20 / 194
学園編 16歳
18 悪役令嬢として振舞いましょう
しおりを挟む
ベロニカ・オランドール。その名は聞き覚えがある。社交界デビューのために、代表的な貴族家の名は覚えた。オランドールは公爵家の名だ。格上のご令嬢の登場に、エリーナは慌てて立ち上がり挨拶をする。
「ごきげんよう、ベロニカ様。私はエリーナ・ローゼンディアナと申します」
「えぇ、先ほど殿下に挨拶をされたのを聞きましたわ。幻の令嬢にお会いできて光栄よ。でもね、あなた、恋に夢見るのは勝手だけど、私の婚約者である王子に色目を使わないでちょうだい? 殿下にお声がけしてもらったからって、いい気にならないことね!」
おほほほと高笑いをするベロニカの後ろから、その通りですわ、身の程知らずねと、取り巻きが加勢する。
(え? 何なのこの状況)
竹を割るような威勢のいい声と飛び出した辛辣な言葉に、エリーナは圧倒されていた。
呆気にとられるエリーナにご満悦なのか、ベロニカの口が滑らかに動く。
「そもそも、15にもなって茶会にも出てこず、クリス様に甘やかされてばかりのひよこが、この学園で生きていけると思わないことね。あなたのような父親が誰かもわからない女は、貴族として相応しくありませんわ。今まではディバルト様やクリス様に可愛がられていたのでしょうけど、これからはそうはいきませんことよ?」
ベロニカは高いヒールを履いていることもあって、エリーナを見下ろしている。それがさらに威圧感を与えており、屈辱的だった。
わなわなと唇が震える。こんな罵倒を受けたのは初めてだ。いつもは、エリーナが悪役令嬢としてヒロインに向けて言い放っていたのだが……。
(キャラが被ったら、私が霞むじゃない!)
負けじと鍛えた眼力で睨みつけ、応戦の構えを見せる。
「あらぁ。そんな顔で睨まれても何とも感じませんわぁ。ロマンス令嬢は大人しく、本の中だけで生きていらしたらよろしくてよ」
聞く人が眉根を寄せるような厭味ったらしい口調に毒々しい声。高笑いが庭園に響き、取り巻き二人がベロニカをよいしょしていた。
(なにこれ! 悔しいわ。こんな理想的な悪役令嬢を見せつけられるなんて!)
言葉が出ない程悔しかった。理想とする悪役令嬢を目の前で見せつけられ、黙って引き下がってなどいられない。
エリーナはカッと目を見開き、ベロニカを見据えると胸を張って言い放った。悪役令嬢のプロとして取る行動は一つ。
「その素晴らしい悪役令嬢! 師匠とお呼びしてもよろしいですか!」
自身の悪役令嬢をさらに磨くため、弟子入りするのみである。悔しい、非情に悔しいが、自らを高めるには時に引くことも必要だ。
「はぁ!? あなた、何を寝ぼけたことを言っているの!」
「ベロニカ様に向けて、悪役とは無礼ですわ!」
「そうよ!」
こめかみに青筋を浮かべ顔を引きつらせたベロニカの後ろで、きゃんきゃんと取り巻き二人が吠える。だがそれすらも、エリーナには素晴らしい見本でしかない。
「ベロニカ様も、悪役令嬢を目指しておられるのでしょう? 私とともに語り合いましょう!」
ベロニカの手をひしと掴み、ずいっと顔を近づけて瞳を輝かせる。今まで悪役令嬢に取り巻きはいても、志を同じにする仲間はいなかった。
(そうよ、ダブル悪役令嬢にすればいいわ! なんて斬新なの!)
