熱のない部屋で

中道舞夜

文字の大きさ
52 / 69

第51話 新婚生活

しおりを挟む
7月に入籍をした新婚の滝は、幸せいっぱいなはずだった。
しかし、入籍したばかりの明るい幸せオーラは、以前よりも明らかに減っていた。


「楠木さん、聞いて下さいよ……」

少し疲れたような顔をしている滝が、早苗に話しかけた。


「どうしたの?何かあった?」
早苗が尋ねると、滝はため息をついた。


「それが……色々ありまして……」


滝と彼女は、これまで誰かと一緒に住んだことがなかった。四六時中一緒にいることで、自分一人で家にいる時間がなくなり、トイレの流す音や毎晩の寝言など、相手の存在を常に感じることに少しずつストレスを感じ始めていた。



また滝は彼女の電気の消し忘れが気になり、彼女は滝がトイレットペーパーを替えないことが目につくそうで、我慢できない程ではないがイライラしてしまうらしい。


「……一緒に暮らすって楽しいことばかりじゃないんだね。」
早苗は滝の悩みに少し驚いた。しかし、滝にとっては深刻な問題だった。


「今まで一人暮らしだったから自分のペースで生活してたんです。でも、今は……」
滝は、言葉を濁した。


「彼女も初めての共同生活だから色々戸惑っているみたいで……」


彼女は家事全般が得意ではなく要領も悪いらしい。一人暮らしの時は、平日は一旦家に帰ってからスーパーで値引きシールの貼られるタイミングを見計らい総菜や弁当を買って過ごしていたが、結婚を機に料理を頑張ると意気込んでいたという。


滝も、その気持ちを嬉しく思い感謝を伝え見守ることにしたが作るのに1時間以上かかるそうだ。


その間に風呂掃除や洗濯物など他の家事をやっているが、それでも終わらず自分で作った方が早いため、つい口や手を出したくなってしまう。そして、それが原因で少しもめることが増えていた。


「うーん……私もまだ結婚したことなし誰かと住んだことないから分からないけど……」
早苗は、少し困ったように言った。


「料理は、二人で一緒に作るようにしたらどうかな?彼女に教えてあげながら作れば、時間も短縮できるしコミュニケーションも取れるんじゃない?」
早苗が提案すると、滝は少し考えて言った。



「そうですね。でも、彼女料理があまり好きじゃないみたいで…」


「じゃあ、平日は滝さんが作って週末は一緒に作るとかは?徐々に覚えていって時間がないときでも作れるように練習していくとか!お互いに得意な家事を分担するとか、色々試してみたらどうかな?」


滝と一緒に色々な解決策を考え始めた。


「いいですね!僕、料理は結構好きなんです。彼女も掃除は得意だって言ってたし」
滝は、早苗の提案に乗り気になった。


「ありがとうございます。なんか、揉めているせいかお互いにまっすぐ相手の言葉を受け取れなくて……。イライラしないで雰囲気良いときに言って、色々試してみます」
滝は、少し元気を取り戻したようだった。


「気分転換に外食したり、二人の時間も大切にしたりとかは?そうすれば、以前の付き合っていた頃の気持ちにも慣れるのかな?」


「確かに。最近、二人でゆっくり過ごす時間がなかったかもしれません」


滝は反省したように言った。
その後、滝は早苗のアドバイスを参考に、彼女と話し合い、家事の分担や家以外でも二人の時間を作るようにした。
そして、たまに気分転換に一人で好きなことをする時間も設けるようにした。


最初は戸惑うこともあったが、徐々に二人のペースを見つけていった。気になっていたトイレの流す音も寝言も目につくことはなくなったそうで日常の一部になったそうだ。


料理も週末に一緒に作ることで、以前よりもスムーズに作れるようになり会話も増えた。



数ヶ月後、滝は再び早苗に話しかけた。

「楠木さんと一緒に考えたことを試して、彼女とはお互い得意なことを担当して助け合っていこうって話をしたら良くなりました!彼女は、女性で早く仕事も終わるからご飯は自分が作らなくてはいけないと無理していたみたいです。でも、掃除や整理整頓とか得意なことをお願いしたら結婚当初より家が綺麗です。楠木さん、ありがとうございます。」


滝の顔は、以前よりもずっと明るい。早苗が微笑むと滝は照れ笑いを浮かべた。


「私も滝さんと一緒に考えられて良かったよ。」


滝の表情は、幸せに満ち溢れていた。
二人がお互いを理解し歩み寄ることでより深い絆で結ばれた。早苗はその話を聞き、自分も鈴木とこんな風に共に成長し幸せな家庭を築いていきたいと改めて思った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

処理中です...