61 / 69
第60話 特別な日
しおりを挟む
6月ももうすぐ終わりまた夏がやってくる。
土曜日の朝、早苗は鈴木の部屋で2人分のコーヒーを淹れるためお湯を沸かしていた。
以前、「家で待っていて欲しい」と帰りを引き留められた日から金曜夜に鈴木の家に来て週末を過ごすこともあった。昨夜も仕事が終わってから鈴木の家で一緒に朝を迎えた。
この日、普段は少し布団の中でのんびりしてから起きる鈴木が、寝ぼけ眼を擦りながらもすぐにベッドから起き上がり洗面所へと向かった。
歯を丁寧に磨き、髭を剃る。いつもより少しだけ時間をかけた身支度。その様子を不思議に思いながらコーヒーを淹れる早苗。
「おはよう。今日は支度早いね。」
早苗はコーヒーを手渡し声をかけた。
「ああ、ありがとう。今日はちょっとね。ちゃんとしたくて……」
鈴木は少し照れくさそうに笑った。
コーヒーを受け取り一口飲む。少し間を置いてから早苗に向き直った。
「早苗、話があるんだけど」
「なに?」
「早苗に伝えたいことがあって。」
「うん?」
「俺さ、早苗がいつも側にいてくれることに感謝しているんだ。ずっと俺のことを待ってくれて、今も支えてくれることがとても嬉しいんだ。だから……あの……あのさ……」
鈴木は真剣な眼差しで早苗を見つめた。
早苗は、視線から伝わってくる鈴木の緊張感からいつもと違うことを察して、少し緊張した面持ちで鈴木からの次の言葉を待った。
「あの……早苗、俺と結婚してください」
鈴木はストレートにプロポーズの言葉を口にした。
鈴木との結婚。
それは早苗がずっと夢見ていたことだった。
合鍵を預かる前の片思いの時期、付き合ったばかりの鈴木の部屋でご飯を食べて幸せを噛みしめていた時、1年目の記念日に別れを告げられた時、3年ぶりに再会して想いが繋がったと思ったのにすれ違った日々、もう一度気持ちを確かめ合って二人で乗り越えていこうと誓った日も、鈴木のことを意識しはじめてから、何度も何度も鈴木の隣で過ごす未来を思い描いていた。
走馬灯のように想い出が駆け巡り、みるみるうちに涙が溢れてくる。ひとつひとつの想い出が鮮明で辛く悲しんだ日々でさえ大切に思える。
そして今、夢見ていたことは現実になろうとしている。
『早苗、俺と結婚してください』
この言葉を数秒前に聞いたばかりなのに、何度も何度も頭の中で繰り返される。
返事をする前に早苗は大粒の涙を流していた。喉の奥が熱い。
「……はい。お願いします。」
早苗はようやく震える声で答えた。嬉しくて幸せで涙が止まらない。
「ありがとう。本当にありがとう」
鈴木は微笑み、早苗の涙を優しく拭いギュッと力強く抱きしめた。 早苗も背中に手を回しギュッと力を入れる。
二人はしばらくの間、抱き合っていた。
「あーーーーーーー、緊張した。朝言おうと思ったけど身なりを整えなきゃって髭剃ったんだよね」
「え!!?それで今日は起きてすぐに髭剃っていたの?ずるい!!!私スッピンなのに」
「自然なままの早苗がいいの。俺の場合は、くっつくと髭が痛いでしょ?笑」
二人は目を合わせて笑いあい、再び強く長く抱き合った。
「あと……これ。指輪は早苗と一緒に選びたかったから」
鈴木はそう言って紙袋を早苗に手渡した。
「え……?」
早苗は驚いて紙袋の中を覗くと、小さな箱とメッセージカードが入っている。
綺麗に包装されたリボンをほどくと、中からキーケースが出てきた。
「色々考えたんだけどさ、俺たちを繋いだのは合鍵だったから。もうあの合鍵は使えなくなっちゃったけど、これから一緒に住む部屋の鍵でもと思って。」
「……ありがとう。大切にする」
嬉しくてまた涙を流す。プロポーズの言葉を聞いてから涙が次から次へと溢れてきて止まらない。こんなに嬉しくて泣くのは初めてだ。早苗はキーケースを胸に抱きしめた。
