36 / 69
第35話 素直な気持ち
しおりを挟む
早苗がシャワーを浴びている間、鈴木はリビングに座り一人思いを巡らせていた。
「まだ持っていたんだあの鍵……。」
玄関に置かれていた鍵は、3年前に海外出向当日に預けた鈴木の部屋の合鍵だった。
別れを告げた際に捨てていいと言ったが、今も早苗の家に残っている。
忘れられていたわけではなく掃除の行き届いた玄関棚と小物入れの中にある鍵を見て大事にしてくれていたことが分かり嬉しくなった。
「まだ終わったわけじゃないんだな……俺たち」
玄関から目の前に視線を戻すと、目の前には豚汁の入っていたお椀と食べ終わったお皿が並んでいる。前回の夏に帰国時も外食ばかりで家庭的な料理を食べるのは久々だった。
外で食べる食事もいいが、部屋で作ってくれた普段の食事は心温まる。
「豚汁好きって言ったら出る頻度が急に増えたんだよなー前も、今日も美味しかったな……好きだな」
海外での一人が長いせいか独り言が多くなった。ネットの動画やニュースを見ていても部屋ではぶつくさと言っている気がする。
ガチャ……
「お待たせ、鈴木もシャワー浴びる?」
そう言ってタオルで髪を拭きながら早苗が入ってきた。
「ああ、ありがとう」
もしかして聞かれたかもしれないと焦りながらも聞くことはせず、その場を後にした。
早苗は戻るタイミングを伺っていた。
鈴木がまだ終わったわけではないと言っていたのが聞こえ、続きの言葉も聞きたくなって静かにその場に立っていた。
そして好きの言葉……自分のことを言ってくれたのか料理なのかは微妙なところだが、気持ちが弾んだ。
『今日会えてよかった。家にして良かった……。』
夜になり、セミダブルのベッドに二人で入る。恋人同士ならその後の甘い展開は自然な流れで行きつくが今は違う。お互いがお互いを意識して気があるのも感じているが、恋人ではない。
早苗と鈴木は、どこまで歩み寄っていいか分からなかった。
何度も一緒に夜を共にしているというのに、初夜のような緊張感が漂っていた。お互い仰向けになり子ども1人が間に入れるくらいの距離が空いている。
『家の方がくつろげるかと思って提案したけど、ベッド1つしかないもんね……。触れたくなるけど、がっついてる感じでなんか恥ずかしいし……どうしよう』
『布団入ったけどさ……このまま寝るんだよな?寝るんだよな?寝れる気がしない……。でもそれ以上の事をしていいのか……』
そんな時、ふと滝の言葉が反芻されてきた。
『楠木さんもキレるとかではなくて、素直に思ったことを言えば変わるかもしれませんよ。保証はしませんが。』
『たきさーーん!!!保証しないって言ったけど今、素直になってもいいタイミング?』
本人には話す気がないが心の中で叫ぶ。
素直に動く or 動かない
シュミレーションゲームで二択のどちらか選ばなくてはいけない場面のようだ。
『Aボタン?Bボタン?あーーーなんかお助けアイテムとかないの?』
早苗は少し混乱していた。
『なーーに言っているんですか、楠木さん。素直にならなくて後悔してきたんでしょ?』
頭の中で天使にも悪魔にも見える滝が囁きかける。
『えええいっ!ここはAだ!!!』
滝に思いっきり背中を押された……いや、突き飛ばされた気分で素直になることにした。
身体を鈴木の方に向ける。
「浩太、今日はありがとう。ワイン美味しかった。浩太と過ごせて嬉しかった」
「ああ……。こちらこそありがとう。ご飯美味しかった」
鈴木も早苗の方に身体を向け、遠慮がちに口を開いた。
「あのさ……もう少し近く行っていい?」
「うん、私も同じこと思ってた」
二人は顔を見つめ照れた様子で笑いあった。
少しずつ身体を寄せ合い触れる距離にまで近づく。体温や匂いが心地いい。
いつしか互いの存在が安心できる場所へと変わっていた。
『やっぱり浩太と一緒にいると落ち着く。このまま一緒にいたい……』
早苗はそっと鈴木の手に触れた。鈴木も握り返してくる。
「浩太……」
「ん……?」
「あのさ……またこうやって一緒に過ごせたら嬉しいな」
「うん、ありがとう」
一呼吸してから鈴木の目をまっすぐ見る。
「まだ終わったわけじゃないよね……私たち」
「ごほっごほっ……さっきの聞いてたの?」
鈴木は驚いて咳こんでいた。
「うん、聞こえた。そのあとの好きも」
「なんか恥ずかしいな……。」
「私はこの先も浩太とずっとこうしていたいよ。」
「うん……俺も」
それ以上は言葉にしなかったが、二人はお互いの温もりを感じながら抱き合った。
二人の唇が重なり合う。 お互いの気持ちが言葉以上に伝わってくる優しく甘いキスだった。
早苗の柔らかな髪が鈴木の頬をくすぐる。 その感触が鈴木の心を優しく包み込んだ。 早苗の胸の鼓動が鈴木の耳に響く。 それは、まるで二人の未来を奏でているようだった。
「浩太……好き。」
鈴木の胸に顔を埋める。優しく受け止める鈴木の熱が心まで温かくする。
「うん……」
鈴木は早苗の髪を優しく撫でた。 その手は優しく温かい。二人はそのまま眠りについた。 隣で互いの温もりを感じるだけ……それだけでとても幸せな気持ちで満ち溢れていた。
朝になり目を開けると、大切な人の寝顔が側にある。その光景が何よりも幸せだった。二人の間には温かい空気が流れ、新たな未来に向かって歩き始めた。
「まだ持っていたんだあの鍵……。」
玄関に置かれていた鍵は、3年前に海外出向当日に預けた鈴木の部屋の合鍵だった。
別れを告げた際に捨てていいと言ったが、今も早苗の家に残っている。
忘れられていたわけではなく掃除の行き届いた玄関棚と小物入れの中にある鍵を見て大事にしてくれていたことが分かり嬉しくなった。
