あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu

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寝不足の5日間

眠れない僕 VS 予言者

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【登場人物】

眠井 眠杉(ねむい ねむすぎ): 主人公の中学2年生。普段は超ポジティブで元気いっぱい。でも、寝不足になると、おかしなテンションになる。

月野 ひかり(つきの ひかり): 眠杉のクラスメイト。静かで、ミステリアスな雰囲気の女の子。

太陽 翔太(たいよう しょうた): 眠杉の親友。サッカー部の熱血少年。

『予言者Y』: ネットに現れた、未来を次々と言い当てる謎の人物。

第1話(1日目):水曜日の警告

8月13日(水)

「よっしゃー! 二学期も、俺が主役だぜー!」

夏休みが明けて、数日。
あの地獄みたいな寝不足から完全復活した俺、眠井眠杉は、朝から絶好調だった。
親友の太陽翔太とくだらない話でゲラゲラ笑って、隣の席の月野ひかりに「眠杉くん、うるさい」って呆れられる。
そんな毎日が、最高に楽しかった。

ひかりを狙っていた悪い奴らは、警察に捕まった。
これで、やっと平和な日常が戻ってきたんだ。
そう、信じてた。

「なあなあ、眠杉、これ知ってるか?」
昼休み、翔太がスマホの画面を俺に見せてきた。
「最近、マジでヤバいって噂の、『予言者Y』!」

画面には、SNSの投稿が映ってた。

【予言者Y @yogen_y】
今日の放課後、A組の佐藤くんとB組の鈴木さん、校舎裏で告白イベント発生。結果は…ご想像にお任せします。

「なんだこれ? くだらねえ」
「それがさ、この予言者Y、マジで当たるんだって!」

俺たちは、放課後、こっそり校舎裏を覗きに行った。
そしたら、本当に、佐藤くんが鈴木さんに告白してたんだ。
結果は…まあ、うん。佐藤くん、ドンマイ!

「すげえ…! 本物だ…!」
翔太は、目をキラキラさせて興奮してる。
俺は、なんだか、嫌な予感がした。未来が分かるなんて、普通じゃない。

その夜、予言者Yが、新しい投稿をした。
今度は、俺の心を、直接ザワつかせるような、不気味な内容だった。

【予言者Y @yogen_y】
眠井眠杉くんへ。
君の、楽しい毎日は、もうすぐ終わる。
最初の『災い』は、明日の夜。君の大切なものが、壊れるだろう。

心臓が、ドクンと音を立てた。
俺の名前を知っている。
そして、俺に、警告してきてる。

(まさか…あの事件の、残りの仲間か…?)

不安な気持ちを抱えたまま、俺はベッドに入った。
久しぶりに、寝つきの悪い夜だった。

第2話(2日目):木曜日の災い

8月14日(木)

「眠杉、お前、顔色悪いぞ? 大丈夫か?」
朝の教室。翔太が、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「へーきへーき! ちょっと、昨日の夜、宇宙人と交信してただけだって!」
俺は、いつものようにおどけてみせた。でも、心の中は、予言者Yのことでいっぱいだった。

ひかりは、俺の様子がおかしいことに気づいてるみたいだった。
「眠杉くん、何か、悩み事でもあるの?」
「いや、何でもねえよ! 俺に、悩みなんて言葉は存在しねえ!」

強がってはみたものの、授業中も、ずっと上の空だった。
『君の大切なものが、壊れる』
俺の大切なものって、なんだ?
家族? 友達? それとも、昨日買ったばっかりの、新作のゲームソフトか?

放課後。俺は、まっすぐ家に帰った。
何かが起きるなら、家でじっとしていた方が安全だと思ったからだ。

夜になった。
俺は、部屋の隅で、体育座りをしながら、その時を待っていた。
時計の針が、カチ、カチ、と音を立てる。

何も、起きない。
やっぱり、ただのイタズラだったのか…?
俺が、ホッとため息をついた、その瞬間だった。

ガシャーン!