「あ、メッセージカードは恥ずかしいから後で読んでほしい」
鈴木は少し照れくさそうに言うが早苗は待ちきれずすぐに裏返してた。
「あ、ちょっと!!!!!!」
慌てて手紙を取ろうとする鈴木の手を握りメッセージカードを読む。
---------
早苗へ
いつもそばにいてくれてありがとう。
早苗の笑顔にいつも励まされています。
早苗といると心が安らぎどんな困難も乗り越えられる気がします。
早苗とこれからもずっと一緒にいたい。
早苗と温かい家庭を築きたい。
早苗とどんな時も笑って過ごしたい。
早苗を一生大切にします。
結婚してください。
浩太
---------
早苗はメッセージを読みながらまた涙を流した。大粒の涙がメッセージカードに落ちて滲む。大切な手紙をこれ以上汚したくなくて、早苗は鈴木の手を離し涙を拭きながら読み返した。
鈴木は堪忍したようでそっと見守っている。
「浩太……本当にありがとう」
早苗は、鈴木の手を握った。
「本当に嬉しい……手紙もあるなんて思わなかった。」
「俺も嬉しいよ。……前に手作りのプレゼントや手紙とか嬉しいって言ってたから。照れくさいから書くつもりなかったんだけど、早苗が喜ぶならって。」
恥ずかしそうに頭を掻きながら言う鈴木が愛おしかった。
「覚えていてくれたんだ……ありがとう」
早苗は思いっきり鈴木に抱きついた。二人は互いの温もりを感じながら幸せな時間を過ごす。そして、二人の未来が今日からまた新しく始まることを確信した。
土曜日の朝、早苗は鈴木の部屋で2人分のコーヒーを淹れるためお湯を沸かしていた。
以前、「家で待っていて欲しい」と帰りを引き留められた日から金曜夜に鈴木の家に来て週末を過ごすこともあった。昨夜も仕事が終わってから鈴木の家で一緒に朝を迎えた。
この日、普段は少し布団の中でのんびりしてから起きる鈴木が、寝ぼけ眼を擦りながらもすぐにベッドから起き上がり洗面所へと向かった。
歯を丁寧に磨き、髭を剃る。いつもより少しだけ時間をかけた身支度。その様子を不思議に思いながらコーヒーを淹れる早苗。
「おはよう。今日は支度早いね。」
早苗はコーヒーを手渡し声をかけた。
「ああ、ありがとう。今日はちょっとね。ちゃんとしたくて……」
鈴木は少し照れくさそうに笑った。
コーヒーを受け取り一口飲む。少し間を置いてから早苗に向き直った。
「早苗、話があるんだけど」
「なに?」
「早苗に伝えたいことがあって。」
「うん?」
「俺さ、早苗がいつも側にいてくれることに感謝しているんだ。ずっと俺のことを待ってくれて、今も支えてくれることがとても嬉しいんだ。だから……あの……あのさ……」
鈴木は真剣な眼差しで早苗を見つめた。
早苗は、視線から伝わってくる鈴木の緊張感からいつもと違うことを察して、少し緊張した面持ちで鈴木からの次の言葉を待った。
「あの……早苗、俺と結婚してください」
鈴木はストレートにプロポーズの言葉を口にした。
鈴木との結婚。
それは早苗がずっと夢見ていたことだった。
合鍵を預かる前の片思いの時期、付き合ったばかりの鈴木の部屋でご飯を食べて幸せを噛みしめていた時、1年目の記念日に別れを告げられた時、3年ぶりに再会して想いが繋がったと思ったのにすれ違った日々、もう一度気持ちを確かめ合って二人で乗り越えていこうと誓った日も、鈴木のことを意識しはじめてから、何度も何度も鈴木の隣で過ごす未来を思い描いていた。
走馬灯のように想い出が駆け巡り、みるみるうちに涙が溢れてくる。ひとつひとつの想い出が鮮明で辛く悲しんだ日々でさえ大切に思える。
そして今、夢見ていたことは現実になろうとしている。
『早苗、俺と結婚してください』
この言葉を数秒前に聞いたばかりなのに、何度も何度も頭の中で繰り返される。
返事をする前に早苗は大粒の涙を流していた。喉の奥が熱い。