頭の中に嫌がらせのレパートリーが広がっていく。
「ちょっと、手を放しなさいよ!」
ベロニカは手を振り払おうとするが、エリーナの手は離れず一緒にぶんぶん動き握手しているようになる。
「いえ! ずっとついていきますわ! 師匠!」
「その変な呼び方は止めなさい!」
「では、お姉さま!」
「それも嫌!」
キイキイ叫んで取り乱すベロニカと、斜め上の展開に引き気味の取り巻き。傍から見れば異様な光景だが、仲間に会えた感動でいっぱいのエリーナが気づくことはない。
エリーナが感動に震えている頃、王都のローゼンディアナ家別邸では、クリスが領地の経営に関する書類の決裁を終え、お茶を飲んで一息ついていた。別邸は本邸に比べれば一回り小さいが、二人と数名の使用人で住むには十分なものだ。そして何より、学園まで徒歩で十分というのが望ましい。友人の商人が頑張って見つけてくれたのだ。
お茶をすすり、給仕をしてくれたサリーに視線を向ける。
「エリーは学園を楽しめているかな」
夕食はエリーナの入学を祝った豪華なものになっている。クリスは贔屓にしている友人の商会にかけあって、他国の特産品を取り寄せてもらっていた。もちろんエリーナの好物であるプリンも数種類用意してある。サリーには甘やかしすぎですと笑われてしまった。
「どうでしょう。正直、少し心配です……お嬢様は少々変わったところがございますから」
言わずもがなロマンス小説を読みふけり、こともあろうか悪役令嬢に憧れているところである。ノリノリで寸劇に乗っているサリーだが、外でもあの調子でやらかさないか心配なのだ。
「そうだね。でも、エリーは昔から肝心なところで抜けているからね」
そう言って懐かしそうに目を細めるクリスに、サリーも小さい時からのエリーナを思い出し、
「そうですね」
と微笑む。
ただいま公爵令嬢に絶賛からまれ、その相手を困惑させているとはつゆほども思わない二人だった。
「ごきげんよう、ベロニカ様。私はエリーナ・ローゼンディアナと申します」
「えぇ、先ほど殿下に挨拶をされたのを聞きましたわ。幻の令嬢にお会いできて光栄よ。でもね、あなた、恋に夢見るのは勝手だけど、私の婚約者である王子に色目を使わないでちょうだい? 殿下にお声がけしてもらったからって、いい気にならないことね!」
おほほほと高笑いをするベロニカの後ろから、その通りですわ、身の程知らずねと、取り巻きが加勢する。
(え? 何なのこの状況)
竹を割るような威勢のいい声と飛び出した辛辣な言葉に、エリーナは圧倒されていた。
呆気にとられるエリーナにご満悦なのか、ベロニカの口が滑らかに動く。
「そもそも、15にもなって茶会にも出てこず、クリス様に甘やかされてばかりのひよこが、この学園で生きていけると思わないことね。あなたのような父親が誰かもわからない女は、貴族として相応しくありませんわ。今まではディバルト様やクリス様に可愛がられていたのでしょうけど、これからはそうはいきませんことよ?」
ベロニカは高いヒールを履いていることもあって、エリーナを見下ろしている。それがさらに威圧感を与えており、屈辱的だった。
わなわなと唇が震える。こんな罵倒を受けたのは初めてだ。いつもは、エリーナが悪役令嬢としてヒロインに向けて言い放っていたのだが……。
(キャラが被ったら、私が霞むじゃない!)
負けじと鍛えた眼力で睨みつけ、応戦の構えを見せる。
「あらぁ。そんな顔で睨まれても何とも感じませんわぁ。ロマンス令嬢は大人しく、本の中だけで生きていらしたらよろしくてよ」
聞く人が眉根を寄せるような厭味ったらしい口調に毒々しい声。高笑いが庭園に響き、取り巻き二人がベロニカをよいしょしていた。
(なにこれ! 悔しいわ。こんな理想的な悪役令嬢を見せつけられるなんて!)
