私を保護した第二王子が嘘ばかり吐いてくる

うづき

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25-1 お互いの色

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 城下での贈り物探しは、それなりに時間がかかった。
 寝付きに良いものを……と考えながら、奏は騎士と共に様々な店を回ったのだが、探してみるとあれもこれも良い気がして簡単には決められない。
 それに折角渡すのだから出来れば使い続けられるものがいい、なんて思ったこともあり、贈り物探しは一瞬暗礁に乗り上げかけた。

 アイマスクや耳栓、後は良い香りがするもの、寒い時期に布団を温める何か――なんて色々と探す内、奏は騎士と一息吐くことになった。手近な店に入り、食事を摂る。店内には星の意匠を象ったもので飾り立てられていた。

 ここへ来るまでにも、城下街の多くの場所が、星のモチーフで飾られていた。きっと夜になったら美しいイルミネーションを眺めることが出来るのだろう。
 十八日に、それをフェリクスと眺めることが出来たら。考えると、ふわふわとした感覚が胸の奥を撫でるようにくすぐる。甘い感情を吐息と共に吐き出して、奏はそっと周囲を眺めた。

 ――残る物を渡したい、と思うのは、多分、酷いことなのだろうなと思う。
 消えるものではなく、無くなるものでもなく。――大事にされている限り、残り続けるもの。そういったものを渡したい。とんでもなく重たい思いを抱いているのが自分でもわかって、奏は心中で苦笑を零した。まるで自分の存在を相手に刻みつけようとしているかのようだ。

 頭の中で、午前中に見て回った品々を整理する。
 香油は、駄目だろう。既にフェリクスは持っている。滅多なものはあげられないし、香りほど好みが分かれるものはない。フェリクスの好みでは無い匂いを渡したら、極論使って貰えない可能性がある。いや、フェリクスのことだから使いはするだろうが、嫌な匂いを嗅ぐことほどストレスの溜まることはない。

 アイマスクや耳栓――は、渡したとして着けるだろうか。
 毒殺されかけた過去があるというのに、睡眠時にわざわざ視覚や聴覚を奪うようなものを渡すのはやめるべきだろう。フェリクスが今も命を狙われている、とは思えないし、思いたくないが、それでもそれらが与える影響を考えると選択肢から外れる。

 布団を温めるものについては、正直、湯たんぽのようなものがルーデンヴァールには無かった。魔法があるから当然とも言える。寒いときは魔法を使って室内を暖めれば良いのだから、必要無いのだろう。
 奏は食事を遅々として進めながら、小さく笑う。午前中に考えていた案は全て没、である。

 人への贈り物探しって、こんなに大変だったのか――なんて考えながら、店の天井から吊られた星のモニュメントを見つめた。
 星のモニュメントは、磨りガラスのようなものが組み合わさって作られているようで、不規則に輝いている。ルーデンヴァールに電気という概念は無いので、魔法か――奏の知らない何かが、星を瞬かせているのだろう。

 綺麗だな、と考えながらぼんやりと眺めて、奏はそっと店の外へ視線を寄せた。既に外は薄暗くなりつつある。
 星の季節は、昼を過ぎると急激に夜へ向かい始め、おおよそ四時から五時くらいになると完全に星空が広がる。現代で言う所の冬に似ている。
 ただ、冬に比べるとルーデンヴァールの星の季節は寒くもないので過ごしやすい季節ではあるのだが。

「星の季節って、本当に陽が落ちるの早いですね。なんだかびっくりします」

 独り言めいて囁くと、奏の向かいに腰を下ろしていた騎士が微笑む。――聖女としての仕事をして城下に降りるときと違い、今日は聖女とバレないように過ごしたいから友人や家族を相手にするときのように接して欲しい、と道中に必死でお願いをした。結果として、騎士が根負けするような形で頷いてくれたので、今は食事を共にしている。

 騎士は微笑むと、「幼い頃からこうなので、驚いたり、不思議に思うことはありませんでしたが、そういう意見もあるのだと勉強になりますね」と囁く。

「十八日は、今日よりもひときわ早く、陽が落ちますから、きっとさらに驚かれることかと」
「……そんなにですか?」

 ただでさえ、今も早いような気がする。しかも別に、緑の季節から星の季節にかけて徐々に日の入りが早くなっていった、というわけでもないのだ。星の季節になってすぐ、日の入りが早くなった。それこそ、まるで季節ごとに太陽の落ちる時間が明確に区切られているのではないかと思うほどに。
 想像が出来ず、奏は目を瞬かせる。騎士は言葉を続けた。

「特に、ルーデンヴァールの人々は星空を好きなものが多いので……夜が長いことを喜びこそすれ、悲しんだり驚く者は、見たことがありませんでした。――今日まで」

 静かな口調だった。周囲に零れないように、声量を抑えられている。会話の内容が、あからさまにルーデンヴァールの常識を説くようなものであるから、というのもあるのだろう。どこから聖女であるということがバレてしまうか、わからないのだ。用心はするに越したことが無い。

 奏は騎士の言葉を飲み下すような間を置いて、息を零す。そういえば、フェリクスも星空が好きだな、と思う。よく空中散歩に行くと言っていたし、奏も二度ほどフェリクスに連れられて空を散歩した。
 多くの人々がそうであるように、フェリクスも星空を好んでいるのだろう。

 奏も、星空は好きだ。小学生の頃、授業の一環でプラネタリウムに行ったことがあり、その時に頭上に広がる美しい星々に息を飲んだ覚えがある。
 奏の友人は、奏以上に星空が好きで、自作の小型プラネタリウムを作っていた。そういう手作りキットがあるらしい。紙に穴を空け、内側から照らし、天井に星を投影する。友人の家に泊まりに行ったとき、「折角だからプラネタリウム見ていってよ」と、天井に投影された星を見たこともあるほどで――。

 そこまで考えて、もしかしてこれは良い案なのではないだろうか、と奏は瞬いた。
 天井に吊されている星のモニュメントを見る限り、魔法を使わずとも光る、光源のようなものはこの世界にあるようである。それを使えば、作れるのではないだろうか?