「……はい。お願いします。」
早苗はようやく震える声で答えた。嬉しくて幸せで涙が止まらない。
「ありがとう。本当にありがとう」
鈴木は微笑み、早苗の涙を優しく拭いギュッと力強く抱きしめた。 早苗も背中に手を回しギュッと力を入れる。
二人はしばらくの間、抱き合っていた。
「あーーーーーーー、緊張した。朝言おうと思ったけど身なりを整えなきゃって髭剃ったんだよね」
「え!!?それで今日は起きてすぐに髭剃っていたの?ずるい!!!私スッピンなのに」
「自然なままの早苗がいいの。俺の場合は、くっつくと髭が痛いでしょ?笑」
二人は目を合わせて笑いあい、再び強く長く抱き合った。
「あと……これ。指輪は早苗と一緒に選びたかったから」
鈴木はそう言って紙袋を早苗に手渡した。
「え……?」
早苗は驚いて紙袋の中を覗くと、小さな箱とメッセージカードが入っている。
綺麗に包装されたリボンをほどくと、中からキーケースが出てきた。
「色々考えたんだけどさ、俺たちを繋いだのは合鍵だったから。もうあの合鍵は使えなくなっちゃったけど、これから一緒に住む部屋の鍵でもと思って。」
「……ありがとう。大切にする」
嬉しくてまた涙を流す。プロポーズの言葉を聞いてから涙が次から次へと溢れてきて止まらない。こんなに嬉しくて泣くのは初めてだ。早苗はキーケースを胸に抱きしめた。
「あ、メッセージカードは恥ずかしいから後で読んでほしい」
鈴木は少し照れくさそうに言うが早苗は待ちきれずすぐに裏返してた。
「あ、ちょっと!!!!!!」
慌てて手紙を取ろうとする鈴木の手を握りメッセージカードを読む。
---------
早苗へ
いつもそばにいてくれてありがとう。
早苗の笑顔にいつも励まされています。
早苗といると心が安らぎどんな困難も乗り越えられる気がします。
早苗とこれからもずっと一緒にいたい。
早苗と温かい家庭を築きたい。
早苗とどんな時も笑って過ごしたい。
早苗を一生大切にします。
結婚してください。
浩太
---------
早苗はメッセージを読みながらまた涙を流した。大粒の涙がメッセージカードに落ちて滲む。大切な手紙をこれ以上汚したくなくて、早苗は鈴木の手を離し涙を拭きながら読み返した。
鈴木は堪忍したようでそっと見守っている。
「浩太……本当にありがとう」
早苗は、鈴木の手を握った。
「本当に嬉しい……手紙もあるなんて思わなかった。」
「俺も嬉しいよ。……前に手作りのプレゼントや手紙とか嬉しいって言ってたから。照れくさいから書くつもりなかったんだけど、早苗が喜ぶならって。」
恥ずかしそうに頭を掻きながら言う鈴木が愛おしかった。
「覚えていてくれたんだ……ありがとう」
早苗は思いっきり鈴木に抱きついた。二人は互いの温もりを感じながら幸せな時間を過ごす。そして、二人の未来が今日からまた新しく始まることを確信した。
5
あなたにおすすめの小説
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】
remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。
本宮 のい。新社会人1年目。
永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。
なんだけど。
青井 奏。
高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、
和泉 碧。
初恋の相手らしき人も現れた。
幸せの青い鳥は一体どこに。
【完結】 ありがとうございました‼︎
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる