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カタナヅキ

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外の世界へ

第53話 謎の少年

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「あの橋が気になるの?」
「ウォンッ……」
「でも、別に何も見えねえぞ」
「どうかされましたか?」


先頭を歩いていた狼車が止まったせいで後続から続いていた商団の馬車が停止した。ナオはウルが先に進もうとしない事を伝えると、ドルトンは橋に視線を向けて目を細める。


「ふむ、特に壊れている様子も魔物が隠れているようにも見えませんが、こちらの狼さんは何かが気になるのでしょうな」
「名前はウルだよ」
「これは失礼、ウル殿は何か気になるのですかな?」
「ウォンッ!!」


ドルトンの言葉にウルは力強く頷き、橋を渡れば大変な目に遭うと確信していた。だが、この橋を渡らなければ先には進めず、どうしたものかとナオは困り果てる。


「とりあえず、俺が様子を見てきます」
「兄ちゃんだけで大丈夫か?なんだったらあたしも行くぞ」
「大丈夫だよ。もしも橋が壊れても俺の魔法なら何とかなると思うし……」
「……それなら私の方が適任。水の魔術師の水場でこそ本領発揮できる」
「ミズネ!?」


会話の途中でミズネは一人で橋に向かうと、慌ててナオは追いかけようとした。だが、彼女は橋を渡る前に川に向けて水を構えると、いつもと違って魔法陣から水を生み出すのではなく、まるで川の水を吸い寄せるように水の塊を作り出す。

他の人間の目には杖に川の水が吸い込まれているようにしか見えないだろうが、ナオの魔力感知ではミズネは杖を構えた方向に自分の魔力を流し込み、川の水と混ぜ合わせることで魔法を生み出したのだと知る。これまでの彼女の魔法は純粋な魔力だけで構成されていたが、川の水を利用する事で必要最低限の魔力で魔法の発現に成功した。


(魔術師はこんなこともできるのか。そういえば師匠も同じことをやっていたような気がする)


ナオの師匠であるマリアも魔法を発現させる際、自然の風に自分の魔力を乗せる事で杖もなしに魔法を発現させていた事を思い出す。ナオは無属性なので二人の真似はできないが、する方法もあるのだと理解した。


「行ってきます」
「き、気を付けてね。怪我をせずに帰ってきてね」
「お母さん、心配し過ぎ」
「……そこはお父さんじゃねえの?」


親のように心配するナオにミズネは軽口を返し、そんな二人にネココは地味に突っ込みを入れる。そんなやり取りを終えた後にミズネは頭上に水球を維持した状態で橋の上を歩く。

橋の長さは十メートルほどでそれほど長いわけではないが、橋の下を流れる川の水流は激しく、落ちた場合は人間の力では自力で泳ぐのは不可能だと思われた。ミズネは周囲の警戒を怠らずに橋を渡り、あと少しで渡りきろうというところでどこからか矢が飛んできてミズネの足元に突き刺さった。


「それ以上先には進んじゃ駄目っす!!」
「わっ!?」
「だ、誰だ!?」
「君は……!?」


橋の反対側から放たれた矢を見て、ナオ達は矢が放たれた方向に視線を向けると、そこには樹木の枝の上に立つ少年の姿があった。マリアと同じくエルフだと思われ、一見すると少年か少女かわかりにくい容姿をしている。恰好から恐らくは少年だと思われるが、彼はミズネの弓を構えたまま注意した。


「そのままゆっくり後ろに下がって!!」
「……どうして貴方のいう事を聞かないといけないの?」
「ちょ、ちょっと!!本当にまずいんですって!!いいからいう通りにしてください!!」


ミズネは急に現れたエルフの少年にいぶかし気な表情を浮かべ、彼の言葉を無視して橋を渡りきろうとした。慌てて少年は弓を構えるが、ミズネが橋を渡りきろうとした時に足元に違和感を抱く。

橋の傍には獣の足跡が存在し、恐らくは熊と思われる足跡が残っていた。しかし、野生動物の熊と比べて足跡は異様に大きく、一目見ただけでミズネは足跡の主が単なる動物ではなく魔物だと気づいた。


「この足跡はまさか……」
「赤毛熊っす!!ここら一帯はもう赤毛熊の縄張りなんすよ!!」
「赤毛熊だって!?」
「あの化物熊がこの森にいるというのですか!?」
「赤毛熊……?」


少年の言葉に全員が驚愕の表情を浮かべるが、ネココは首をかしげた。彼女は赤毛熊なる存在を知らぬようだが、森で暮らしていた頃にナオはマリアから聞いた話を思い出す。


『この森には生息していないけど、山や森を訪れるときに最も警戒すべき魔物は赤毛熊よ』
『赤毛熊ですか?』
『名前の通りに全身が血のように赤色の毛皮で覆われた熊よ。体長は普通の熊の倍ぐらいで鋼鉄も簡単に切り裂く牙と爪を持つ恐ろしい魔物よ。巨体の割に素早くてボアでさえも一撃で殺す腕力を誇るわ』
『そ、そんな怖い魔物がいるんですね』



マリアの言葉を思い出したナオは冷や汗を流し、彼女の話では赤毛熊は自分が踏み込んだ土地は全て縄張りと認識しており、もしも自分の足跡に他の動物の足跡が踏み込んでいた場合、縄張りを犯した存在として決して許さないという。

どうやら橋の向こう側に赤毛熊が生息するらしく、もしも少年がミズネに事前に注意していなければ彼女は足跡を踏み荒らして赤毛熊の獲物と認定されていたかもしれない。少年は足跡を踏み荒らさないように樹木に上っていたらしく、彼は一安心した。
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