階下から、何かが割れる、ものすごい音がした。
俺は、慌ててリビングに駆け下りた。

そこに、信じられない光景が広がっていた。
床に、粉々になったテレビの液晶が散らばっている。
そして、その前で、うちの飼い犬のポチが、尻尾を振りながら、得意げな顔をして座っていた。

「ポチ…お前…」
どうやら、ポチが、はしゃいでテレビ台にぶつかって、テレビが倒れてしまったらしい。
それは、俺が、小学生の時からずっと使っていた、思い出のテレビだった。俺の、宝物の一つだった。

呆然と立ち尽くす俺のスマホが、ピロン、と鳴った。
予言者Yからの、新しいメッセージ。

『言った通りでしょ? でも、これは、まだ始まりに過ぎない』

ぞわり、と鳥肌が立った。
予言者Yは、本物だ。
そして、間違いなく、俺の日常を、壊しにきている。

第3話(3日目):金曜日の恋愛予言

8月15日(金)

「眠杉、マジでドンマイ…」
翌朝、俺が学校でテレビの話をすると、翔太が同情してくれた。
「でもよ、ただの事故だろ? 予言者Yとか、関係ねえって!」
「そうだと、いいんだけどな…」

俺は、ひかりに、予言者Yのことを話すべきか、迷っていた。
彼女を、これ以上、不安にさせたくない。
でも、一人で抱え込むのも、限界だった。

昼休み。俺は、屋上で、ひかりと二人きりになった。
「ひかり、実はさ…」
俺は、勇気を出して、予言者Yのことを、全て話した。

俺の話を、ひかりは、黙って聞いていた。
そして、俺が話し終わると、静かに、こう言った。
「…私も、協力する。一緒に、そいつの正体を突き止めよう」
「ひかり…!」
「だって、私たち、友達でしょ?」

ひかりのその一言で、俺の心は、少しだけ軽くなった。
一人じゃない。それだけで、こんなにも心強いなんて。

その日の夜。予言者Yが、また、新たな予言を投稿した。
今度は、恋愛に関する予言だった。

【予言者Y @yogen_y】
明日の花火大会。
太陽翔太くんは、勇気を出して、好きな人に告白する。
でも、その恋は、実らない。

「なんだとぉ!?」
スマホの画面を見た翔太が、叫んだ。
「なんで、俺が告白すること知ってんだよ!?」
「え、お前、告白すんの!? 誰に!?」
「そ、それは…言えねえ!」

翔太は、顔を真っ赤にして、そっぽを向いてしまった。
俺とひかりは、顔を見合わせた。
((分かりやすすぎ…))

翔太が好きなのは、クラスメイトのA子ちゃんだ。クラスの誰もが知っている、公然の秘密。
でも、A子ちゃんには、別に好きな人がいる。
だから、この予言は、ほぼ100%、当たるだろう。

「どうする、翔太? 行くのか? 花火大会」
「…当たり前だろ! 予言なんかに、俺の恋路を邪魔されてたまるか!」

翔太は、そう言って、拳を固めた。
俺は、親友の恋が、始まる前に終わってしまうのを、ただ見ていることしかできないんだろうか。

第4話(4日目):土曜日の花火と涙

8月16日(土)

花火大会の会場は、すごい人だった。
浴衣を着た人たちが、楽しそうに笑いながら、歩いている。
俺とひかりは、少し離れた場所から、翔太とA子ちゃんの二人を見守っていた。

「翔太、緊張してるね」
「ああ。見てるこっちが、ドキドキするぜ」

やがて、夜空に、大きな花火が打ち上がった。
ヒュ~~…ドン!
色とりどりの光が、夜空をキャンバスに、綺麗な絵を描いていく。

その光に照らされて、翔太が、動いた。
A子ちゃんに向き直り、何かを、必死に話している。
A子ちゃんは、困ったような顔で、首を横に振った。
そして、深々と、頭を下げた。

翔太は、何も言わずに、その場に立ち尽くしている。
その背中が、なんだか、すごく小さく見えた。

予言は、当たってしまった。

俺たちは、一人でとぼとぼと歩く翔太の元へ、駆け寄った。
「翔太…」
「…おう。見てたのかよ。カッコ悪いとこ、見られちまったな」
翔太は、無理に、笑おうとした。でも、その目は、真っ赤だった。

「…予言なんて、クソくらえだ」
翔太は、地面を蹴飛ばして、そう呟いた。
その夜、俺たちは、何も言わずに、ただ、翔太のそばにいた。

家に帰ると、予言者Yから、またメッセージが届いていた。

『悲しいね。人の心は、未来の前では、無力だ』

俺は、スマホを握りしめた。
怒りで、手が震える。
絶対に、許さない。
人の心を、おもちゃみたいに弄ぶ、お前を。

「ひかり、翔太。明日、作戦会議だ。絶対に、あいつの正体を、暴き出してやる」
俺は、二人に、力強くメッセージを送った。
もう、迷わない。

第5話(5日目):日曜日の真実

8月17日(日)