言葉が出ない程悔しかった。理想とする悪役令嬢を目の前で見せつけられ、黙って引き下がってなどいられない。
エリーナはカッと目を見開き、ベロニカを見据えると胸を張って言い放った。悪役令嬢のプロとして取る行動は一つ。
「その素晴らしい悪役令嬢! 師匠とお呼びしてもよろしいですか!」
自身の悪役令嬢をさらに磨くため、弟子入りするのみである。悔しい、非情に悔しいが、自らを高めるには時に引くことも必要だ。
「はぁ!? あなた、何を寝ぼけたことを言っているの!」
「ベロニカ様に向けて、悪役とは無礼ですわ!」
「そうよ!」
こめかみに青筋を浮かべ顔を引きつらせたベロニカの後ろで、きゃんきゃんと取り巻き二人が吠える。だがそれすらも、エリーナには素晴らしい見本でしかない。
「ベロニカ様も、悪役令嬢を目指しておられるのでしょう? 私とともに語り合いましょう!」
ベロニカの手をひしと掴み、ずいっと顔を近づけて瞳を輝かせる。今まで悪役令嬢に取り巻きはいても、志を同じにする仲間はいなかった。
(そうよ、ダブル悪役令嬢にすればいいわ! なんて斬新なの!)
頭の中に嫌がらせのレパートリーが広がっていく。
「ちょっと、手を放しなさいよ!」
ベロニカは手を振り払おうとするが、エリーナの手は離れず一緒にぶんぶん動き握手しているようになる。
「いえ! ずっとついていきますわ! 師匠!」
「その変な呼び方は止めなさい!」
「では、お姉さま!」
「それも嫌!」
キイキイ叫んで取り乱すベロニカと、斜め上の展開に引き気味の取り巻き。傍から見れば異様な光景だが、仲間に会えた感動でいっぱいのエリーナが気づくことはない。
エリーナが感動に震えている頃、王都のローゼンディアナ家別邸では、クリスが領地の経営に関する書類の決裁を終え、お茶を飲んで一息ついていた。別邸は本邸に比べれば一回り小さいが、二人と数名の使用人で住むには十分なものだ。そして何より、学園まで徒歩で十分というのが望ましい。友人の商人が頑張って見つけてくれたのだ。
お茶をすすり、給仕をしてくれたサリーに視線を向ける。
「エリーは学園を楽しめているかな」
夕食はエリーナの入学を祝った豪華なものになっている。クリスは贔屓にしている友人の商会にかけあって、他国の特産品を取り寄せてもらっていた。もちろんエリーナの好物であるプリンも数種類用意してある。サリーには甘やかしすぎですと笑われてしまった。
「どうでしょう。正直、少し心配です……お嬢様は少々変わったところがございますから」
言わずもがなロマンス小説を読みふけり、こともあろうか悪役令嬢に憧れているところである。ノリノリで寸劇に乗っているサリーだが、外でもあの調子でやらかさないか心配なのだ。
「そうだね。でも、エリーは昔から肝心なところで抜けているからね」
そう言って懐かしそうに目を細めるクリスに、サリーも小さい時からのエリーナを思い出し、
「そうですね」
と微笑む。
ただいま公爵令嬢に絶賛からまれ、その相手を困惑させているとはつゆほども思わない二人だった。
3
あなたにおすすめの小説
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
悪役令嬢が睨んでくるので、理由を聞いてみた
ちくわ食べます
恋愛
転生したのは馴染みのない乙女ゲームの世界だった。
シナリオは分からず、登場人物もうろ覚え、タイトルなんて覚えてすらいない。
そんな世界でモブ男『トリスタン』として暮らす主人公。
恋愛至上主義な学園で大人しく、モブらしく、学園生活を送っていたはずなのに、なぜか悪役令嬢から睨まれていて。
気になったトリスタンは、悪役令嬢のセリスに理由を聞いてみることにした。
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
As-me.com
恋愛
完結しました。
自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。
そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。
ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。
そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。
周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。
※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。
こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。
ゆっくり亀更新です。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる