熱のない部屋で

中道舞夜

文字の大きさ
22 / 69

第21話 再会

しおりを挟む
疫病発生から2年が経ち世界中へと変化がもたらされた。

人々の生活様式、働き方、価値観。
あらゆるものが以前とは違う形へと変化を遂げた。感染状況も落ち着きを見せ始め入国制限も緩和。条件付きで帰国できるようになった。


それは海外で働く人々にとって長かったトンネルの出口に見えた一筋の光だった。世界は少しずつ前に進み始めていた。

連日、ニュースで報道されていたため入国制限は誰もが知るニュースとなった。
早苗は鈴木からの連絡を密かに待っていた。

『報告で鈴木が帰ってくるかもしれない…。帰国の連絡があるかもしれない。』

可能性は低いと思ったが、それでも早苗は僅かな希望を信じていたかった。

着信通知が来るたびにもしかしたら……と期待をして開封ボタンを押す。


しかし、企業アカウントからのメッセージばかりでその度に少しだけ切ない気分になる。


『制限がもっと早く緩和されていれば……あの時、すぐではなくとも目途だけでも経っていたら……』
先が見えないことは、想像以上に人を不安にさせることを身をもって経験した。
暗い夜道を照らす物を何も持たない状態でひたすら歩いているような気分だった。


一方の鈴木も迷っていた。
ようやく日本に行くことが出来る。そう分かった時に真っ先に浮かんだのは早苗の事だった。

しかし、いつまでも早苗を待たせることに罪悪感を感じ自分から別れを告げた。
早苗を想ってのことだったが『別れたくない、待つ』と言ってくれた早苗の言葉を遮りお礼を告げ一方的に電話を切ってしまった。


その後も連絡をしてくれたが返さなかった。ひどいことをしたと思う。
だからこそ、どんな顔をして会えばいいのか分からなかった。早苗の幸せを願い別れたのにこちらから連絡するのはおかしいだろう……。本当は会いたいという気持ちの狭間で、鈴木の心は揺れていた。


そんなある日、早苗は上司の予定表に鈴木の名前を発見した。
『海外事業部との会議』という記載があり日付と時間と場所が詳細に記されていた。

『鈴木……!!!鈴木が帰ってくる!』


心臓がドキドキと高鳴った。早苗はその場所と時間を手帳にそっとメモした。
メモを取る手が震えている……。会えるかもしれないと思うと緊張でうまく文字が書けない。


会議当日、早苗は会議が終わる時間を見計らい会議室へと向かった。

目の前にいたら他の者に不思議がられると思い、女子トイレの手洗い場で待機した。
待っている間も緊張と期待で胸がいっぱいだった。鈴木に会えるかもしれない……。
どんな顔をして何を話せばいいかを予定を見た日から考えたがまとまらなかった。 


しかし、会いたいという気持ちの方が勝り今こうして会議の終わりを待っている。

ガチャ……ガチャガチャ…………


ドアノブを握り扉を開ける音がする。
しばらくするとザワザワと微かに誰か喋っている声も聞こえてきた。


『会議が終わったのだろう……。』

周囲の声が消えるのを確認した後、早苗はゆっくりとトイレから出て会議室へ向かう。

誰かに見られないか……そして鈴木と久しぶりに会う緊張で忍者が歩くようにおそるおそる歩を進めた。


鈴木は会議の席では皆が出た後に会議資料にもう一度目を通し空調やプロジェクターの電気を消し、忘れ物の確認をしてから出ることを知っていた。


『きっと今日もまだ会議室にいる……。』

会議室の扉は空いてる……会議は終わったようだ。
早苗の会社では、急な打合せ時に使える場所が目視でも分かるための合図として利用後は扉を開けておくことになっていた。

緊張の面持ちで扉の前に近づくと人影を見つけた。しかし足元だけでそれが誰かまでは分からない。

『誰かいる……』

そろり、そろりと静かに近寄る。
心臓は高鳴り、鼓動はどんどんどんどん早くなっている。
 
『ああああーーーーー、すっごく緊張する。緊張しておかしくなりそう……』


胸に手を当てながら意を決し扉の前に立つ。


長身で熱い胸板。日に焼けた小麦色の肌。すっと通った鼻筋。そこには2年半ぶりに見る、鈴木の姿があった。


「……鈴木…………」
早苗はやっとの思いで鈴木の名前を呼んだ。


鈴木は早苗の声に気づき振り返った。
早苗の姿を見た瞬間、信じられない……という表情で鈴木の目が見開かれた。

「楠木……」
鈴木はかすれた声で早苗の名前を呼んだ。


久々に顔を合わせた二人は時間が止まったかのように見つめあって固まっていた。懐かしさと緊張が入り混じった空気が流れた。


『この後、どんな言葉を交わそうか……。』
『この後、どんな言葉を交わそうか……。』
ふたりは心の中で同じことを考えていた。


逢いたいという一心で会議室に来た早苗。
そして、もしかしたら帰国を知り会いに来てくれるかもと密かに期待をしていた鈴木。


二人はまた前のように同じ時間を過ごせるのか、はたまた以前とは違うものになっているのだろうか……。
早苗と鈴木の物語は、再びゆっくりと動き出そうとしていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

処理中です...