熱のない部屋で

中道舞夜

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第7話 鈴木の気持ち②

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入社した時は同期の中の一人だった。
楠木は大学の時から付き合っている彼氏がいたが、夏前に別れた。環境の変化で別れることは珍しいことではないので、別れたことも楠木自身のことも、さほど気にしていなかった。


気になり始めたのは、1年目の夏に同期で行ったBBQの時だ。

行きのスーパーで買い出しをし、現地で火をおこしたり野菜を切るなどそれぞれに役割分担をする。


アウトドアや料理が得意なやつは、アピールポイントでもあるので率先してやっていた。お金の計算が得意な者は、会計をして集金をする。

そんな中、楠木は「何か手伝えることあるかな?」と控えめな姿勢だった。


このBBQで得意分野はないのだろう……。そう思っていたが違った。
野菜を切り終え肉を焼き、皆が食べ始め盛り上がっている時にビールが残り少なくなっていることに気がついた。
ハイボール用に買った氷も溶け始め半分以上水になっている。


「ビールなくなりそうだから買ってくるね。あと氷。ほかに必要なものあるかな?」


まだ飲み足りないので追加で買ってきてくれるのはありがたいが近くのコンビニまで距離もある。


「楠木ちゃん、あんまり飲んでないんじゃない?大変だしいいよ、行くならたくさん飲んだ奴にしよう」


誰かが言ったが、楠木は笑って


「大丈夫。準備の時にみんなに甘えちゃったから私行くよ。力あるから任せて!それに実はトイレも行きたかったんだよね」


さすがに女一人で行かせるには申し訳ないので俺も含め3人で買い出しに行った。コンビニにつくと、手際よくビールと氷、乾き物のつまみを買っていく楠木だが、かごに入れるとさっさと会計を済ませ店を出てしまった。



トイレに行きたかったというのは、気を遣わせないための口実だったんだと帰り道に気が付いた。その後も、焼き焦げた鉄板を根気強く洗ったり、油でギトギトになった皿洗いなど率先して片付けていた。


「なんか慣れた手つきだな」
「大学の時、サークルでBBQやること多くて。その時は人数多くてひたすらキャベツ切る係だったけど(笑)」



得意分野がないのではなかった、本当は出来るけれど必要なところに入ろうと、すぐには動かず周りを見てから行動をしていたんだと知り見直した。




その後も、同期で集まることがあったが楠木はいつも脇役に徹していた。買い物の際のレジ袋や、虫刺されなどあるとありがたい物は常備していた。そんな困ったことがあると、さりげなくすっと手を差し出す姿にいつしか惹かれていた。


同期だけでは進展しそうにないので、先輩に頼んで宅飲みを計画した。
自分の先輩が楠木と仲のいい先輩のことを気になっているから取り持つために開催したいという口実をつけて……。

先輩は、苦笑したが一番美人な先輩を誘うことを条件に了承してくれた。


その日も、楠木は脇役に徹し最初は見ているだけでじっとしていた。違ったのは、俺の先輩を褒めて「素敵」ということだった。


華を持たせようとしているのは分かったが、内心おもしろくなかった。
気になる人がほかの男のことを素敵と言っているのを聞いて気にならない男はいない。この時、嫉妬のような感情が芽生えていた。


先輩が気を利かせて買い出しの時に2人にしてくれたが、俺の先輩の普段の様子ばかり効いてくる。

「ねー鈴木の先輩ってどんな人?物静かで優しそうな雰囲気が素敵だよね。」

「ん?まぁ、そうだな」

「話しかけられているかな?普段、料理もするって言っていたし私の先輩もお菓子とか作ったりするからそこで繋がるといいな、料理できる人って素敵だね」

「ん、そうだな」

「ね?なんか今日、口数少なくない?どうかした?」

「…別に」


今、一緒にいるのは俺なのに互いの先輩のことしか話題に出さない楠木を見て、やる気を消失して素っ気ない態度を取ってしまったのだ。



その後も何度か飲みに行ったりしたが、特に進展はなく楠木にとって俺はただの同期でしかないと悟り諦めることにした。



先輩に報告すると、大学時代の友人の妹から誰か紹介してほしいというので連絡先を教えてもいいかと聞かれたので承諾した。


年は4個下で小柄でひらひらしたスカートが似合う少女のようだった。
バスケ部で背も高く体格もいい楠木とはまるで正反対だった。


初めて会った時から気に入ってくれたようで、積極的に遊びの誘いをうけた。特に相手もいなかったため、自然とそのまま付き合うようになった。


しかし、出掛けた時や彼女の友人たちの前でもベタベタとくっついてくるのが気になった。時折わざと腕に胸を当ててきたり見せつけるような態度を取っていた。


彼女の友人たちと遊びに行った際に自分の飲み物がなくなり「次、だれか買い出し行くって言ったら頼めばいいや」という言葉を聞いて冷めてしまった。そして、楠木だったら…という思いが強くなり別れを告げた。




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