文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ

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廃墟編

ゴブリンの街

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『ギィイイイイッ!!』
「くそ、何体いるんだよっ!!」

いくら倒しても次々と周囲から出現するゴブリンの大群に対し、戦闘を辞めてレアは廃墟を走り抜ける。拳を当てるだけで倒せる相手ではあるのだが、レア自身の体力にも限界が存在し、彼は取り返しのつかない事態に陥る間に引き上げる。


『ギイイッ……!?』
「あれ、あいつらそんなに足は早くないのか……?いや、俺が早くなってるのかっ!!」


走り始めてから10秒も経過しない間にレアはゴブリンの大群を引き離す。彼の目にはゴブリンの動作がスローモーションのようにゆっくりと動いているようにしか見えない。理由として考えられるのはレアの能力値の「体力」と「脚力」が異常に高いからであり、彼が本気で走ればゴブリン程度では追いつけないのだろう。

最初の頃は追跡していたゴブリン達も徐々に疲労が蓄積してきたのか足を止める個体も続出し、やがて完全に撒く事に成功すると、レアは隠れられる建物の中に入り込む。


「ふうっ……結構走ったと思うけど、まだ余裕はあるな。体力の能力値を伸ばしたお陰かな?」


距離的には1キロぐらいは走り続けた気分だが、息も整っており、特に身体も疲れてはいない。それでも空腹感は誤魔化しきれず、早々に何か食べ物を発見する必要があった。


「だけど歩いているだけで襲われるのは面倒だな。靴下もどっかいっちゃったし……いちいち戦っていたらきりがない」


ゴブリン自体は脅威とは言えないが、その数は厄介であり、何度も戦闘を繰り返していたら流石にレアの体力が先に尽きてしまう。能力値を改竄して体力を上昇させる事も出来なくはないが、それでは根本的な解決には至らない。レアはステータス画面を開き、新たなスキルを覚える事にした。


「ゲームとかだと敵とのエンカウント率を下げる能力とかもあるよな……お、これなんか良さそう」
『隠密(技能)――存在感を極限まで薄くさせる』
『擬態(固有)――周囲の光景に会わせて姿を変化させる』


適当なスキルを発見したレアはSPを消費してスキルを習得し、大分SPが心許ない事に気付く。この際に文字変換の能力でSPの数値を変換させる。


――霧崎レア――

職業:剣士

性別:男性

レベル:10

SP:100

――――――――

能力値

体力:10000

魔力:10000

腕力:15000

脚力:15000

魔法威力:10000

魔法耐性:10000

幸運値:10000


――――――――

戦技

・火球


―――――――

技能

・翻訳――この世界の言語・文章を日本語に変換し、全て理解できる
・脱出――肉体が拘束された状態から抜け出す
・隠密――存在感を極限まで薄くさせる


――――――――

固有

・解析――あらゆる物体の詳細を見抜く
・擬態――周囲の光景に会わせて姿を変化させる


――――――――

異能

・文字変換――あらゆる文字を変換できる


――――――――


「これでいいのかな……お、丁度いい時に来たな」


スキルの習得を終えると、レアはゴブリンの大群の足音が外から響く事に気付き、早速覚えた能力を使用して外に出る。念のために戦闘態勢は整えておくが、走り続けて疲れ果てた状態のゴブリンの大群が彼の元に辿り着く。


「ギギィッ……!!」
「ギィッ……」
「ギィイッ!?」


位置的にレアの姿が見えているはずだが、ゴブリン達は彼の存在に気付いていないように素通りする。その光景を確認したレアは自分の両手に視線を向け、特に外見に変化は起きていないようにみえるが、ゴブリン達は彼に気付く様子もなく立ち去り、残されたレアは安堵の息を吐いて座り込む。


「助かった……のか?」


間違いなくゴブリンはレアの姿を捉えていたはずだが、ゴブリン達は彼の存在を認識できずに退散する。今現在のゴブリン達にとってレアの存在は道端に転がる石と同程度の存在感しか感じられず、何の興味を抱かずに立ち去ったのだろう。


「これで少しは落ち着けるな」


周囲から物音が聞こえなくなった事を確認すると、その場に座り込んでレアは立ち上がる。スキルの効果が何時まで続くのかは分からないが、それでも彼は今の内に身体を休ませるため、背中を壁に預けてステータス画面を開く。


「う~んっ……なんか、妙に身体がだるいな」


先程までは平気だったのだが、隠密と擬態のスキルを使用した影響なのか身体が少し重く感じ、ゴブリンの気配もないのでレアは能力を解除させる。すると一気に身体が楽になり、彼は自分の掌を握りしめる。


「もしかしたら一変に複数のスキルを使うと体力の消耗も大きくなるかもしれないな。だけど、戦うよりはマシか……」


ゴブリンに発見されても襲われなかったのは「隠密」と「擬態」のスキルの恩恵で間違いなく、使い所を誤らなければ大きく役立つ能力である事は間違いない。


「それよりも身体の方を何とかしないとな……何か眩暈までしてきたよ」


これまでに色々な出来事が起きた影響か、レアは肉体だけではなく、精神的にも疲労が蓄積されていた。最もここまでの道中でゴブリン以外の人間の姿は見えず、食料や水の類も発見できていない。このままでは飢死にしてしまう可能性もあり、どうにか動ける間に移動しなければならないのだが、レアはある考えを思いつく。


「あ、そういえば……解析の能力は自分にも使用できるのかな?」


ダマランやゴブリンにも使用した「解析」の固有スキルの事を思い出し、彼は何となく自分の腕を見つめながら解析の能力を発動させると、視界に画面が表示された。


――霧崎レア――

職業:剣士

性別:男性

状態:疲労

レベル:10

SP:100


――――――――


「あれ、自分にも使えるんだ。という事は……」


ステータス画面には表示されない「状態」の項目に視線を向け、試しにレアは画面に指を構え、文字変換の能力を利用して状態の項目を「健康」に変更させる。


――霧崎レア――

職業:剣士

性別:男性

状態:健康

レベル:10

SP:100


――――――――


「これでどうかな……おおっ?」


文字を変換させた瞬間、レアは自分の身体の疲労感や頭痛が消え去り、更には兵士に抑えつけられた時に残っていた身体の掠り傷も消失した。


「おおっ、これはいいな!!疲れも傷も消えるのか!?これなら回復魔法とか要らないかも……でも空腹と喉の渇きはどうにもならないのか……」


身体の怪我と体調は完全に治す事は出来たが、それでも腹の音が鳴り響き、彼は食料と水を未だに手に入れていない事に溜息を吐く。
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