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19.秘密基地
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夏の日差しが眩しくなった7月。この日も七海は喫茶ポロンに足を運んでいた。
カランカランーーー
店に入ると、恭吾の姿があった。恭吾も気がついて会釈してくる。恭吾とは少し離れた席に座りトーストを食べていると、会計をした恭吾が近づいてきた。
「七海さん。七海さんってお酒飲みますか?前の職場の人が今度遊びに来ることになってどこかいい居酒屋知っていますか?お刺身が食べたいそうで魚が美味しい店だと嬉しいです」
「んー。おさかなだったら、魚基地(うおきち)さんか魚政かな。どちらも美味しいよ。魚によっては水槽から直接出してくれて新鮮なの。その割にお値段も良心的でいいと思う」
「あーよかった。助かりました。うおきちとうおまさ。どんな漢字書きますか?」
「魚に秘密基地の基地で魚基地。魚政さんは魚に政治の政だよ。」
「なんか魚基地って名前ワクワク感ありますね。秘密基地っていいな!調べてみます!ありがとうございます。」
本当にキラキラした瞳で言うので微笑ましかった。
『居酒屋か……。いいな、海斗たちが産まれてから行ってないな。久しぶりに外で飲みたいな』
以前の七海だったら、いいなと羨んで終わっていたと思うが今日は楽しそうに店を探す恭吾を見て外に出たくなっていた。
『たまには飲みに行ってみよう!!!!』
海斗が産まれてから夜の時間に出掛けるのは初めてだ。
久しぶりの自分だけの時間をめいいっぱい楽しむことにした。
アイラインをひき、ビューラーでまつ毛をあげてマスカラを塗ってチークもほんのりつけていつもより丁寧にメイクをした。。普段は眉を整えるだけだったので、しっかりメイクは久々だ。鏡に映った自分は、心なしかいつもより明るく見えた。
3㎝のヒールがあるサンダルを履き、後ろにスリットの入ったタイトスカート。汚れが気になるから控えていた真っ白なブラウスを着る。
子どもたちと出掛ける時は動きやすさ重視で服を選んでいたので、自分が本当に着たいものを身に纏い自然と気分も上がっていた。
選んだのは魚の秘密基地、魚基地だ。
「へい、らっしゃい」
坊主にはちまき姿のたこ焼きの看板にいそうな威勢のいい店員さんが出迎えてくれた。
「一人ですけどいいですか?」
「はい!!!カウンターどうぞ」
そう案内されてカウンターに向かおうとすると、横から声がした。
「七海さん……?」
聞きなれた声がするので顔を向けると、恭吾がテーブルに座っていた。
「恭吾……くん?」
「びっくりしたー七海さん、朝と雰囲気違いますね」
ばっちりメイクにスカート姿を見られて気恥ずかしかった。そういえばポロンに行くときはニットにデニムとラフな格好が多い。
「なんか、恭吾くんと話をしていたら久々に来たくなっちゃって。」
「そうなんですね、僕もネット見ていたら食べたくなって下見ってことで来ちゃいました。良かったら一緒にどうですか?」
二人掛けのテーブルに案内されたようで恭吾の前の席は空いている。立ち話も変なのでテーブル席に座ることにした。
「七海さんと喫茶店以外で会うのって新鮮です。七海さんお酒飲めるんですか?」
「なんか不思議な感じだよね。お酒は強くないけど飲むよ。ビールやハイボールが多いかな。恭吾くんは?」
「いいですねー。僕も最初はビールでそのあとはハイボール・日本酒なんでもいけます」
「恭吾くん強そうだね笑」
海鮮サラダと刺身の盛り合わせとタコの唐揚げを食べながら、恭吾の話を聞いた。
「七海さん、キャンプとかアウトドア興味あります?」
「BBQはやったことあるけど、本格的なキャンプはないかな。恭吾くん好きなの?」
