悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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学園編 16歳

37 シナリオを確認しましょう

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 翌日、同じサロンで二人は向かい合っていた。サリーには下校時間に来てもらうように事前に伝えてあるので、時間に余裕はある。まだ聞きたいことがたくさんあった。昨日クリスと話をしたことで、気持ちは落ち着いて穏やかだ。
 リズは侍女科の学生というだけあって、サロンに備え付けてある茶器で手早くお茶を淹れてくれた。優秀な侍女になれそうだ。
 二人してお茶を飲み、昨日とは違う和やかな雰囲気に包まれた。お茶で喉を潤し、エリーナは本題に入る。

「このゲームのシナリオを教えて欲しいの」

「はい、私もエリーナ様がどこまで進まれているかを確認したいです」

 落ち着いている時のリズはハキハキと物を言うタイプのようで、ほどよい距離を取れる彼女を好ましく思う。さっそくシナリオの確認に入った。

「このゲームのストーリーはヒロインが卒業式までに結婚相手を決め、その後選択に応じた未来を過ごすというものです。このゲームのおもしろさは、まずヒロインがローゼンディアナ家を出るか残るかを選択できるところです。その選択しだいで攻略できるキャラが変わり、磨かなくてはいけないスキルも変わります」

 相当このゲームに入れ込んでいたのだろう。リズからは熱意が伝わってくる。リズの話によると、ステータスが低ければキャラを攻略できず、できてもエンド後が上手くいかないらしい。

「変わったゲームね」

 変なところがリアルというのが聞いた感想だ。しかもエンド後はアフターストーリーとして流れるのではなく、しっかりチャプターが設けられているらしい。

「努力なしではよい結果は得られない……ヒロインの口癖でした」

「現実的なヒロインだったのね」

 お花畑のメルヘンヒロインではなくて、心底ほっとした。

「そして、攻略キャラはラウル、ジーク、ルドルフ、ミシェルです」

「ふ~ん」

 クリスが入っていないのが意外だったが、攻略対象が義理の兄だと微妙かと思い直す。それにあの性格では、むしろ妨害する側に思える。

(あ、そっか。私がヒロインだから、クリスはあんなに甘やかすのね)

 ついで合点がいった。つくづくヒロインというのは幸せになるように作られている。

「そしてどのルートもファーストコンタクトを逃すと、攻略不可となります。何度リセットをしたか!」

 プレイヤーの心の叫びが思わずこぼれており、エリーナは苦笑いで受け止めた。

(なるほど……ヒロインの選択肢の後に時間が巻き戻ることがあったのは、リセットされたからだったのね)

 突如繰り返されるセリフに、不具合か、それともタイムループネタなのかと動けない体の中で慌てたものだった。

「私が失礼ながらエリーナ様を見ていたのは、イベントの進行が気がかりだったのと、生で見たかったからです」

 ファンとしての本音が駄々洩れであるが潔くてよろしいと、エリーナは大きく頷いた。

「それでルートについてですが、ラウルと学園で再会した時にあなたのものですと言わせたのでルート確定です。眼福でした。ゲームでは回想でしたが、家庭教師だったラウルの境遇をからかった二人から庇い、彼を慰めたんですよね?」

「えぇ、そうね……」

 ラウルを庇い、慰めたところは悪役令嬢モードを発動させたため、原作を損なっている気はしている……。

「ジークは廊下ですれ違う時に目を合わせないと、ルートが閉じます。恥じらって目をそらすを選んで死にました」

「あぁ、そういえば目があったから声をかけられたわね」

「柱の陰から見ておりました。ジークは一度ルートに入れば、最終選択まで何を選んでもしつこくヒロインにかまってくれます」

「そう……諦めるしかないのね」

 打たれ弱かったがその後は懲りずに声をかけてくる。話したければ王族として立派になってくださいと難癖付けたので、しばらくは平和なことを願っている。

「ルドルフは、初めての夜会の後、ベロニカに絡まれたヒロインを心配して声をかけてきます。ルドルフを狙うなら図書室通いをすると高確率で会えますよ。他のキャラと交流を深めすぎるとフラグが折れるので、バランスが難しかったです」

 ゲームでは昼休みに過ごす場所を毎回選べ、場所によって会えるキャラが違うらしい。庭園はラウルとミシェル、図書室はルドルフ、サロンはジークだそうだ。

「今のところ、それほどルドルフ様と関わりは深くないわね。殿下のお守りで大変そう」

「その二人の関係性もおいしいですよね……おっと、脱線しかけました。最後のミシェルは商品開発の悩みを解決することでルートに入れます。いまだに、なぜ樹木系はダメで柑橘系なら正解なのかはわかりません」

 もちろんこの目で見届けましたといい笑顔でリズは親指を立てていた。草陰に潜んでいて催涙ガスに見舞われたというのに、懲りていないらしい。そして、エリーナは幸か不幸か、全員のルートを開いていたのだった。

「この四人が攻略キャラなんですが、エリーナ様はどうされるおつもりですか?」

「……昨日も言ったけど、今すぐ誰かを攻略したいとは微塵も思わないわ。結婚相手は探したいから可能性は無くはないけれど、惹かれないもの」

「では……悪役令嬢を演じられるんですか?」

 リズの表情が少し陰る。ファンとしてヒロインに悪役令嬢をしてほしくはないが、エリーナの誇りと熱い思いを知った今、止めることはできない。

「いいえ」

 だが、リズの心配をよそにエリーナはあっさりと否定する。

「演じたくても、できないのよ」

「それは……ヒロインだから?」

 その言葉にエリーナは微笑みを返し、ティーカップを机に置いて問いかける。

「ねぇ、悪役令嬢が存在するために、乙女ゲームで必要な人って誰だと思う?」

「う~ん……ヒロインと三角関係になる攻略キャラですかね」

 乙女ゲームオタクだったリズはすんなり解答を導く。それに満足そうにエリーナは頷き、諦めに近い悔しそうな表情をした。

「えぇ。だから、できないのよ。私はヒロインで、思いを寄せる男もいないわ」

「……ちょっと意外です。エリーナ様なら、攻略キャラに言い寄る女の子を苛めると思ってました」

 それを聞いて、心外だと溜息をつく。カップをすっとリズへ押しやり、お代わりを催促した。

「それはただのいじめっ子よ。悪役令嬢はね、キャラと最後に結ばれるヒロインを苛めるから意味があるの」

「おぉ……目から鱗です。ということは、今のところどのルートも最後まで進めないおつもりなんですね」

 そしてリズはお茶のお代わりを淹れると、何かを期待するような目をエリーナに向ける。それを受けたエリーナはお茶を一口飲んでから、半目になって口を開いた。

「言いたいことがあるなら言いなさい。そんな目で見られてたらお茶がまずくなるわ」

 リズは厳しい言葉をさらりと流し、ニヘラと笑って実はと本題を切り出す。

「もしこの四人を攻略しないなら、力を貸してほしいことがあるんです」

「…………なに?」

 ろくでもなさそうと思いつつも、一応尋ねる。リズの顔はにやついており、本当に感情と表情が忙しい。

「隠しキャラを出してほしいんです」

 そう口にしたリズは、期待に目をキラキラと輝かせていた。
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