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しおりを挟むクリスティーヌの行動は功を奏し、学園を無事に卒業することができた。
依然としてアーレ伯爵の妾問題は残っていたが、それなりに育ったクリスティーヌを見て、父も惜しいと思うようになったらしく、時折「伯爵家ぐらいなら嫁げるな」と呟いていた。
しかしそのころ。
なぜか社交界では、クリスティーヌは『ふしだらな悪女である』という噂が流れはじめていた。
そのせいだろうか。夜会の熱気に当てられてしまい、庭園に出て涼んでいたところを知らない男性に見つかってしまい「噂通りだな。今夜は俺が相手をしてやろう」と言われ、庭園の奥へ引きずられてしまった。
それを間一髪のところで助けてくれたのは、タルコット公爵家のレイであった。
一周目でヴィヴィアン殿下に肩を抱かれるマイナを、斜め後ろから見ていた彼である。
どこから見ていたのか、それとも初めからそこにいたのか。
レイはクリスティーヌがドレスの裾を捲り上げられていたときに止めてくれた。
心臓が痛いほど早鐘を打ち、涙はとめどなく溢れていた。
それがきっかけとなり、ときおりレイに夜会でエスコートされるようになった。
そうしているうちに二人は恋仲であるという噂が流れ、その噂をなぞるかのようにプロポーズされ、結婚することになった。
爵位の釣り合わなさと婚約期間の短さについては、恋愛結婚ということでレイが周囲を納得させたようだった。
しかし、レイには「あなたを愛することはない」と言われ、初夜を拒否された。
彼がヴィヴィアン殿下と結婚したマイナを想っていることは明らかだったので「そうだろうな」としか思わなかった。
レイがクリスティーヌと結婚してマイナへの気持ちを偽装したように、クリスティーヌもまた、運命のループから逃れるために偽装していたに過ぎない。
父の事業の助けになるような、怪しい人物と結婚するぐらいなら、見目麗しいレイの偽装結婚に乗るほうがマシという打算だった。
(だからきっと、これは天罰)
結婚して一年が経ったころ、王太子殿下と第二王子殿下が相次いで病死するという、国を揺るがす事態が起きた。
父親が王弟であり、王位継承権を持つレイに、ヴィヴィアン殿下の妃だったマイナと結婚するよう王命が下った。
一刻も早くレイを立太子させたいらしい。
王太子不在は近隣諸国に足元をすくわれかねないからだろう。
それを考えればクリスティーヌとの離婚など些末な問題だ。
「このような策しか残されておらず……本当に、申し訳ございません」
レイと離婚しなければならないということをクリスティーヌに説明し、頭を下げたのはロジェだった。
ロジェは次期宰相候補として活躍しており、クリスティーヌとも面識があるという理由から嫌な役割を押し付けられていた。
(今世でも、私の話を聞いてくれるのはロジェ様だけなのね)
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