「長々と話している場合じゃねえ……俺の代わりにあいつをぶっ飛ばせ」
小袋を託されたナイはガオウの言葉を聞いて頷き、ここは冒険者である彼の勘を信じて行動する事にした。牙竜は現在はリンとドリスに狙いを定め、先ほどのロランの攻撃で怯んだのか今は動きを見せない。
牙竜が止まっている間にナイは動き、彼は小袋を手にして「隠密」の技能を発動して気配を消す。ガオウの言う事が正しければ牙竜は気配を察知する能力は持っていないらしいが、それでも用心して彼は慎重に近づく。
(気付かれたら終わりだ……でも、やるしかない)
小袋を手にしたナイは「投擲」の技能を生かして牙竜の顔面に目掛けて放つ。牙竜はナイの行動に全く気づいておらず、視界の端に小袋を視認した瞬間に異変に気付いて咄嗟に右前脚を振り払う。
「グギャッ――!?」
横から投げ込まれた小袋に対して牙竜は反射的に右前脚で叩き落そうとしたが、牙竜の前脚の爪が鋭利に研ぎ澄まされた刃物のような切れ味を誇る事が幸いした。牙竜が放った爪が小袋を切り裂き、中身の粉末が牙竜の顔面に飛び散る。
――アギャアアアアッ!?
ガオウ特製の粉薬が牙竜の顔面に降り注いだ結果、牙竜の悲鳴が山の中に響き渡る。どんな薬を調合したのか分からないが牙竜は両目から涙が止まらず、鼻も効かないのか苦し気な表情を浮かべてその場に転がり込む。
牙竜の行為にナイもドリスもリンも呆気に取られるが、先ほど吹き飛ばされたはずのロランが起き上がって全員に注意した。
「何をしている!!早く攻撃しろ!!」
「え、あ、そ、そうですわね!!」
「よ、よし!!」
「は、はい!!」
ロランの指示に全員が動き、ここでナイは旋斧と岩砕剣を取り出す。確実に牙竜に損傷を与えるためにはナイも全力で攻撃を加える必要があり、ブラックゴーレムを倒した「双裂斬」を繰り出す準備を行う。
(狙うのは……首だ!!)
確実に牙竜を倒すためにナイは首元を狙いを定め、ドリスとリンも同じ箇所を狙っているのか動き出す。最初に動いたのはリンであり、彼女は鞘に剣を収めた状態から刃を引き抜き、先ほどよりも強烈な風の斬撃を繰り出す。
「奴の鱗を剥ぐ!!後は任せたぞ!!」
「了解しましたわ!!」
「はい!!」
リンの言葉にドリスとナイも頷き、彼女が放った斬撃は牙竜の首元に衝突した。しかし、鋼鉄も切り裂けるリンの風の斬撃でさえも牙竜の鱗を完全に剥ぐ事はできず、せいぜい牙竜をよろめかせる程度だった。
「ああ……牙竜といっても我々の敵ではない」
「油断するな!!追い詰められた獣ほど恐ろしい存在はいない!!」
「……大将軍の言う通りだな、こいつは腐っても竜種だ。最後まで気を緩まない方がいいぜ」
「はあっ、はあっ……」
ナイとの戦闘とロランの猛攻によって牙竜は重傷を負い、戦況は討伐隊の優位だった。しかし、ロランは決して最後まで気を緩めず、ガオウも彼の意見に賛成する。
牙竜は火竜のように吐息を吐き出す能力はないが、火竜をも上回る生命力を誇る。そして牙竜は遂に本領を発揮し、討伐隊に真の力を解放した。
――グォオオオオオオッ!!
牙竜は目元を充血させ、凄まじい咆哮を放つ。鳴き声が変わった事にナイは驚き、歴戦の猛者であるロランでさえも牙竜の迫力を目の当たりにして無意識に後退る。ドリスもリンもガオウも同様に身体が固まる。
(何だ、この迫力……!?)
