貧弱の英雄

カタナヅキ

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最終章

第1077話 伝説の終焉

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「うおおおおおおおっ!!」
「ギアアアアアアアッ!!」


ナイはダイダラボッチに目掛けて旋斧を振りかざし、その一方でダイダラボッチも左拳を握りしめて繰り出す。既に右腕は岩砕剣を斬りつけられた時に負傷し、もう動かす事もできない。

それでも最後の力を振り絞って放たれたダイダラボッチの左拳はまともに受ければ死は免れない。もうナイは反魔の盾も闘拳も身に着けておらず、身を防ぐ手段はない。それでも彼は旋斧を振りかざして攻撃を繰り出す。


(旋斧!!お前を信じる!!)


自分を長い間支え続けてきたを信じてナイはありったけのを送り込む。魔法腕輪に装着した魔石は全て魔力を使い切っていた。

ナイが頼る事ができるのは自分の肉体と、養父から受け継いだ武器だけだった。旋斧はナイの期待に応えるかのように刃が光り輝き、閃光の様に周囲を照らす。


「うわぁっ!?」
「ま、眩しい!?」
「これは……!?」
「ギアアアッ!?」


活性化した聖属性の魔力を吸い上げた事で旋斧は「光剣」と化し、刃から放たれた閃光によって地上にいる全員が目を眩まされる。それはダイダラボッチも例外ではなく、視界を光で封じられたせいでナイに向けて放たれた左拳の軌道がずれて空振りしてしまう。


(ここだっ!!)


空振りしたダイダラボッチの左腕を足場に利用してナイは駆け出し、ダイダラボッチの元へ向かう。彼は全身の力を込めてダイダラボッチに最後の攻撃を繰り出そうとした。

ダイダラボッチは視界が光で封じられたせいでナイの接近に気付かず、そのまま彼の振り下ろした刃は額に目掛けて突き刺さる。


「だぁああああっ!!」
「ギャアアアアッ!?」


ダイダラボッチの顔面に血飛沫が舞い上がり、ナイの繰り出した旋斧の刃は額に突き刺さった。しかし、ここでナイは致命的に失敗《ミス》を犯す。それは岩砕剣とは異なり、旋斧の刃の形状はそもそも「突き」には向いていない。


(しまった!?)


止めを繰り出すべくナイは走った勢いを利用して刃を突き刺してしまったが、そもそも旋斧は名前の通りに剣でありながら刃の先端部分は「斧」のような形をしている。そのために普通の剣よりも突き技には向いておらず、ダイダラボッチの額に突き刺す事は成功したが、硬い頭蓋骨を貫く事はできなかった。


「ギアアアアッ……!!」
「くっ……このっ!?」


ナイは旋斧を押し込もうとするが力が上手く入らず、どうやら先ほどの「閃光」を生み出す際にナイの魔力を旋斧が大分吸い上げた事で魔力が上手く練れない。まだ薬の効果が切れるまで時間はあるはずだが、予想以上にナイの魔力は消耗していた。


(あと少しだ!!ほんの少しでも差し込めば終わるのに……!!)


旋斧の刃が頭蓋骨まで到達した事は間違いなく、この硬い頭の骨を破壊すればダイダラボッチを倒す事はできる。封印などしなくてもダイダラボッチを止めを刺せる絶好の機会だった。

しかし、いくらナイが力で押し込もうとしてもこれ以上に突き刺さる事はなく、ダイダラボッチは目を血走らせながら自分の肩に乗るナイを左手で摘まむ。


「ギアアアッ!!」
「うわぁあああっ!?」
『っ……!?』


聞こえてきたナイの悲鳴に地上の者達は顔を上げると、やっと視界が回復した頃には既に彼はダイダラボッチによって遥か上空に投げ飛ばされていた。ナイを上空に投げ飛ばしたダイダラボッチはそのまま彼を喰うつもりなのか大口を開いて待ち構える。


「ギアアアッ!!」
「くぅっ!?」


もう駄目かと思われた時、何処からか狼の咆哮が響き渡る。その声を聞いたナイはすぐにビャクの声だと気付いた。




――ウォオオオオンッ!!




森中にビャクの鳴き声が響き渡ると、その声を耳にした者達は目を見開く。彼等はビャクが咆哮を放った時、それは魔導大砲の発射の合図だと聞かされている。

イリアは森の中に魔導大砲を設置し、発射の前に自分の傍に待機しているビャクに合図の鳴き声を上げさせる手筈だった。ビャクの鳴き声が聞こえたら討伐隊はダイダラボッチから離れるように指示を受けていた。


「魔導大砲、発射ぁああっ!!」
「は、発射っ!!」
「発射でござる!!」
「発射だ!!」
「ナイく~ん!!」


魔導大砲の傍にはイリア、ヒナ、クノ、シノビ、モモが待機しており、ダイダラボッチに目掛けて五人は魔導大砲の照準を定めるために大砲を支えていた。ダイダラボッチが所定の位置まで移動するまで発射はできなかったが、ナイの危機を悟ってイリア達は魔導大砲を発射させた。


(――ビャク!?)


空中に浮かんだナイは意識が飛びかけていたが、家族《ビャク》の声を聞いて意識を覚醒させる。ビャクの声が聞こえたという事は間もなく魔導大砲が発射される事を意味しており、彼はダイダラボッチに視線を向けた。

ダイダラボッチはビャクの声を聞いて意識が反れてしまい、そのお陰でナイをばてようとしていた口が僅かに閉じてしまう。それを見逃さずにナイはダイダラボッチの歯の部分に視線を向け、上手く着地を行う。


「このぉっ!!」
「アグゥッ!?」


巨体であった事が災いし、ぎりぎりの所でナイはダイダラボッチに飲み込まれずに歯の部分に着地すると、跳躍してダイダラボッチの額に突き刺さったままの旋斧に手を伸ばす。


「返せっ!!」
「ギアアッ!?」


飛び込んだ勢いを利用してナイは旋斧を引き抜いてダイダラボッチの頭から飛び降りると、背中をそのまま滑り落ちていく。この時に森の中に設置された魔導大砲が発射され、凄まじい熱線がダイダラボッチに目掛けて放たれる。


(これだっ!!)


ナイはダイダラボッチの背中を滑り落ちながらも魔導大砲から発射された熱線を確認し、熱線がダイダラボッチに当たる箇所を直感で見抜いて旋斧の刃を伸ばす。

本来であれば魔導大砲はダイダラボッチの攻撃に利用する兵器だが、ナイは熱線を浴びせた所でダイダラボッチを確実に倒す事はできないと判断した。そのため、彼は熱線を利用して旋斧に吸収させる。


(今ならできるはずだ……この旋斧なら!!)


かつての旋斧は吸収できる魔力量に限界があったが、ハマーンが黒水晶を埋め込んだ事で吸収できる魔力量は増えているはずだった。魔導大砲から発射された火属性の魔力の光線が旋斧の刃に触れると、刃が赤色に変色して熱を帯び始める。


「うおおおおっ!!」
「ギアアッ!?」


背中に凄まじい熱気を感じ取ったダイダラボッチは悲鳴を上げ、何が起きているのかと振り返ると、そこには熱線を吸い上げて真っ赤に染まった旋斧を構えるナイの姿があった。

彼の手に持っている旋斧は赤く染まるだけではなく、黒水晶も赤色に光り輝き、そして刃は炎に包まれていた。吸収しきれなかった火属性の魔力が刃に包み込み、巨大な炎の剣と化す。


「うおおおおおっ!!」
「あれは……!?」
「と、飛んだ!?ナイ君が飛んだ!?」
「馬鹿なっ!?」


魔導大砲から発射された火属性の魔力を全て吸い上げた事でナイの旋斧にはを倒した時と同様に膨大な火属性の魔力が纏う。その魔力を利用してナイはドゴンのように上空へ飛翔する。

ナイが飛んだのはブラックゴーレムやドゴン、そして飛行船の噴射機と同じ原理であり、膨大な火属性の魔力を放出させる事でナイはダイダラボッチの頭上に移動を行う。そして彼は最後の攻撃を繰り出すために旋斧を両手で握りしめる。



「終わりだぁああああっ!!」
「ギアッ――!?」



迫りくるナイに対してダイダラボッチは恐怖を抱き、身を守ろうにも既に両腕は負傷し、逃げる事もままならない。この時にナイは旋斧を振りかざした瞬間、刀身に纏っていた炎が形を変えて「火竜」のような姿に変化する。



「な、何だいあれはっ!?」
「か、火竜か!?」
「あれは……ゴブリンキングを倒した時と同じ!?」
「ああ、間違いない……火竜の炎だ!!」



旋斧から放出された炎が火竜のような姿に変化した事にテンとルナは驚き、ドリスとリンはイチノでナイがゴブリンキングを倒した時と同じ技を繰り出した事を思い出す。テンとルナはゴブリンキングの討伐には参加していなかっため、初めて見る光景だった。

火竜の姿を模した魔力に包まれる形でナイは旋斧をダイダラボッチに振りかざし、自分に迫りくる火炎の竜にダイダラボッチは生まれて初めて心の底から恐怖した。圧倒的な存在感を放つ敵にダイダラボッチは悲鳴を上げる。




――ギィアアアアアアアアアアアッ……!?




ムサシ地方どころかにまで響き渡る悲鳴をダイダラボッチは放ち、旋斧がダイダラボッチの頭部を切り裂いた瞬間、火炎の竜はダイダラボッチに喰らいつく。

火炎はダイダラボッチの全身を包み込み、頭部を真っ二つに切り裂いた。この際にダイダラボッチは巨大剣を背にして倒れてしまい、地上に衝突した衝撃でナイは旋斧と共に弾き飛ばされてしまう。


「うわぁっ!?」
「ナイ君!?」
「ナイ!!」
『いかん!!落ちるぞ!!』


弾き飛ばされたナイを見て慌てて他の者が彼を受け止めようとしたが、誰よりも早くナイの元に駆けつけたのは人間達ではなかった。


「ウォンッ!!」
「ぷるんっ!!」
「うわっ……あ、ありがとう」


ナイを受け止めたのはプルミンを背中に乗せたビャクであり、上手い具合にプルミンがクッションとなってナイを優しく受け止めた――
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