日曜日。俺の部屋に、翔太とひかりが集まった。
ホワイトボードに、これまで分かったことを、全て書き出していく。

予言者Yは、俺たちのことを、よく知っている。

未来を、正確に予言することができる。

人の心を、傷つけることを、楽しんでいるフシがある。

「未来が分かるなんて、そんなの、超能力者か、タイムトラベラーくらいしかいねえだろ…」
翔太が、頭を抱える。
「でも、本当にそうなのかな?」
ひかりが、静かに口を開いた。

「もしかしたら、未来を『予言』してるんじゃなくて、未来を『作って』いるとしたら?」
「作る…?」
「そう。例えば、テレビのこと。予言者Yが、ポチをけしかけて、テレビを壊させたとしたら?」
「いや、でも、どうやって…」

「翔太くんの、告白のことだってそう。A子ちゃんに、事前に『翔太くんに告白されるけど、断ってね』って、お願いしていたとしたら?」
「なっ…!?」

そうだ。その可能性は、考えてもみなかった。
予言者Yは、未来を知っているんじゃない。
未来を、自分の思い通りに、操っているんだ。

「でも、誰が、何のために…」
俺が、そう呟いた、その時だった。

ホワイトボードに書かれた、これまでの事件。
その一つ一つのキーワードを、ひかりが、指でなぞっていった。

『佐藤くんと鈴木さんの告白』…『恋愛』
『俺のテレビ』…『生活』
『翔太の告白』…『恋愛』

そして、ひかりは、ペンを取ると、ホワイトボードに、一つの文字を書いた。

『地震』

「地震…?」
「思い出して、眠杉くん。あの事件の時、予言者Yが、最初に予言したもの」
「ああ…」

『恋愛』『生活』『地震』。
これらのキーワードに、共通するものは、なんだ…?

考えても、答えは出ない。
俺が、頭を抱えていると、ひかりは、静かに俺の目を見つめて、言った。

「眠杉くん。私、ずっと、隠していたことがあるの」

ひかりは、ゆっくりと、話し始めた。
自分の両親が、天才的な科学者だったこと。
そして、彼女の両親が、秘密裏に、あるシステムを開発していたこと。

「そのシステムはね…」

ひかりは、一呼吸おいて、続けた。

「未来に起こる、あらゆる出来事を、確率論でシミュレーションして、予測することができるシステムなの。地震の発生確率、株価の変動、そして…個人の、行動パターンまで」
「…なんだって?」

「父さんと母さんは、そのシステムを、世の中を良くするために使おうとしてた。でも、その技術を狙う、悪い組織に、命を奪われた。システムは、今も、世界のどこかで、動き続けてる」

「じゃあ、予言者Yは、そのシステムを使ってるってことか…!?」
「ううん、違う」

ひかりは、静かに、首を横に振った。

「予言者Yは…私よ」

「………え?」

俺と翔太は、言葉を失った。
ひかりが、予言者Y…?
どういう、ことだ…?

「あの事件の後、私は、父さんたちの遺した研究室に、忍び込んだの。そして、見つけちゃった。システムの、予備の端末を」
ひかりの瞳から、大粒の涙が、こぼれ落ちた。

「怖かった。システムを使えば、未来が見える。でも、それは、いいことばかりじゃなかった。翔太くんが、フラれる未来も見えた。眠杉くんのテレビが、壊れる未来も見えた。そして…」

ひかったは、声を、震わせた。

「もっと、大きな『災い』が、この街に、近づいている未来も、見えちゃったの…」

「大きな、災い…?」
「うん。だから、私は、予言者Yになった。みんなに、警告したかった。でも、怖くて、直接は言えなくて…。こんな、回りくどい方法しか、思いつかなかったの。ごめんなさい…ごめんなさい…!」

泣きじゃくる、ひかり。
俺は、何も言えなかった。
ただ、そっと、彼女の肩を抱きしめることしか、できなかった。

ひかりは、悪くない。
彼女は、たった一人で、未来の恐怖と、戦っていたんだ。

「ひかり」
俺は、優しく、でも、力強く、言った。
「もう、一人で戦わなくていい。俺たちが、いる」
「…うん」
「その、大きな『災い』ってやつが、何だか知らねえけどさ。俺たち三人なら、きっと、何とかなるって!」

翔太も、力強く、頷いた。
「そうだぜ! 俺たち、最強のトリオだからな!」

ひかりの顔に、ようやく、小さな笑顔が戻った。

俺たちの、夏休みは、まだ終わらない。
いや、今、ここから、本当の戦いが、始まるんだ。
未来を、俺たちの手で、変えるための、戦いが。

日曜日の午後。
窓の外では、入道雲が、力強く、空へと伸びていた。
それは、まるで、これから始まる、俺たちの冒険を、祝福しているかのようだった。
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