熱のない部屋で

中道舞夜

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第32話 ぶつかりあうこと

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中途入社で入ってきた元営業の滝 孝太郎。
教育係を任されて1か月が経ち、滝は早苗に対しては業務内容だけでなくプライベートな話も色々としてきた。早苗は聞き役ばかりだったが、社内で込み入った話をする仲の人がいなくなっていたので滝との時間は入社したばかりの頃を思い出して楽しかった。


「楠木さんって彼氏に言いたいことあっても、自分の気持ちを抑えて言わなそうですよね」突拍子もなく言ってきた。

「そ、そう?」

「はい、楠木さん普段から周りの様子伺ってますよね。それで行動しているから、相手のために尽くしたり考え過ぎちゃうのかなって」


『なんだか痛いところを突かれたな……。浩太にも指摘されたこと言ってるよ』



「考え過ぎて疲れません?我慢し過ぎたら何考えているか相手も分からないと思うんだけどなーー」

「んーー。あまり感じたことはないかな。それに思ったことそのまま何でもかんでも言って余計なこと言い過ぎたって後で反省するよりは良くない?」

「それでも相手の考えが分かった方がいいです。もし、言い過ぎたと思ったらしばらくしてから「あの時は、別のことでイライラしすぎてつい言い過ぎた。ごめん」って言えばいいことですし。」

「そういうものなのかなーー」

「少なくとも僕は知りたいです。彼女とも言い合う時は、とことん言い合います。彼女の怒れるポイントとか嫌なことや考え方が分かれば、今後の言い争いも防げるかもしれませんし!最近は言い争うことも減ってきて、この時期はイライラしやすいから言葉や言動気を付けるようにしてます(笑)」


早苗は今まで本音でぶつかり合うような激しいケンカをしたことがなかった。悪いことやネガティブに感じられることは言われた方の気持ちを考えてしまう。伝えるとしたら言葉を選びに選んだ末オブラートに包んで伝えていた。

滝の考えは早苗にはなく両極端だったため、そんな考えもあるかもな。と新鮮だった。
そして浩太もどちらかと言うと早苗のように言葉を選んで本音でぶつかることはしない。


1度目の別れの時も、そして帰国した時も……相手はこう思っているだろうと想像し自分の中で答えを決めてから話をしていた。

「ああああーーーー、もう!!!」
浩太のことを思い出していたら、声が漏れていた。

「楠木さん、今誰か頭の中に思い浮かべた人いますよね?」
滝がにやにやと笑いながら聞いてくる。

「いや……別になんでもない」

「全然隠せていませんよ(笑)」

図星で訂正しようがないので黙っていると

「楠木さんもキレるとかではなくて、素直に思ったことを言えば変わるかもしれませんよ。保証はしませんが。」

「…………。」

滝と話をしていると調子が狂う。しかし100%滝のようにならなくてもたまには自分の本音を伝えれば関係は変わるかもしれない。
思い返せば、あの時もっと伝えておけば良かった。と後悔することも多い。

「楠木さん、挙式は海外と国内どっちがいいですか?」

気を遣ったのか、滝は話題を変えてくれた。しかし、挙式のことを考えたことがなかったので返答がすぐに思いつかなかった。その後も新居はどれくらいの広さが理想なのか、ベッドのサイズなど入籍予定らしい話題が上がった。

『もし私も結婚するとなったら滝さんのようにあれこれ考えるんだろうな……』
そんな事をふと思いながら、いつものように聞き役に回った。


単刀直入に指摘してくる人は、今まで早苗の周りにいなかったので新鮮だった。また、入籍するために彼女との話をノロケも交えて話す滝は本当に幸せそうで微笑ましかった。
方法は違うが、滝は滝で相手のことを考えていることが伝わり温かい気持ちになった。

『私も、こうたとこんな風に温かい夢のある話が出来たらなーーー』
そんなことを思っているとスマートフォンのバイブレーションがなり、「鈴木浩太」の文字が表示された。

『こうた……!?』
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