「僕、小学生の頃ボーイスカウトをやっていたんですよ。だから、火起こしやテント張るのも得意です!ソロキャンも10年以上前からやっていました!」
「そうなんだ!!小学生の頃に自然体験でコテージに泊まったんだけど星が綺麗でね!夜の風も普段と違うというか。空気や景色も澄んでいて……車で1時間ほどの場所なのに同じ地域だと思えないくらい違って見えたの」
「綺麗ですよね。すっごく寒いんですけど冬だとより空が澄んで綺麗ですよ。あーーーでも夏の朝焼けも洗礼されているっていうか、ご利益ありそうな明るい光で綺麗なんですよね。どちらも捨てがたいし、何なら両方見てほしい!!!」
「いいね!両方見てみたい。旅行も最近行ってなかったから行きたいなーー。恭吾くん、色々知ってそうだよね。どこか良かったところある?」
「一人旅もします。僕、九州が好きなんですよ。また行こうかな。熊本って行ったことありますか?」
「九州はまだ行ったことないや。でも興味はある!」
「熊本駅って新幹線の改札を抜ける前にでっかいくまモンがいるんですよ。構内じゃなくて、新幹線の改札抜ける前のエスカレーターを降りたところにくまモンの顔だけがドーーン!!!と飾ってあって!思わず通りがかりの人に声かけて写真撮ってもらいました。」
恭吾がその時の写真を見せてくれた。駅のエレベーター前に2mくらいの大きさのくまモンの顔だけがドンとお出まししてインパクト抜群だった。そして、その前でくまモンの笑顔に負けないくらいにっこりとした恭吾も映っていた。
「路面電車も走っていて、この辺だと見ないから新鮮だし繁華街から15分くらい走るとのどかな住宅街になって。その変化も楽しいんですよね。繁華街で馬刺しを食べて、そのあと熊本ラーメン!!!」
「あ、あと帰る前にスーパー寄って自宅用でインスタントの熊本ラーメン買いました。博多ラーメンとかも売っていて食べ比べしたり。熊本の方がこってりで麺が太めで博多の方があっさりで紅ショウガで味変すると美味しいんですよね。あーーーーまた食べたくなってきた。」
「あとあと、九州って観光列車にも力入れていて電車乗っているだけでも楽しいです!すれ違う電車も外観からこだわってる感じで写真何枚も撮ったなーー。」
その後も、博多ラーメンや水炊き、一口餃子や九州の魅力を熱く語る恭吾は本当に楽しそうだった。行った場所を思い出しては写真を見せながら色々と教えてくれる。
『恭吾くんと一緒に出掛けたらすごく楽しそうだな……。』
少し興奮気味に嬉々として話す恭吾がまぶしかった。
『恭吾くんのようにこんなに楽しそうに話すことって最近なかったな。私が恭吾くんのように熱くなることって何だろう……。私がやりたいことや好きなことって何……?』
七海は、自分が分からなくなっていた。そして自分のことを考えること自体がもう何年もなかったことを思い出した。
☆
「今日はありがとうございます。秘密基地美味しかったです!」
「魚基地ね!こちらこそありがとう。恭吾くんの方が多めに出してもらっちゃって……。ごちそうさまでした。」
「僕の方から誘ったので気にしないでください。七海さんと一緒に飲めて楽しかったです!!」
「私も。実は一人で飲みに来たのって初めてで緊張していたの。恭吾くんがいてくれて本当によかった。ありがとう」
恭吾は照れくさそうに笑っていた。
「七海さん、帰り大丈夫ですか?家まで送りましょうか?」
時計を見ると21:50だった。まだ最終のバスはある。
「ありがとう。バスで帰れるから大丈夫だよ。恭吾くんは大丈夫?」
「僕は大丈夫です。ポロンから徒歩3分くらいのアパートなんで歩いて帰れます。」
「今日はありがとう。またね」
「あ……はい、また」
恭吾は何か言いたそうな顔をしていたが、すぐにいつもの笑顔に戻り胸の前で手を振った。
『今日は楽しかったな。こんなに楽しい気分で誰かと話すのって、いつぶりだろう……。』
久々の夜の外出と店先でのお酒。そして、恭吾との時間。
七海はこの日、幸せな気分で眠りについた。
カランカランーーー
店に入ると、恭吾の姿があった。恭吾も気がついて会釈してくる。恭吾とは少し離れた席に座りトーストを食べていると、会計をした恭吾が近づいてきた。
「七海さん。七海さんってお酒飲みますか?前の職場の人が今度遊びに来ることになってどこかいい居酒屋知っていますか?お刺身が食べたいそうで魚が美味しい店だと嬉しいです」
「んー。おさかなだったら、魚基地(うおきち)さんか魚政かな。どちらも美味しいよ。魚によっては水槽から直接出してくれて新鮮なの。その割にお値段も良心的でいいと思う」
「あーよかった。助かりました。うおきちとうおまさ。どんな漢字書きますか?」
「魚に秘密基地の基地で魚基地。魚政さんは魚に政治の政だよ。」
「なんか魚基地って名前ワクワク感ありますね。秘密基地っていいな!調べてみます!ありがとうございます。」
本当にキラキラした瞳で言うので微笑ましかった。
『居酒屋か……。いいな、海斗たちが産まれてから行ってないな。久しぶりに外で飲みたいな』
以前の七海だったら、いいなと羨んで終わっていたと思うが今日は楽しそうに店を探す恭吾を見て外に出たくなっていた。
『たまには飲みに行ってみよう!!!!』
海斗が産まれてから夜の時間に出掛けるのは初めてだ。
久しぶりの自分だけの時間をめいいっぱい楽しむことにした。
アイラインをひき、ビューラーでまつ毛をあげてマスカラを塗ってチークもほんのりつけていつもより丁寧にメイクをした。。普段は眉を整えるだけだったので、しっかりメイクは久々だ。鏡に映った自分は、心なしかいつもより明るく見えた。
3㎝のヒールがあるサンダルを履き、後ろにスリットの入ったタイトスカート。汚れが気になるから控えていた真っ白なブラウスを着る。
子どもたちと出掛ける時は動きやすさ重視で服を選んでいたので、自分が本当に着たいものを身に纏い自然と気分も上がっていた。
選んだのは魚の秘密基地、魚基地だ。
「へい、らっしゃい」
坊主にはちまき姿のたこ焼きの看板にいそうな威勢のいい店員さんが出迎えてくれた。
「一人ですけどいいですか?」
「はい!!!カウンターどうぞ」
そう案内されてカウンターに向かおうとすると、横から声がした。
「七海さん……?」
聞きなれた声がするので顔を向けると、恭吾がテーブルに座っていた。
「恭吾……くん?」
「びっくりしたー七海さん、朝と雰囲気違いますね」
ばっちりメイクにスカート姿を見られて気恥ずかしかった。そういえばポロンに行くときはニットにデニムとラフな格好が多い。
「なんか、恭吾くんと話をしていたら久々に来たくなっちゃって。」
「そうなんですね、僕もネット見ていたら食べたくなって下見ってことで来ちゃいました。良かったら一緒にどうですか?」
二人掛けのテーブルに案内されたようで恭吾の前の席は空いている。立ち話も変なのでテーブル席に座ることにした。
「七海さんと喫茶店以外で会うのって新鮮です。七海さんお酒飲めるんですか?」
「なんか不思議な感じだよね。お酒は強くないけど飲むよ。ビールやハイボールが多いかな。恭吾くんは?」
「いいですねー。僕も最初はビールでそのあとはハイボール・日本酒なんでもいけます」
「恭吾くん強そうだね笑」
海鮮サラダと刺身の盛り合わせとタコの唐揚げを食べながら、恭吾の話を聞いた。
「七海さん、キャンプとかアウトドア興味あります?」
「BBQはやったことあるけど、本格的なキャンプはないかな。恭吾くん好きなの?」
「僕、小学生の頃ボーイスカウトをやっていたんですよ。だから、火起こしやテント張るのも得意です!ソロキャンも10年以上前からやっていました!」
「そうなんだ!!小学生の頃に自然体験でコテージに泊まったんだけど星が綺麗でね!夜の風も普段と違うというか。空気や景色も澄んでいて……車で1時間ほどの場所なのに同じ地域だと思えないくらい違って見えたの」
「綺麗ですよね。すっごく寒いんですけど冬だとより空が澄んで綺麗ですよ。あーーーでも夏の朝焼けも洗礼されているっていうか、ご利益ありそうな明るい光で綺麗なんですよね。どちらも捨てがたいし、何なら両方見てほしい!!!」
「いいね!両方見てみたい。旅行も最近行ってなかったから行きたいなーー。恭吾くん、色々知ってそうだよね。どこか良かったところある?」
「一人旅もします。僕、九州が好きなんですよ。また行こうかな。熊本って行ったことありますか?」
「九州はまだ行ったことないや。でも興味はある!」
「熊本駅って新幹線の改札を抜ける前にでっかいくまモンがいるんですよ。構内じゃなくて、新幹線の改札抜ける前のエスカレーターを降りたところにくまモンの顔だけがドーーン!!!と飾ってあって!思わず通りがかりの人に声かけて写真撮ってもらいました。」
恭吾がその時の写真を見せてくれた。駅のエレベーター前に2mくらいの大きさのくまモンの顔だけがドンとお出まししてインパクト抜群だった。そして、その前でくまモンの笑顔に負けないくらいにっこりとした恭吾も映っていた。
「路面電車も走っていて、この辺だと見ないから新鮮だし繁華街から15分くらい走るとのどかな住宅街になって。その変化も楽しいんですよね。繁華街で馬刺しを食べて、そのあと熊本ラーメン!!!」
「あ、あと帰る前にスーパー寄って自宅用でインスタントの熊本ラーメン買いました。博多ラーメンとかも売っていて食べ比べしたり。熊本の方がこってりで麺が太めで博多の方があっさりで紅ショウガで味変すると美味しいんですよね。あーーーーまた食べたくなってきた。」
「あとあと、九州って観光列車にも力入れていて電車乗っているだけでも楽しいです!すれ違う電車も外観からこだわってる感じで写真何枚も撮ったなーー。」
その後も、博多ラーメンや水炊き、一口餃子や九州の魅力を熱く語る恭吾は本当に楽しそうだった。行った場所を思い出しては写真を見せながら色々と教えてくれる。
『恭吾くんと一緒に出掛けたらすごく楽しそうだな……。』
少し興奮気味に嬉々として話す恭吾がまぶしかった。
『恭吾くんのようにこんなに楽しそうに話すことって最近なかったな。私が恭吾くんのように熱くなることって何だろう……。私がやりたいことや好きなことって何……?』
七海は、自分が分からなくなっていた。そして自分のことを考えること自体がもう何年もなかったことを思い出した。
☆
「今日はありがとうございます。秘密基地美味しかったです!」
「魚基地ね!こちらこそありがとう。恭吾くんの方が多めに出してもらっちゃって……。ごちそうさまでした。」
「僕の方から誘ったので気にしないでください。七海さんと一緒に飲めて楽しかったです!!」
「私も。実は一人で飲みに来たのって初めてで緊張していたの。恭吾くんがいてくれて本当によかった。ありがとう」
恭吾は照れくさそうに笑っていた。
「七海さん、帰り大丈夫ですか?家まで送りましょうか?」
時計を見ると21:50だった。まだ最終のバスはある。
「ありがとう。バスで帰れるから大丈夫だよ。恭吾くんは大丈夫?」
「僕は大丈夫です。ポロンから徒歩3分くらいのアパートなんで歩いて帰れます。」
「今日はありがとう。またね」
「あ……はい、また」
恭吾は何か言いたそうな顔をしていたが、すぐにいつもの笑顔に戻り胸の前で手を振った。
『今日は楽しかったな。こんなに楽しい気分で誰かと話すのって、いつぶりだろう……。』
久々の夜の外出と店先でのお酒。そして、恭吾との時間。
七海はこの日、幸せな気分で眠りについた。
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