「まだ終わったわけじゃないんだな……俺たち」
玄関から目の前に視線を戻すと、目の前には豚汁の入っていたお椀と食べ終わったお皿が並んでいる。前回の夏に帰国時も外食ばかりで家庭的な料理を食べるのは久々だった。
外で食べる食事もいいが、部屋で作ってくれた普段の食事は心温まる。
「豚汁好きって言ったら出る頻度が急に増えたんだよなー前も、今日も美味しかったな……好きだな」
海外での一人が長いせいか独り言が多くなった。ネットの動画やニュースを見ていても部屋ではぶつくさと言っている気がする。
ガチャ……
「お待たせ、鈴木もシャワー浴びる?」
そう言ってタオルで髪を拭きながら早苗が入ってきた。
「ああ、ありがとう」
もしかして聞かれたかもしれないと焦りながらも聞くことはせず、その場を後にした。
早苗は戻るタイミングを伺っていた。
鈴木がまだ終わったわけではないと言っていたのが聞こえ、続きの言葉も聞きたくなって静かにその場に立っていた。
そして好きの言葉……自分のことを言ってくれたのか料理なのかは微妙なところだが、気持ちが弾んだ。
『今日会えてよかった。家にして良かった……。』
夜になり、セミダブルのベッドに二人で入る。恋人同士ならその後の甘い展開は自然な流れで行きつくが今は違う。お互いがお互いを意識して気があるのも感じているが、恋人ではない。
早苗と鈴木は、どこまで歩み寄っていいか分からなかった。
何度も一緒に夜を共にしているというのに、初夜のような緊張感が漂っていた。お互い仰向けになり子ども1人が間に入れるくらいの距離が空いている。
『家の方がくつろげるかと思って提案したけど、ベッド1つしかないもんね……。触れたくなるけど、がっついてる感じでなんか恥ずかしいし……どうしよう』
『布団入ったけどさ……このまま寝るんだよな?寝るんだよな?寝れる気がしない……。でもそれ以上の事をしていいのか……』
そんな時、ふと滝の言葉が反芻されてきた。
『楠木さんもキレるとかではなくて、素直に思ったことを言えば変わるかもしれませんよ。保証はしませんが。』
『たきさーーん!!!保証しないって言ったけど今、素直になってもいいタイミング?』
本人には話す気がないが心の中で叫ぶ。
素直に動く or 動かない
シュミレーションゲームで二択のどちらか選ばなくてはいけない場面のようだ。
『Aボタン?Bボタン?あーーーなんかお助けアイテムとかないの?』
早苗は少し混乱していた。
『なーーに言っているんですか、楠木さん。素直にならなくて後悔してきたんでしょ?』
頭の中で天使にも悪魔にも見える滝が囁きかける。
『えええいっ!ここはAだ!!!』
滝に思いっきり背中を押された……いや、突き飛ばされた気分で素直になることにした。
身体を鈴木の方に向ける。
「浩太、今日はありがとう。ワイン美味しかった。浩太と過ごせて嬉しかった」
「ああ……。こちらこそありがとう。ご飯美味しかった」
鈴木も早苗の方に身体を向け、遠慮がちに口を開いた。
「あのさ……もう少し近く行っていい?」
「うん、私も同じこと思ってた」
二人は顔を見つめ照れた様子で笑いあった。
少しずつ身体を寄せ合い触れる距離にまで近づく。体温や匂いが心地いい。
いつしか互いの存在が安心できる場所へと変わっていた。
『やっぱり浩太と一緒にいると落ち着く。このまま一緒にいたい……』
早苗はそっと鈴木の手に触れた。鈴木も握り返してくる。
「浩太……」
「ん……?」
「あのさ……またこうやって一緒に過ごせたら嬉しいな」
「うん、ありがとう」
一呼吸してから鈴木の目をまっすぐ見る。
「まだ終わったわけじゃないよね……私たち」
「ごほっごほっ……さっきの聞いてたの?」
鈴木は驚いて咳こんでいた。
「うん、聞こえた。そのあとの好きも」
「なんか恥ずかしいな……。」
「私はこの先も浩太とずっとこうしていたいよ。」
「うん……俺も」
それ以上は言葉にしなかったが、二人はお互いの温もりを感じながら抱き合った。
二人の唇が重なり合う。 お互いの気持ちが言葉以上に伝わってくる優しく甘いキスだった。
早苗の柔らかな髪が鈴木の頬をくすぐる。 その感触が鈴木の心を優しく包み込んだ。 早苗の胸の鼓動が鈴木の耳に響く。 それは、まるで二人の未来を奏でているようだった。
「浩太……好き。」
鈴木の胸に顔を埋める。優しく受け止める鈴木の熱が心まで温かくする。
「うん……」
鈴木は早苗の髪を優しく撫でた。 その手は優しく温かい。二人はそのまま眠りについた。 隣で互いの温もりを感じるだけ……それだけでとても幸せな気持ちで満ち溢れていた。
朝になり目を開けると、大切な人の寝顔が側にある。その光景が何よりも幸せだった。二人の間には温かい空気が流れ、新たな未来に向かって歩き始めた。
0
あなたにおすすめの小説
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】
remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。
本宮 のい。新社会人1年目。
永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。
なんだけど。
青井 奏。
高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、
和泉 碧。
初恋の相手らしき人も現れた。
幸せの青い鳥は一体どこに。
【完結】 ありがとうございました‼︎
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる