生まれ変わった大魔導士は、失われた知識を駆使して返り咲きます。

三歩ミチ

文字の大きさ
32 / 73
2 真相解明! 砂漠の行き倒れ

2-2.サラの頼み

しおりを挟む
「悪いな、わざわざ来てもらって」
「いえ。もう仕事は良いんですか?」
「ああ。最後の奴も、さっき報告に来たからな。本当に……今までは遅くまで砂掘って、それでも袋いくつか、が当たり前だったのに、大変な変化だよ」

 ゴードンは机上を整理し、立ち上がる。肩を軽く回してから、私たちと共に外に出た。扉に鍵をかけ、大股で歩き始める。

「姪の働いている店は、値段は手頃なんだが、店主の腕が良くてな。美味いんだよ」
「そうなんですね」

 ゴードンの歩く速さには、なかなか追いつけない。小走りで後ろについていると、ニコが私の腕を取った。
 体が僅かに浮き上がり、ニコに引かれて前に進む。走らなくて良くなった私は、ニコのいる隣を見た。

「……こんなこともできるのね」
「イリスが、新しいことを想像して実践する力が大事って書いてたでしょ。やってみた」
「それは……」

 それは、自分の本に書いた内容である。確かに書いたし、今でもそれは正しいと思っているものの、こう自慢げに話されると恥ずかしいのはなぜだろう。
 蒸し返されて俯く私を、ニコは運ぶ。歩かなくても前に進むのだ。体力のないこの肉体には、ありがたい配慮である。

「ここだ。よう、サラ」
「あれ? ここは……」

 ゴードンが、慣れた様子で扉を開けて入っていく。その店は、「オアシス」。言わずと知れた、私たちもよく通う、料理屋である。

「いらっしゃい、おじさん! あら……こんばんは」

 いつもの、水色の髪の店員。彼女はちょっと目を見開き、そのあとにこりと笑う。

「ん? 知り合いなのか?」
「俺たちも、よく来ているんです。このお店、ご飯が美味しいので」
「そうだったんだな。旨いよなぁ、何食っても旨い」

 四人掛けのテーブルに案内され、ゴードンの向かいに、私とニコで並んで座る。早い時間であることもあって、まだ店内に他の客の姿はなかった。

「ありがと、おじさん。今日は何にする?」
「そうだなぁ……何か食いたいモンはあるか?」

 ゴードンはメニューを眺め、そう聞く。私は首を左右に振った。

「せっかくですから……ゴードンさんのおすすめは、なんですか?」
「俺か? やっぱり肉だな、肉。特にないなら、俺が適当に頼むぞ」
「お願いします」

 ゴードンはてきぱきと、いくつかの料理を注文する。店員は注文を受け、厨房へ下がった。

「あの方が、ゴードンさんの姪御さんだったんですね」
「そうだ。器量良しだろう? 兄の、娘なんだよ」
「お兄さんがいらっしゃるんですね」

 ニコとゴードンの世間話を聞きながら、私はニコが出した水を飲む。冷たくて美味しい。

「ああ。俺とは違って、できた兄だよ」
「そうなんですね」
「俺の兄は、騎士様だからな」
「なるほど。それで、ゴードンさんが今の仕事をしているんですか?」

 兄は、騎士。元々騎士の仕事であった砂出しを、騎士ではなさそうなゴードンがしている理由が、つながった。
 身を乗り出して聞くと、ゴードンは一拍間を置き、「おう」と答える。

「初めは兄が統括していたんだが、やっぱりあれは、騎士の仕事じゃないって話だ。弟の俺に白羽の矢が立った。街の警備をしてたから、土地鑑もあってな」
「へえ……」

 国の仕事として行っていたものを、軌道に乗ったら市民に任せるというのは、まあある話である。
 騎士といえば、実力主義で、ある程度の身体能力と魔法の腕があれば、市民でもなれる者はいる。もちろん、代々騎士であるという家系もあるにはあるが。兄が騎士で自分は市民であるというゴードンの立場も、おかしなものではない。

