熱のない部屋で

中道舞夜

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第44話 夏休み

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8月に入り待ちに待った夏休みが始まった。今回は休暇を日本で過ごせるように帰国の時期を調整できたため、鈴木は早苗と一緒に過ごす。

前日、早苗が料理教室に通っていることや食材だけでなく食器にも興味を持ったことを知り買い物に行くことを提案した。


 「どうせ行くなら大型のショッピングモール行かない?」

 「あ、前から気になっていたの。車で1時間くらいだから行けてなくて。」

 「決まり!明日は買い物だ」

 「うん、楽しみ」


翌朝、二人は車に乗り込みショッピングモールへと出発した。 連休ということもあり道は少し混んでいたが、車内では音楽をかけて歌ったり色々な話をしていた。 

「あ、この曲聞くと夏って思うんだよねー」

「分かる。夏休みの昼ドラ主題歌だったよな。部活終わってご飯食べながら見てた」

「それも分かるー。ついつい全部見ちゃって気がついたら14時になってた(笑)」

ふたりにとって初めての遠出は、渋滞さえも楽しかった。


ショッピングモールに到着すると、キッチン雑貨の店へと向かった。 早苗はお皿を手に取り、熱心に見ている。


「このお皿、素敵」 

早苗がそう言って手に取ったのは、藍色が綺麗な深めの楕円の皿だった。 


「素敵な色だね。カレーとか良さそう」

「落ち着いた感じで良いよね。んー麻婆豆腐とか餡や少し汁気のある料理入れるように大きめの丸皿探していたんだけど迷う」 

「このお皿でも使えて素敵だと思うけどな。1人前ずつになるけど、どんな料理でもよさそう。」

「そうだよね。うん、これにする!!」

普段、自分の意見を強く言わない早苗は買い物でもよく迷う。そのため鈴木のように良いところを言って背中を押してくれるのは助かった。


「浩太のお茶碗も見ていかない?」

「俺の?」

「うん、浩太用のお茶碗あるといいなって思っていたの。それに、これからは使う機会増えるだろうし。」


年明けに帰国予定で、その後は都合があえばいつでも会える。食事をする機会も増えるだろう。鈴木は日本に帰ってきた後の生活を想像し、明るい気持ちになった。


「ありがとう。お茶碗探すよ」
鈴木も熱心に自分の茶わんを選び始め、お互いに好みの食器を見入った。


「これ、手に持った感じとかいいな」

鈴木が選んだのは、白地に藍色のストライプが鮮やかな美濃焼の茶碗だった。普通のお茶碗より少し大きめでいっぱいご飯が入れられそうだ。

箸も買おうと見ていると

 「どうせなら一緒に買わない?」

 「え?」 

「いや、お揃いとかしないから箸とか家で使う物ならいいかなって……」 


少し照れた様子で言ってくる鈴木に、早苗は嬉しさが込み上げてきた。

 「うん、そうだね。新しくしよう」


 二人は、二膳セットになっている夫婦箸を選びレジへと向かった。
 早苗の家に鈴木専用の食器ができた。 これからは、一緒に食事をする機会が増える。そう思うと、早苗も鈴木も胸が高鳴った。


その後も、二人はショッピングモールで買い物を楽しんだ。 ペットショップで可愛い子犬や子猫を見て癒されたり、輸入食材店でワインやチーズ、おつまみを買って楽しんでいた。


「今日の夕飯、何食べたい?」

「んー海老。」

「海老って食材……料理名じゃないんだ」

「調理方法は料理教室行ってる早苗にお任せ」

「少しからかっているでしょ?」

「そんなことないよ、尊敬してる(笑)」



カフェでコーヒーを飲んで休憩しながら今日の出来事を振り返りながら話す。

「気に入ったお皿買えてよかったー」 

「見つかって良かったよ」 

「ねえ、浩太?お願いが2つあるんだけど聞いてくれる?」

 「ん?」 

「これからもこうやって一緒に色んなところに行こうね」 

「うん、行こう!!」

「今夜、海老にするから殻剥きはお願いね」

「うん……やろう」

「ありがとう(笑)」

「ね?今の殻剥きさせるために言ったでしょ?」

「そんなことないよ(笑)」


いたずら気に笑う早苗を見て、鈴木は手を握り優しく微笑んだ。
こんな穏やかな幸せが続くのなら、いくらでも海老の殻剥きをやってやると思った。
そして早苗も、鈴木の笑顔を見て幸せな気持ちでいっぱいになった。


 二人は、これからもずっと一緒に色んな思い出を作っていくのだろう。一緒なら渋滞も海老の殻向きも嫌ではない。早苗はギュッと手を握り返し幸せを噛みしめていた。


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