貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
1,068 / 1,110
最終章

第1048話 待たせたな!!

しおりを挟む
「貴方、本当に面白いわね……あの時に
「……?」


アンの言葉にナイは意味が分からず、他の者たちも戸惑う。しかし、すぐにアンはナイから目線を外すと牙竜に次の命令を与える。


「だけどもう用済みよ。これ以上、貴方達に付き合っている暇はないわ」
「ちっ……俺達を始末するつもりか!?」
「王国騎士を舐めないでくださいましっ!!」
「刺し違えてでもお前を倒す!!」
「お前達は下がっていろ!!ここは俺がやる!!」
「はあっ、はあっ……」


牙竜を利用して自分達を殺すつもりなのかとナイ達は警戒すると、不意にナイだけは森の方に視線を向ける。そんな彼の行為に気付いたアンは不思議に思って森に振り返ると、遠くの方から物音が聞こえてきた。

最初は何の音だか分からなかったが、耳を済ませると森の中から大きな生き物が駆けつけるような足音が鳴り響く。


「何?この足音は……」
「あれは……まさか!?」
『ふはははははっ!!』


森の中から騒がしい笑い声と悲鳴が響き渡り、全員が驚いて振り返るとそこには木々の隙間を潜り抜けて駆け抜けるゴウカと、その背中にしがみつくマリンの姿があった。


「ゴウカさん!?」
『待たせたな!!まだ牙竜は倒していないだろうな!?吾輩の出番は残っているんだろうな!!』
「ば、馬鹿ぁっ!?早く止まれ!!」


全力疾走で森を駆け抜けてきたロランは谷に辿り着くと、それを見たアンは呆気に取られた。討伐隊は自分の仕掛けた罠で動けないはずだが、ゴウカとマリンがここへ駆けつけてきた事に動揺する。


「あ、貴方達どうやってここまで!?」
『それはこいつのお陰だ』
「ぷるるんっ」
「プルミン!?」


ゴウカはマリンの背中に張り付いていたプルミンを指差し、二人の傍にプルリンが居る事にナイは驚く。プルミンに手を伸ばしたゴウカは掌で彼を抱えると、ゴウカはここまでの道中で何が起きたのかを話す。


『このスライム小僧のお陰でお前が仕掛けた罠は全て見抜いたぞ!!森中に設置したマグマゴーレムの核は全部回収した!!』
「な、何ですって!?」
「ぷるぷるっ(やってやったぜ)」
『どうやらスライムの感知能力を舐めていたようだな……うっ、吐き気が』


アンがナイ達と話し込んでいた間、後続の部隊はアンのマグマゴーレムの核の位置をプルミンに教えてもらって全ての場所を見抜いて回収を行っていた。スライムの感知能力は生物だけではなく、魔石なども正確に感じ取る事ができる。

森の中に仕掛けられていたマグマゴーレムの核は全てプルミンが見つけ出し、既に処理済みだった。そのお陰で妨害を気にせずにゴウカは谷へ駆けつけ、他の者たちも遅れてやってきた。


「ナイ君、無事!?」
「大丈夫ですか!?」
「副団長!!ご無事ですか!?」
「ウォンッ!!」


ゴウカの他にもリーナ達も駆けつけ、続々と森の中から人が集まってきた。それを見たアンは流石に冷や汗を流し、これで戦力差は逆転した。


「ここまでだ、魔物使い……いや、アンよ。お前に勝ち目はなくなった」
「いくら竜種だろうとよ、これだけの人数に勝てると思ってるのか!?」
『ほう、こいつが牙竜か……久々に本気で戦えそうだ!!』
『気持ち悪い、後は任せた』
「駄目だよマリンさん!!一緒に戦ってよ!?」
「くっ……何という威圧感」
「グギャアッ……!!」


大将軍のロランと黄金級冒険者達が前に出ると流石の牙竜も後退り、これだけの面子に囲まれてはアンも焦りを隠せない。まさかこんなにも後続の部隊が合流するとは夢にも思わなかった。

プルミンの感知能力を侮っていたのがアンの誤算であり、負傷した状態の牙竜では流石にここに集まった人間全員を始末する事はできない。シノビとクノも訪れると、顔色が悪いナイの元に二人は向かう。


「ナイ殿、大丈夫でござるか!?」
「これを飲め、毒消しの効果がある」
「あ、ありがとうございます……」


ナイはクノに肩を貸して貰い、シノビから受け取った薬を飲む。すると一気に身体が楽になり、動けるまでに体力を取り戻す。


「うわっ……凄い、身体が楽になりました」
「シノビ一族に伝わる秘伝の薬だ……奴が牙竜か」
「ううっ……伝承通りに恐ろしい容貌でござる」
「グァアアアアアッ!!」


シノビとクノを目にすると牙竜は興奮した様子で鳴き声を上げ、二人は牙竜を見るのは初めてだが、牙竜は二人のような忍者装束を身に着けた者を何十人、何百人と見てきた。

牙竜が住処としている牙山はかつて数多くのシノビ一族の人間が挑み、そして牙竜に返り討ちにされた。逆に言えば牙竜は何百人ものシノビ一族の人間を殺してきた事を意味しており、再び自分の前に現れたシノビ一族の人間に興奮するのも無理はない。


「流石に今の状態でこの人数を相手にするのは……ちょっときつそうね」
「強がりを言ってんじゃねえ!!この状況で逃げられると思ってるのか!?」


アンの言葉にガオウは武器を構え、味方が駆けつけてくれた事で精神を持ち直した。ナイも薬の効果で十分に動ける程に回復すると、落ちていた武器を拾い上げる。

これで聖女騎士団と白狼騎士団を除く面子がこの場に集まり、傷を負った牙竜ならば十分に勝ち目はあった。しかし、アンは自分が不利な立場になると知ると、彼女は諦めた様に肩をすくめる。


「どうやらは私の負けのようね」
「どういう意味だ?」
「降伏するなら今の内ですわよ!!」
「降伏?冗談じゃないわ……負けを認めると言っても、つもりはないわ」


ドリスの言葉にアンは冷たい視線を向け、彼女は指を鳴らす。その瞬間、牙竜は今日一番の咆哮を上げた。



――グギャアアアアアアアアッ!!



鼓膜が破れかねない程の大声量で牙竜は咆哮を放つと、ナイ達は反射的に耳元を塞いでしまう。その隙を逃さずにアンは牙竜にしがみつき、全速力で駆け抜けさせる。


にまた会いましょう!!」
「ま、待て!?」
「くそっ、逃げたぞ!!」
『こらぁあああっ!!待たんかぁあああっ!!』


逃げ出したアンと牙竜を見てナイ達は呆気に取られ、ゴウカは怒りの声を上げて後を追いかけようとした。しかし、それを止めたのはロランだった。


「待て、奴を追うな!!」
『ぬうっ!?しかし、ここで逃げられたら……』
「どのみち、我々には後を追いかける事はできん……残念だが、ここで諦めるしかあるまい」


牙竜の移動速度を見てロランは追跡を諦めるように促し、現在の討伐隊は馬も騎獣の類を従えていない。こんな状態で追いかけた所で牙竜に追いつけるはずがないと止めるが、ここでビャクが鳴き声を上げる。


「ウォンッ!!」
「ビャク……そうだ、ビャクなら後を追えます!!」
「白狼種か……確かに白狼種の足ならば奴を追えるかもしれんが、追いついた所で殺されるだけだぞ?」
「それならば追いつかなければいいだけです。一定の距離を保って、奴等に気付かれないように尾行します!!奴等が何処へ逃げたのかを探りながら目印も置いて行きます!!」


ロランの言葉を聞いてビャクが反応し、白狼種であるビャクならば牙竜の移動速度にも付いていける可能性はあった。それにビャクの嗅覚ならば離れた場所でも臭いを辿って追いかける事ができる。

シノビはビャクに乗って牙竜を追跡し、目印を残して牙竜が移動した道を討伐隊に伝える。仮にアンが尾行に気付いたとしても白狼種のビャクならば逃げ切れる可能性はある事を伝えるとロランは考え込む。


「ビャク、といったな。本当にこの白狼種で牙竜に追いつけるのか?」
「ウォオオンッ!!」
「……自分を信じろと言ってます」
「信じろ、か。よし、では任せたぞ」
「分かりました。ビャク、行くよ!!」
「ナイ君、それなら僕も一緒に……」
「いや、ビャクも二人を乗せると本気で走れないから僕だけで行く。大丈夫、信じて待ってて」
「そ、そう?」


リーナが同行を願い出たが、ナイはそれを断って一人でビャクに乗り込む。他の者たちはナイを心配するが、ここで牙竜を見失うわけにはいかず、二人を信じて送り込む。


「気を付けろ、無理だと思ったらすぐに引き返すんだ」
「ナイ君、無茶な真似は駄目だからね!!」
「これも持って行ってほしいでござる!!拙者の弁当でござる!!」
「油断するな、尾行する時は細心の注意を払え」
「アンの従えている魔獣に見つかるなよ!!」
「はい……行ってきます!!」
「ウォオオオンッ!!」


ビャクはナイを乗せると牙竜の臭いを辿り、その後を追いかける。狼種の中でも最速を誇る白狼種の移動速度ならば牙竜にも追いつける可能性は十分にあった――





――追跡を開始してから一時間後、ナイは森の中を移動していた。定期的に目印を残しながら移動を行う必要があるため、途中で何度かナイは樹木の樹皮を刃物で切り付けて目印を残す。


「これでよし……さあ、行こうか」
「ウォンッ」


ナイはビャクに乗り込むと、再び森の中を移動する。既に時刻は夕方を迎え、もう間もなく夜を迎える。それでもナイ達は未だに牙竜の姿は捕えておらず、臭いを辿ってここまで来たが本当に追いついているのか分からなかった。

白狼種の移動速度ならば牙竜にも負けないとナイは信じていたが、ここまで全速力で移動しているというのに牙竜とアンの姿が見えない事にナイは不安を抱く。まさかとは思うが、最悪の場合、アンはナイ達の尾行に気付いて待ち伏せいる可能性もある。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

処理中です...