「お父様が騎士なのに、姪御さんは、ここで働かれているんですか……大変ですね、王都での生活も」

 ニコがしみじみと言う。田舎から稼ぎに出てきた彼は彼で、思うところがあったのだろう。

「あたし、魔法全然使えないんですよ。勉強して家庭教師にでもなれって言われたんだけど、魔法が使えないと、なれないんですよ、やっぱり。はい、注文の料理でーす」

 大皿を器用にいくつも運んで、軽い音を立てて机に置く。普段の積極よりもさばけた調子なのは、親族であるゴードンが近くにいるからだろう。

「おじさんが就職先の面倒見てくれて、ここで働いてるんです。魔法が使えなくっても、ちゃんと働けばいいって、言ってもらえて」
「そうなんですね。良いおじさんですね」

 相槌を打つニコ。私は自分の取り皿に料理を取り分け、冷めないうちに口に運んだ。チーズがとろりと溶け、美味しい。

「そういえばおじさん、最近砂出しがやばいって、噂になってるわよ。なんか、街中で大きい砂嵐を起こして、砂を出しまくってるって」
「ああ。噂になってるか」
「魔法を使えない人が頑張ってるんじゃなかったの? ちょっと、がっかりなんだけど」

 まだ客がいないからか、店員のサラはそのままテーブルの横で話し続ける。
 砂出しの変化は、既に人々の間で噂になるほど、目についているようだ。それで良い。あれだけ砂を巻き上げていて、その変化に気づかないはずはないのだから。
 ほくそ笑みながら、私はサラダに混ざったリンゴを齧る。しゃきしゃきとした、心地よい食感。爽やかな酸味のある液体が掛かっていて、これもまた美味しい。

「魔法を使えない奴らばかりだったのに、皆使えるようになっちまったんだ」
「えぇ? そんなはずないじゃない」
「あるんだよ。この二人のおかげでな」

 じゃがいものスープは、冷たい喉越しがなんとも言えず良い。

「……イリス、聞いてた? 俺たちの話だよ」
「え?」

 ニコの言葉に食べる手を止め、視線を皿から上げる。三対の瞳に、しっかり見つめられていた。

「……聞いてなかった」
「ふふっ。食べるのに夢中だったもんね」

 口元を押さえ、サラが笑う。ニコが眉尻を下げ、困ったような笑みを浮かべている。

「だからお前も、魔法を教われば変わるかもしれんぞ。まだ若いんだから、いくらだって成長できる」
「頼まれたら、教えますよ。魔法は誰だって使えますから」

 話の流れがよくわからないが、とりあえずそう伝える。本当だ。砂出しの皆に魔法を教えたのに、ゴードンの姪に求められて、教えない理由はない。

「あー……それで今日、二人を連れてきてくれたのね。ありがとう、おじさん。だけど、……うーん、どうしようかな」

 サラは片頬に手のひらを当て、首を傾げる。愛嬌のある仕草だ。

「私、魔法が使えない理由って、はっきりわかってるんだけど……ちょっとここでは、話せないかも」
「そうか……詰所は?」
「あそこ、砂出しの人たちが来るでしょ? 知らない人が出入りするところでは、ちょっと……」

 伏し目がちになるその睫毛が、うっすらと翳る。そのアンニュイな雰囲気は、本当に困っているのだ、と感じられた。

「私たちの泊まっている部屋だったら、知らない人は来ないわよ」

 困っている人は、助けたいのだ。思わずそう口に出すと、サラは「いいの?」と瞬きした。

「イリスがいいなら、俺は構いませんけど」
「いいわ。その……話したいなら、だけど」

 話しにくいことを、無理に聞き出す道理もない。

「……聞いてもらいたいかも」

 少し迷う仕草を見せたサラが、そう呟く。

「なら、ゴードンさんに予定を言ってもらえれば、いつでも。私たちは、最近は仕事があんまりないので」
「そうだな。奴らも軌道に乗ってきたから……ありがたいこった」

 ゴードンが、水をぐいっと飲み干して言う。ゴードンの前にあるお肉も美味しそうだ。手を伸ばし、皿に取り分けた。

「あたし、明日はお休みをもらってるの。明日、行っても良い?」
「もちろん。詰所で待ち合わせましょう」
「わかったわ」

 肉汁あふれる肉を噛みしめる私の代わりに、ニコが答える。

「悪いな、世話になってばかりで。今日は奢るから、せめて好きなだけ食べてくれ」
「ありがとうございます! じゃあ俺、これと……これも」

 早速メニューを見て、ニコが追加注文をする。

「かしこまりましたぁ! 今言ってきますね」

 サラは笑顔で頷き、厨房へ戻る。その後は一頻りゴードンと砂出しについて語り、たらふくご飯を食べ、満足な時間を過ごした。
 帰る頃にはもう遅くて、眠い目を擦りながら銭湯へ行き、宿に戻ったらすぐ寝てしまった。
 その日の大蛇はいつもよりも力強く、耳から食べられる夢を見た。起きても耳がじんじんしたから、ニコに聞いたけれど、「何ともなってないよ」と言われた。毎日悪夢ばかりで、不思議である。これも、この肉体に入ったから起きる問題なのだろうか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...