熱のない部屋で

中道舞夜

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第63話 結婚とは

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晴れて夫婦になった鈴木と早苗は、周囲からの温かい祝福に包まれていた。


会社では同僚たちが結婚式二次会を行う居酒屋でささやかな結婚祝いパーティーを開いてくれた。ペティナイフを持ち二人でホールケーキに入刀した。ファーストバイトやキスもせがまれたが、鈴木の部下も多く参加していたため全力で拒否をした。


友人たちからは次々と結婚祝いのメッセージが届き、二人はたくさんの人たちに支えられていることを改めて実感し、感謝の気持ちでいっぱいになった。


新婚生活が始まり二人は同じ家で暮らし始めた。しかし、鈴木の仕事は相変わらず忙しく、帰りが22時を過ぎることも多かった。21時前に帰宅すると「今日は早かったね」と驚くほどで平日は早苗が一人で食事をとる日が続いた。


結婚して一緒に住むようになってから早苗が初めて知ったことがあった。


それは、鈴木が大事な会議や商談の前になると緊張して眠れなくなるということだった。深夜に目を覚ましリビングのデスクに向かう鈴木の姿を何度か見かけた。


仕事が出来て何でも器用にこなすと評価されているが、心配性の完璧主義でこうした影の努力や準備があってこそだと改めて知った。


早苗は、そんな鈴木をそっと見守りながら自分にできることはないかと考えていた。
しかし、鈴木は「大丈夫だよ。少し考え事をしたらまた眠れるから」といつもと変わらない優しい笑顔を見せるのだった。


早苗は、そんな鈴木をそっと見守りながら、自分の時間を大切に過ごしていた。料理教室に通ったり読書をしたり。


変わったことといえば洗濯物を毎日一緒に回すようになったことくらいで、不満はないが結婚して一緒に住んでいてもあまり変わらないと感じることもあった。


『結婚したら何か大きく変わると思っていたけれど違うのかも……』


そんなことを考えながら早苗はソファに横になった。テーブルの上には読みかけの本と連絡が来たらすぐに返事が出来るようにスマホが置いてある。


玄関が開く音がして鈴木がリビングのドアを開ける。


「ただいま」

「おかえりなさい」

「ああ、ただいま。遅くなってごめん」
疲れた様子でソファーに腰を下ろした。


「お疲れ様。何か食べるもの作るね」


早苗がキッチンに向かおうとすると、手を掴み鈴木が止めた。


「ありがとう。でも今日はもういいよ。少しだけ一緒に話さない?」
鈴木の言葉に早苗は嬉しくなった。

「うん」


二人はソファーに座り、今日あったことを話した。鈴木は仕事の話をしながらも、時折早苗の顔を見て微笑んだ。早苗も鈴木の話に耳を傾けながらその横顔を愛おしく思った。

「ん?どうしたの?」
早苗の視線に気づき、優しい眼差しで鈴木が聞いてくる。


「何でもない。いつも頑張ってるね、おつかれさまです。」

「ありがとう。疲れていたけどなんだか癒された。」


鈴木は優しく早苗の手を握る。鈴木の言葉に早苗は胸が熱くなった。二人はしばらくの間、言葉もなくただ互いの温もりを感じていた。


「ねえ、浩太?」

「ん?」

「週末は、浩太とゆっくりしたいな。」
早苗の言葉に鈴木は少し驚いたようだった。

「ああ、俺もだよ。仕事が忙しくてなかなか時間が取れなくてごめん」

「ううん、浩太が頑張ってるのは分かってる。でももう少しだけ二人の時間が欲しいなって」


早苗の言葉に鈴木は真剣な表情になった。
「そうだな。これからはもう少し早く帰れるようにするよ。週末は二人でゆっくり過ごそう」

鈴木の言葉に早苗は嬉しくなった。
「ありがとう、浩太」


二人は再び微笑み合いそっとキスをした。仕事を頑張っている鈴木に、時間を作ってほしいと以前なら申し訳なくて言わなかっただろう。自分に言い聞かせて我慢していた。
今は受け止めてくれる安心感があると童子に我慢して溜め込み、のちに悪化する方が嫌だと思った。


その夜、早苗は久しぶりに鈴木とゆっくりと眠ることができた。鈴木の腕の中で寝息と温もりを感じながら早苗は穏やかな眠りにつく。


夜、鈴木が隣にいることが嬉しかった日が、いつしか側にいるのが当たり前で安心できるものになっていた。そして、いない日は何かが欠けたようになんだか寂しい。


『結婚ってきっとこういうことなんだ』


隣でむにゃむにゃと寝言を言う鈴木に愛おしさを感じながら早苗は眠りについた。

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