悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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学園編 16歳

48 観劇を楽しみましょう

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 夏休みが半分終わり、エリーナとクリスは一週間王都の別邸に戻っていた。ルドルフとミシェルに会う約束があるからだ。今日はルドルフと観劇をする予定であり、サリーたちにしっかりと肌の手入れをされ、化粧をされる。衣装はクリスがコーディネートをしており、三つの候補の中から選んだ。

 淡い黄緑のドレスにはレースがふんだんに使われ、少し開いた背中の部分が大人っぽさを演出する。アクセサリーは控えめながらも上質なもので、お淑やかな女性のイメージになった。クリスの気合いの入れようがジークの時とは明らかに違う。

「クリス……ルドルフ様のこと気に入ってるのね」

 鏡の前で仕上がりを確認し、後ろで素晴らしいよと拍手を送っているクリスに呆れ顔を向ける。

「嫁ぎ先として考えるなら、文句なしだからね。個人的に腹黒いところが好きだし」

「腹黒い……」

 まだその一面は見ていないが、やはり腹黒眼鏡枠かと今日の観劇が不安になる。今は悪役令嬢ではないため断罪されないだろうが、粗相をしないか緊張する。

 今日は午後から劇を観て、その後ディナーを一緒にする予定だ。殿方との格式高いディナーは初めてなうえ、ルドルフと何を話せばいいのかわからない。

(あまり二人で話したことないのよね)

 たいていベロニカかジークが同席しており、彼自身が話題を振ることは少なかった。ジークがよく話すだけに、彼はさらに無口に見えるのだ。


 そして楽しんでおいでとクリスと使用人たちに見送られ、玄関まで迎えに来たルドルフにエスコートされて馬車に乗り込む。クリスへの挨拶にエリーナへのさりげないエスコート。非の打ちどころのない紳士だ。
 馬車の向かいでにこやかな笑顔を浮かべているルドルフは、いつもの凛々しい雰囲気が少し柔らかくなっている。

「エリーナ。今日は誘いを受けてくれてありがとう」

「いえこちらこそ。とても素敵なお誘いで、受けずにはいられませんでしたわ」

 劇の予習は万全で、劇化されたロマンス小説を何度も読み直した。

「私も題材の小説を読んだよ。おもしろかった」

 原作を読んだと言ったルドルフに、ロマンス小説愛好家のエリーナは目を輝かせて身を乗り出した。

「本当ですか!? あの小説は甘く切ないストーリーが最高で、悪役令嬢もいい味を出しているんですよ」

「あぁ、あの世界が劇でどう表現されるのか楽しみだ」

「その通りですわ!」

 正直原作を読んできてくれるとは思っていなかったため、エリーナのテンションは上がる。これを機に他のロマンス小説を布教したくなるが、相手は男性。しかも公爵家跡取りのルドルフとくれば、ロマンス小説を読むイメージとはかけ離れていた。劇を観た後でも遅くないと、一度布教魂を封印する。ほどなく馬車は止まり、劇場に着いた。

 劇場は王都の繁華街にあり、常に人でにぎわっている。劇場の中も同様で話題作だからか満員だった。

「ル、ルドルフ様……ここは」

 ルドルフにエスコートをされた席は貴賓席であり、舞台全体がよく見える場所だった。取りたくても簡単に取れる席ではない。少なくとも伯爵令嬢のエリーナでは無理だ。

「ロマンス小説にかける貴女の情熱に見合う席はここぐらいしかありませんよ」

 かぶりつきの最前列も捨てがたいが、ゆったりと観劇するならボックス席になっている貴賓席が一番だ。隣としきられており、周りを気にせずに劇に集中できる。エリーナはさっそくオペラグラスを取り出して、観劇モードに入る。ここから肉眼でも十分役者は見られるが、細かい表情を見るにはオペラグラスが必要になる。
 まだ劇が始まっていないのに目を輝かせ、舞台にかぶりついているエリーナの横顔を見て、ルドルフは嬉しそうに微笑んでいた。それに気づいたエリーナは少し澄ました顔をして、

「なんですの?」

 とはしゃいでいる自分を隠そうとした。子どもっぽくて恥ずかしい。

「可愛らしいと思って。私に気を遣わず、好きに楽しんでくれたらいい」

 そう言って余裕の笑みを浮かべているルドルフを見て、一歳差でこうもジークとは違うのかと感心してしまうのだった。

 そして劇が始まり、エリーナはハンカチーフを涙で濡らした。思い入れの深いシーンに自分のだけでは追い付かず、ルドルフがすっと上質なハンカチーフを差し出してくれた。ほのかにコロンの香りがする。悪役令嬢の演技には心の底から応援をした。

(あぁ、尊い)

 リズがよくその言葉を使っているが、今その気持ちがわかった。
 幕が閉じると会場中が総立ちになり、拍手喝さいが飛んだ。エリーナも涙ながらに惜しみない拍手を送った。劇はあまり見た経験はなく、原作ファンとしては世界観が忠実に再現されるのか不安だったが、感激の嵐だった。

 そして絶対もう一度見ようと心に誓い、劇場を後にしたのだった。
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