悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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学園編 16歳

25 庭園でアイデアを出しましょう

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 そして、とくに変化のない日常が過ぎていく。
 昼休み。人気のない庭園のベンチに座り、そよそよと春の風に吹かれながらエリーナは考えごとをしていた。一向にヒロインは現れず、攻略対象だけが増えていく。

(これは……転校生パターンかしら)

 イベントらしきものも起きておらず、時間だけが過ぎていた。もうすぐ社交のシーズンも終わり、学業中心の生活が始まるのだ。

(クリスにラウル先生、ジーク王子に、ルドルフ様……ちょっと少ないかしら)

 最近はジークやルドルフに対して少し強い態度で返せるようになってきた。悪役令嬢としてアピールをしておかなくてはならない。だが、その強気の言葉に対して嬉しそうに微笑まれるのは解せないが……。

(それに、結婚相手も見つけないといけないのよね……)

 こちらは見つからなければ、クリスが正式に当主となるので問題はないが、だからといっておざなりにはできない。
 考えていたら頭が痛くなってくる。今までこれほど考え、悩んだことはない。全てはシナリオで決まっており、オートモードに任せておけばよかったのだから。
 はぁと思い溜息をついた時、目の前のしげみがガサガサと揺れて思わず声を上げてしまった。

「きゃぁぁ!」

「え?」

 驚いて腰を上げたエリーナの耳に、少し高めの男の声が届いた。茂みからひょこりと栗色のボールが飛び出す。いや、ボールではなく、誰かの頭だった。ついで体が現れ、泥と葉を手で払いながら茂みからでてきた。

「こんなところに人がいるなんて、びっくり」

 それはエリーナのセリフだ。
 制服を着ており、ネクタイの色から同学年であることがわかる。エリーナの心臓は高鳴っており、突然のことに言葉が出てこない。

「あ、ここ庭園になってたんだぁ。穴場」

 間延びした声を出す男の子は、栗色のくせっ毛で、くりくりと丸い目をせわしなく動かしている。実年齢よりも幼く見え、庇護欲を掻き立てる相貌だ。その子は手にいろいろな草を束にしてもっており、それを腰のポーチにいれるとエリーナに近づいて来た。
 思わず後退ってしまう。

「プラチナブロンドの髪に、アメジストの目。君、エリーナ・ローゼンディアナでしょ? カイルが話してたよ」

 カイルの名は知っている。クリスの友人でドルトン商会を経営している。そういえば、彼には弟がいると話していたような……。

「もしかして、ミシェルさん?」

「そうだよ」

 そう思えば、栗色の髪と瞳がよく似ている。子猫のような可愛さがあった。

「えっと、ここで一体何をなさってたんですか?」

「僕平民だから、普通に話してくれていいよ。ミシェルって呼んでね。僕、新しい商品のために花とか薬草を探してたんだよ」

 答えてくれたのはいいが、それでも意味がわからなかった。小首を傾げたエリーナに、ミシェルはポーチから小瓶を取り出す。

「これ、うちの商会が出してるアロマでさ。新しい香りを作りたくて、学園の花で試してるんだ」

 ミシェルが蓋を開けて軽くゆすれば、辺りに甘い香りが広がった。

「甘い香りですね」

「そう。でも、なんか物足りないから、あと数滴違う香りを入れたいんだよね。エリーナ様は、柑橘系が好き? それとも樹木系?」

 唐突に意見を求められ、言葉に詰まる。エリーナの部屋にもアロマはあるが、どれもクリスの贈り物であり自分で香りを考えたことはなかった。今までの知識も総動員して、ベースの香りに合いそうなものを考える。

「柑橘系でさっぱりした感じもいいと思うわ」

「そっかぁ。実はこれ新作として売り出すんだけど、なんかいい名前ない? エリーナ様、たくさん小説読んでるでしょ。そのセリフとかでいいのない?」

「そんなこと言われても……」

 可愛い顔をして無茶な要求をしてくると思いつつ、乗りかかった船なので頭を捻る。ロマンス小説を読むのは悪役令嬢の研究のためだが、男たちの歯の浮くようなセリフもたくさん出てくる。

(甘酸っぱくて、アロマよね……)

 クリスに贈られたアロマも、少しきざっぽい名前がついていた。『俺に酔いな』や、『君を包み込んであげる』といった、赤面もののアロマである。そういったものがご令嬢の間で流行っているらしい。

「僕の香りに溺れて……」

 ぽつりと呟いてから、とたんに恥ずかしくなった。かぁっと顔が熱くなり、頬に朱がさす。

(きゃぁぁ、背中がむずむずするわ!)

 そんな甘い言葉を悪役令嬢である自分が口にしたかと思うと、身もだえしてしまう。そんなエリーナにはかまわず、ミシェルはおぉっと目を丸くして満面の笑みを浮かべた。

「それいいね! なんかいける気がする。ありがと、エリーナ様。新作が出来たら届けるからね!」

「え、待って。そのセリフはさすがに!」

 我に返ったエリーナが慌てて制止の声を上げるが、庭園にミシェルの姿はない。

「ど、どうしよ……」

 羞恥と後悔に苛まれながら校舎へと重い足取りで戻る。どうにかして、あの恥ずかしいセリフだけは止めさせたい。新たな悩みが増えたエリーナが校舎へと消えていった後、庭園の隅にある茂みが不自然に揺れた……。

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