百物語 ーヒャクモノガタリー ♦︎3分以内に読める怪談のショートショート集♦︎

いくいえむ

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第87夜 父

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あれは忘れもしない小学2年の8月23日。
夏休みも終わりに近づき、私はリビングで残った宿題を片付けていました。
家の電話が鳴り、母が出たのですが、真剣な顔をして電話の相手と話していたのを覚えています。
そして、電話を切ると、またどこかに電話をして、バタバタと出かける支度を始めたのです。
「お母さん、これから出かけなくちゃならなくなったの。少しの間、お留守番しててね。夜の6時頃におばあちゃんが来てくれるから。それまでは誰か来ても絶対玄関を開けちゃダメよ」
母はそのようなことを言って、私を一人家に残して出て行きました。

夕方の5時頃だったと思います。
テレビの教育番組を見ていると、玄関のチャイムが鳴りました。
『おばあちゃん、もう来たのかな?』
と思って、玄関に行くと、玄関のドアのガラスに男の人のシルエットが写っていました。
「どちら様ですか?」
と私が訊くと、
「父さんだよ。開けてー」
と返事がありました。
父はいつも夜遅く帰ってくるので不思議に思いましたが、声は明らかに父の声だったので、
「お父さん、今日は早いんだね」
と言いながら、ドアを開けました。
「6時になったら、おばあちゃんが来るって——」
と祖母が来るという旨を言いかけて、止めました。
ドアの向こうには、誰もいなかったのです。
玄関を出て、家の前の道も見ましたが、父の姿はありませんでした。
私は気味の悪さを覚えながら家に戻り、玄関の鍵を閉め、また教育番組を見始めました


6時を少し過ぎた頃、またチャイムが鳴り、ドアを開けると今度は祖母が立っていました。
いつもニコニコしている祖母に笑顔はなく、私はただならぬ雰囲気を感じました。
「お父さんが事故にあったから、これから病院に行くよ」
祖母はそう言って、私に出かける支度を促しました。

父は亡くなっていました。
営業の外回り中にトラックに跳ねられ、救急車で病院に運ばれましたが、意識が戻ることはなかったそうです。
亡くなった時間は、夕方の5時2分。
ちょうど父が訪ねてきた頃でした。
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