最初に遭遇した時もナイは牙竜の威圧感に圧倒されたが、今回の場合は最初に会った時以上に牙竜は存在感を放ち、ナイ達は自分達がまるで大型の肉食獣に遭遇した小動物のような気分を味わう。
威圧感を更に増した牙竜は自分の鳴き声で硬直状態に陥った者に視線を向け、最初に攻撃対象に選んだのはナイを抱えているガオウだった。
「グオオオオッ!!」
「なっ……いかん、避けろ!?」
「うおおっ!?」
「うわぁっ!?」
ナイに肩を貸していたガオウに大して牙竜は右前脚を振り下ろし、恐ろしい怪力で川原の地面に叩き付ける。それだけの行為で大量の土砂が舞い上がり、無数の石礫がナイ達の元へ向かう。
まるで散弾銃のように放たれた石礫二人の身体に襲い掛かる寸前、ナイはどうにか反魔の盾を構えて攻撃を防ぐ。しかし、ガオウの場合は避け切れずに身体のあちこちに石礫が刺さり、彼は地面に倒れ込む。
「ぐああっ!?」
「ガオウさん!?」
「そ、そんなっ!?」
「くっ……このっ!!」
ガオウが倒れたのを見て慌ててリンは反射的に風の斬撃を繰り出すが、その攻撃に対して牙竜は尻尾を振り払い、彼女の風の斬撃を力ずくで掻き消す。
「グアッ!!」
「なっ!?そんな馬鹿なっ……!!」
「取り乱すな!!落ち着け!!」
鋼鉄さえも切り裂く自分の風の斬撃を尻尾で掻き消した牙竜にリンは唖然とするが、ロランは彼女を落ち着かせるために声をかける。しかし、牙竜はリンの動揺を見逃さず、彼女に目掛けて口元を広げて突っ込む。
「グァアアアッ!!」
「うわっ!?」
「リンさん、危ない!!」
リンの元に目掛けて突っ込んだ牙竜を見てドリスは真紅を構え、彼女は柄の部分から火属性の魔力を放出させて加速を行う。リンが喰われる前にドリスは彼女の腕を掴み、強制的に引き寄せて駆け出す。
牙竜はリンを噛み付く事には失敗したが、地上に着地すると今度は加速中のドリスの後を追いかけ、リンを連れて駆け出す彼女の後に続く。
「グオオオオッ!!」
「おい、追いかけてくるぞ!?」
「そんなっ!?」
「ちぃいっ!!」
加速中のドリスを上回る程の移動速度で牙竜は追跡し、二人に噛みつくために口元を開く。それを見たロランは見ていられずに双紅刃を振りかざし、二人の頭上を飛び越えて攻撃を仕掛けた。
「ぬんっ!!」
「きゃああっ!?」
「うわっ!?」
「アガァッ!?」
ロランが振り下ろした双紅刃は追跡を行っていた牙竜の牙に叩き付けられ、この際に刃に蓄積されていた魔力が解放して衝撃波を発生させる。
足場のない空中では踏ん張りがきかず、ロランは吹っ飛んでしまったが牙竜も顔面に衝撃波を受けて吹き飛ぶ。しかし、牙竜の場合は地面に爪を喰い込ませて衝撃に抗い、どうにか踏み止まる。
「グゥウウウッ……!!」
「そ、そんな……無傷!?」
「有り得ない……あの一撃を受けて何故平気なんだ!?」
ロランの渾身の一撃が決まったにも関わらず、牙竜は傷一つ負っていなかった。その理由はロランの振り下ろした刃は牙竜の牙に接触したからである。
双紅刃を正面から受けたにも関わらずに牙竜の牙には傷一つなく、罅すらも与えられなかった。牙竜という名前は伊達ではなく、並の魔法金属よりも頑丈さと耐久力誇る。それを見たドリスとリンは圧倒され、改めて自分達の先ほどの考えが甘い事を思い知らされる。
(強い……火竜も凄かったけど、こいつもやばい)
ナイは倒れているガオウを抱き上げ、手持ちの仙薬を彼の口元に運ぶ。まだ意識はあるのかガオウは苦し気な表情を浮かべながら呟く。
「ぼ、坊主……油断するな、あいつは化物だ……」
「ガオウさん、しっかりして下さい!!」
「俺の事は良い……あいつと戦う事に集中しろ、そうしないと生き残れないぞ」
ガオウの言葉にナイは言い返せず、確かに彼の言う通りに牙竜は恐ろしい敵だった。それでもナイ達は逃げる事は許されず、自分も仙薬を口にして怪我と体力を回復させた。
(さっきまで牙竜の動きは鈍かったのは闇属性の魔力が体内に入っていたからだ)
ナイは最初に闇属性の魔法剣を発動して牙竜に切り付けた事を思い出し、これまで牙竜の動作が鈍かったのは闇属性の魔力が体内に残っていたに過ぎないと判断する。
闇属性の魔力は生命力を削り取るため、ナイの攻撃で体内に闇属性の魔力を送り込まれた牙竜は本来の動きを発揮する事ができなかった。しかし、時間が経過するにつれて体内に送り込まれた闇属性の魔力が消えてしまい、今現在は元通りの状態へ戻った。
動きが鈍いうちに止めを刺せればよかったが、竜種である牙竜は耐久力も体力も並の魔物の比ではない。もう一度闇属性の魔法剣で攻撃を仕掛けるとしても、牙竜はナイを警戒して不用意に近付こうとはしない。
(あいつだってここまでの戦闘で傷を負っている……でも、まだ足りない。確実に仕留めるためにはもっと強い攻撃を与えないと……)
これまでの戦闘でナイは強化術を発動させて攻撃を行っていたが、牙竜の肉体の硬度はブラックゴーレムにも匹敵する。強化術を発動した状態のナイの渾身の一撃を受けても牙竜は倒れなかった。
(もっと威力を引きださないと……けど、どうすればいいんだ?)