 作り方は友人が滔々と説明してくれたから覚えている。いくつかの紙を重ね合わせ、そして多面体を作るのだ。この世界の星図があるかどうかは調べないとわからないが、ここまで星空が好まれる世界なのだから、何かしらの資料はあるはずである。

(決めた)

 作ろう、簡易的な小型プラネタリウム。
 黒色の紙、もしくは硝子を使うので、奏の色の何かが欲しい、という要望にも即している。そうと決まれば、多面体を作れる職人を探す必要があるだろう。
 細工が出来る人、つまりは技巧のある職人。城下街には様々な店があり、様々な人々が店を開いている。即時見つけて、納期を相談。よし!

「騎士様、相談があるのですけれど、良いですか?」
「なんなりと」

 護衛騎士が微笑む。奏は頷いて、考えていることを口にした。


 騎士に相談をして、伝手を辿って職人と話し、奏の考えているものを作成してもらった――のが、十五日のことである。
 その日のうちに、作成してもらった物の試運転を経て、いくつかの要望を送り、それを元に改良をしてもらったものが十七日に届いた。

 それを再度試運転し――これならきっと喜んで貰えるだろうと奏は胸を撫で下ろした。
 小型のプラネタリウムめいたものを作りたい、という、奏の要領を得ない説明を、よくぞ紐解いてここまで作り上げてくれたものである――と、奏は職人に心の中で何度も感謝を捧げた。

 騎士の紹介してくれた職人は、硝子職人だった。どうやら騎士の知り合いらしく、奏と騎士の姿を見ると驚いたように目を丸くし、作業の手を止めて話を聞いてくれた。
 相談の上で作り上げられたものは、黒い球体の形をしていて、底の部分だけ穴が開いている。
 ここへ、光り輝く宝石として名高い『リヒトライン』という石をはめこむと、内部から光が外へ照射され、天井に星空が広がる――という寸法である。
 黒い硝子には光を通さない特殊な塗料が使われている。完成した球体に、魔法を使って微細な穴を空けて、簡易プラネタリウムは出来上がった。

 職人からは、こういうものは見たことが無い、改良して生産ラインに乗せたら売れるかもしれない、作っても良いか、という打診を受けたので、季節が一巡りした後なら作って貰って構わないという話をしている。
 奏の提案で作成されたものだが、元々現代にあったプラネタリウムの特許を、奏も主張するつもりはないが、出来れば一年くらいはフェリクスの手元でだけ、楽しめるものであってほしい、と思った。職人は快く頷いてくれた。

 ステリアに手伝って用意してもらった小さな小箱に、小型のプラネタリウムを包装する。大きさはこぶし大くらいのものなのだが、見た目の小ささに反して、投影される星空は大味でなく、美しい。
 二度目の試運転では、ステリアにも一度見て貰ったが、感極まったように「星空を送るのですね」と口にしていた。あそこまで感動してくれていたのだから、フェリクスに渡しても問題は無いだろう。

 これは喜ぶ顔が見られるかもしれない――なんて考えながら、奏は笑顔で眠りについて、十八日を迎えた。
 星の月、十八日。騎士が言うに、星の季節でもひときわ陽が落ちるのが早いらしいが――一体何時くらいから、暗くなっていくのだろう。

「今日はだいたいいつぐらいから暗くなっていくんですか?」
「そうですね。毎回、決まってお昼を過ぎてから、二時間の間には暗くなっていきますよ」
「はやいですね……」
「はい。夜が一番長い日、それが十八日ですから」

 ステリアは嬉しそうに言葉を続ける。奏の髪を櫛梳きながら、ほう、と吐息を零した。

「……聖女様がいらっしゃって、もう六つの季節を巡ったのだなあ、と思うとなんだか感慨深くなってまいります。最初にお会いしたころにくらべて、髪も……伸びましたね」
「切ろうかな、とは毎回思うんですけれど」
「それは……そうなりますと、信頼の出来る職人を召集しなければなりませんね。万が一のことがあっては大変ですから」

 万が一のこと。紡がれた言葉に瞬いて、奏は思考を巡らせる。
 多分、下手な職人を召集してしまえば、切った後の髪が売買される可能性もある――のだろうな、となんとなく察することが出来た。
 聖女のものは価値がある。身につけているもの、持っていたものですら大変な価値が出ると言われたばかりだ。恐らく、髪も。――フェリクスも以前、髪が癒やしの力を宿していたら大変なことになっていただろうと言っていた。

 実際、奏の髪は一切癒やしの力なんて宿してはいないが、奇跡のような力を求めて髪を収集される可能性も無きにしもあらずだろう。ちょっとぞっとする。

「……うーん、なんかこう、自分で切れたら良かったんですけれど」
「奏様はご自分の髪の色がお嫌いですか?」
「そういうわけではないです、ただ、長いと手入れとか大変だよなあって」

 奏は首を振る。幼い頃から見慣れた髪色を、今更好き嫌いで分けることはない。だが、長くなればなるほど、少しずつ手間がかかってくるのが大変だなあ、と思うくらいで。
 奏の言葉にステリアが笑う。「お任せ下さいませ」と静かに囁かれて、奏は軽く首を窄めた。
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