【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび

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 夫婦の寝室に入ると、クリスティーヌは小さな体を丸めて寝ていた。
 横向きで丸まって寝る癖があるのだと知ったのは初夜のときだ。
 起こさないよう気を付けながら隣に横たわり、クリスティーヌの髪を撫でる。

 本当は起きてるときに触れたいのだが、まだ難しいだろう。

 結婚式の誓いのキスも頬に触れるだけにした。
 初夜も「あなたを大切にする」と改めて誓うにとどめ、本当の意味での初夜は戴冠式後に改めてという説明をした。

 ロジェの気持ちを一方的に押し付けるつもりはない。
 クリスティーヌが白い結婚を続けたいのであれば、そうするつもりでいる。
 改めてと言ったのは、戴冠式後に改めて気持ちを確認するという意味だった。

 懐妊は戴冠式後というのは、降嫁したヘンリエッタもカロリーナも同じ条件だ。
 宿った子が王家の血筋ではないかと疑われるのを避けるための政治的な判断だ。

 ヘンリエッタの伴侶となったフィル・べイエレンも、カロリーナの騎士であったバルドも了承している。

 結婚式後、深夜この部屋でクリスティーヌに伝えたときは、わかっているような、わかっていないような顔をしただけで彼女は頷き、部屋は別でと言い始めたところを説き伏せて一緒に眠った。

 クリスティーヌを暗い部屋に一人きりにしたくなかった。

 けれども、それが思いがけずロジェの癒しになった。
 良い意味で誤算だった。
 クリスティーヌの柔らかな美しい顔を眺めたり、ふわふわの髪を撫でたりすると、どうにも心が休まるのだ。

 同時に、不安を覚えることも多い。
 小さい口から寝言のようなものが聞こえると心配になり耳を澄ませてしまう。

 いや、とか。
 ちがう、とか。
 やめて、とか。

 あまりいい夢だとは思えない呟きに、胸が痛む。
 まだそれほど長くない期間で、もう何度も耳にした。

(クリスティーヌの心が休まるのはいつになるのだろうな)

 ロジェはクリスティーヌの小さな唇が、苦しみに歪まないことを願いながら瞼を閉じた。

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