限界まで身体能力を強化させた攻撃も通じず、だからといってナイに他の戦い方はできない。彼は魔術師のように魔法は扱えず、万策が尽きたかと思われた時、瀕死のガオウがナイに声をかける。
「坊主……こいつを使え」
「えっ、これは……」
「へへ、弱い魔物を追い払うために作った特製の粉薬だ……こいつを牙竜の顔面にぶち込めばあいつだってしばらくは目が利かなくなるはずだ」
ガオウはナイに小袋を差し出し、それを受け取ったナイは驚いた表情を浮かべると、ガオウはこれまでの牙竜の戦闘を思い返してナイに伝える。
「あいつは目を頼りに戦っている。俺達の動きを目で追って攻撃してるんだ……普通の魔獣なら気配を感じ取って行動する事もあるが、あいつの場合はどうやら目で敵を追って攻撃することしかできないみたいだな」
「そんな事が分かるんですか?」
「へへへ、仮にも黄金冒険者だからな……あの野郎、きっと生まれてから一度も自分を脅かす「天敵」と遭遇しなかったんだろう。自分よりも強い存在が居るはずがない、だから気配を感じ取る能力も身に着ける必要がなかったんだ。それに鼻も利くからな、こっそり近付こうとする敵も気づけたんだろう。だが、この粉薬を奴の顔面にぶち込めば視覚も嗅覚も一時的に封じられる」
「な、なるほど……」
「長々と話している場合じゃねえ……俺の代わりにあいつをぶっ飛ばせ」
小袋を託されたナイはガオウの言葉を聞いて頷き、ここは冒険者である彼の勘を信じて行動する事にした。牙竜は現在はリンとドリスに狙いを定め、先ほどのロランの攻撃で怯んだのか今は動きを見せない。
牙竜が止まっている間にナイは動き、彼は小袋を手にして「隠密」の技能を発動して気配を消す。ガオウの言う事が正しければ牙竜は気配を察知する能力は持っていないらしいが、それでも用心して彼は慎重に近づく。
(気付かれたら終わりだ……でも、やるしかない)
小袋を手にしたナイは「投擲」の技能を生かして牙竜の顔面に目掛けて放つ。牙竜はナイの行動に全く気づいておらず、視界の端に小袋を視認した瞬間に異変に気付いて咄嗟に右前脚を振り払う。
「グギャッ――!?」
横から投げ込まれた小袋に対して牙竜は反射的に右前脚で叩き落そうとしたが、牙竜の前脚の爪が鋭利に研ぎ澄まされた刃物のような切れ味を誇る事が幸いした。牙竜が放った爪が小袋を切り裂き、中身の粉末が牙竜の顔面に飛び散る。
――アギャアアアアッ!?
ガオウ特製の粉薬が牙竜の顔面に降り注いだ結果、牙竜の悲鳴が山の中に響き渡る。どんな薬を調合したのか分からないが牙竜は両目から涙が止まらず、鼻も効かないのか苦し気な表情を浮かべてその場に転がり込む。
牙竜の行為にナイもドリスもリンも呆気に取られるが、先ほど吹き飛ばされたはずのロランが起き上がって全員に注意した。
「何をしている!!早く攻撃しろ!!」
「え、あ、そ、そうですわね!!」
「よ、よし!!」
「は、はい!!」
ロランの指示に全員が動き、ここでナイは旋斧と岩砕剣を取り出す。確実に牙竜に損傷を与えるためにはナイも全力で攻撃を加える必要があり、ブラックゴーレムを倒した「双裂斬」を繰り出す準備を行う。
(狙うのは……首だ!!)
確実に牙竜を倒すためにナイは首元を狙いを定め、ドリスとリンも同じ箇所を狙っているのか動き出す。最初に動いたのはリンであり、彼女は鞘に剣を収めた状態から刃を引き抜き、先ほどよりも強烈な風の斬撃を繰り出す。
「奴の鱗を剥ぐ!!後は任せたぞ!!」
「了解しましたわ!!」
「はい!!」
リンの言葉にドリスとナイも頷き、彼女が放った斬撃は牙竜の首元に衝突した。しかし、鋼鉄も切り裂けるリンの風の斬撃でさえも牙竜の鱗を完全に剥ぐ事はできず、せいぜい牙竜をよろめかせる程度だった。
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