熱のない部屋で

中道舞夜

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第66話 一年目の夫婦

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プロポーズを受けてから、両家挨拶、結婚報告、入籍、海外挙式と鈴木と早苗は慌ただしい一年を過ごした。全てが終わりようやく二人は平穏な日々を送り始めた。


一緒に暮らし始めるとお互いの新たな一面が見えてきた。


鈴木は、仕事では用意周到で完璧主義者として知られていたが、プライベートでは生活に支障がなければ細かいことは気にしない、大雑把な一面があった。オンとオフの切り替えが激しく、家ではリラックスした姿を見せるようになった。


一方、早苗はいつも笑顔を絶やさず、大らかで気配り上手な姉御肌として周りから頼られていたが、実は生真面目で几帳面な性格だった。常に笑顔でいるのは理想の自分を演じているからで仕事中は特に気を付けていた。


綺麗に整理整頓された空間で過ごしたい早苗と、部屋が散らかってからまとめて片付ける鈴木。


最初の頃は、鈴木が早苗に謝っていたが片付けようとする前に口を出されることに自分のペースを乱されるような気がして少しずつ不満が溜まっていった。


「結婚したばかりの頃は、すぐに謝ってくれたのに、今は『はいはい』って適当に返事して……もーーー!!!!」

早苗は、いつも家事をしているのは自分ばかりなること、言うと面倒くさそうな態度を取る鈴木についに堪忍袋の緒が切れた。


結婚したばかりの頃の遠慮が消え、独身時代の素の自分が出てきた二人は、互いのペースが噛み合わない時に素直になれなくなっていた。派手な喧嘩はしないものの、時々家の中の空気が重くなることがあった。


週末、早苗は溜まった家事をこなしながら鈴木への不満を募らせていた。


「仕事が忙しいのは分かるけれど、私だって仕事してその後、家事やっているのに!!少しは協力してくれたっていいじゃない。やろうとしているのは分かるけれど掃除しなきゃと思うタイミングが浩太の方が遅いんだよな。つい気になって手が出てしまう……。これじゃ、私がずっと家事することになるよ。もーーーー!!」


鈴木は、カリカリした早苗を見て火に油を注ぎかねないと何も言わず遠くにいた。手伝うよ、とか教えてと言うのは、なんとなくプライドが許さなかった。


月曜日の昼、鈴木は「夜、外でご飯食べない?」とメッセージを送った。気乗りしなかったが早苗は仕方なく了承した。


待ち合わせの店は、鈴木が以前から行っていた居酒屋だった。帰国の報告をした時に初めて早苗を連れて行った時は個室にしたが、その後はカウンターでマスターと奥さん、常連さんとの会話を楽しんでいた。


「二人の結婚、本当に嬉しいよ。鈴木君、結婚してますます幸せそうで何よりだ」 

「ありがとうございます」

常連客たちも、二人の結婚を祝ってくれた。


「結婚っていいもんだよ。たまに怒らせてしまう時もあるけど、俺は母ちゃんには感謝しているんだよ。母ちゃんがいたから今があると思ってる」

「繁さん、奥さんにも面と向かって言うんですか?」

「いやぁ。言わねえよ。こうやって外で酒飲んで酔っぱらった時だけ。」

常連の繁さんは顔を赤らめ言う。もっとも赤いのは照れではなくただの飲み過ぎだ。

鈴木は繁さんの気持ちがよく分かった。面と向かって感謝の言葉をいつも口にするのは気恥ずかしいし難しい。感謝しているから仕事を頑張ろうと思う。男は背中で語る。と言うことにロマンを感じていた。


「繁さん愛妻家なのに家では亭主関白らしいですよ」

「えーーー。言葉にしてくれたら奥さんも喜ぶと思うのにな。」

「ねえ。言葉やちょっとしたプレゼントでも何かあると嬉しいですよね」

マスターの奥さんと早苗は女性同士盛り上がっている。男性陣は聞こえないふりをして酒を飲み、口を開かない。


昨夜までは気まずい雰囲気だったが、周りの人たちのおかげで二人は少しずつ笑顔を取り戻していった。そして、お互いの態度を反省し素直な気持ちを伝え合った。


帰り道、二人に重い空気はもうない。
「あーーー楽しかった。昨日は、言い過ぎてごめんね。私ももう少し浩太のペースに合わせるようにする」 

「俺もごめん。これからはもう少し早く片付けるようにするよ。早苗も何か不満があったら遠慮なく言ってくれ」

「んーー、じゃあ、私はたまには感謝や甘い言葉があると嬉しいし頑張れるな」

「……考えておくよ」

「なんでよ!!!」
早苗が鈴木の背中をバッグで軽く叩く。しかし、互いに笑顔でやり取りを楽しんでいる。


こうして変な空気になっても二人は少しずつ歩み寄り、夫婦としての絆を深めていった。


『イライラする時もあるけれど、自分の隣にいるのは浩太がいい』と早苗は心から思っていた。それは鈴木も同じ気持ちだった。


「なんかアイス食べたくなっちゃった。帰りにコンビニでパピコ食べない?」

真面目な鈴木部長がパピコ……。たまに見せる無邪気な子供っぽい一面を見せるのも可愛かった。1つのアイスを分け合ってお互いチューチューと吸いながら夜道を歩き、家路についた

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