熱のない部屋で

中道舞夜

文字の大きさ
11 / 69

第11話 異国の地①早苗の視点

しおりを挟む
鈴木が出張に行ってからもうすぐ1か月が経つ。

出発は1月だったが、親会社は日本にあるため来期から本格始動することになっていた。
1月から3月は準備期間とされており、住む環境の整備や現地協力企業の職員たちとの親交を深めるため外食が多いそうだ。


送られてくる写真には、見慣れない料理や異国の風景が写っており、鈴木から送られてくる写真を見るのが早苗にとって日々の楽しみの一つになっていた。

エキゾチックな街並み、色鮮やかな料理、見たこともない植物…
時差も2時間なので生活リズムが大きく変わることはなく、メールや時には電話をした。


今の時代、スマホがあれば遠い場所にいてもやり取りができる。時差も少ないのでお互いの生活リズムを大きく崩すことなく電話をすることも可能だ。頭では分かっていたが、こうして国をまたいでの遠距離恋愛となると今まで以上にありがたさを感じた。


『あぁ…文明の利器、科学の進化ありがとう!!!』 


発明者の名前が分からなかったため、大きくまとめてすべてに感謝をした。


日本にいた頃は「おはよう」「おやすみ」「今日遅くなる」「一緒にご飯食べない?」など一行で終わるような簡潔なやり取りがほとんどだったが、海外に行ってから長いやり取りが増え、今はお互いのことを気遣う言葉や感情を表現する言葉が増えた。


顔を合わせられないない分、物理的な距離を言葉で埋めようとしているかのようだった。
早苗はやり取りが増えたことが嬉しかった。


鈴木と離れてからある変化を感じていた。
学生時代に遠距離恋愛をしていた元彼の時には感じなかった「早く逢いたい」という気持ちが日に日に増していった。そのあと付き合った大学時代の彼は、相手が何をしているか分からず不安になる時もあった。しかし、今回は違った。


不安や苦痛はなく喜びを伴うものだった。
付き合っている相手に興味を持てなかったり不安になっていた今までとは違う。


「鈴木なら大丈夫。鈴木ならやり遂げられる。鈴木ならうまくいく」自信を持ってそう言えた。そして飛躍した姿をこの目で見たいという気持ちが「早く逢いたい」に繋がっていた。


一方で機械を通してではなく直接、鈴木に会いたいと思う気持ちも芽生えていた。

画面越しではなく、直接、鈴木の声や表情・ジェスチャーを加えての話が聞きたい。
部屋で一緒にご飯を食べながら、出向先の食べ物・景色など日本との違いを知りたい。


抱きしめて鈴木の体温を感じたい。鈴木の胸に身体を預けて、触れて、普段の電話とは違う声や表情に酔いしれたい。電話やメールでは伝わらない、温もりや息遣いを感じたい。
そう思った。

自分にもこんな気持ちが芽生えるのかと驚いた。鈴木と付き合って、初めて本当の意味で「恋」をしているのだと気づいた。


鈴木との時間を、心も身体も欲していた。いつしか鈴木と過ごす生活が日常の一部となっていた。充実はしているが鈴木がいない生活はどこか物足りなく色褪せて感じられ、次に会える日まで自分も頑張ろう。


鈴木の一時帰国した時を夢見ながら、異国の地で一人で頑張る鈴木の成功を心から願い早苗は眠りについた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

処理中です...