悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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学園編 17歳

80 王子の誕生日を友人と祝いましょう

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 そして翌日、エリーナはクリスに見送られてオランドール公爵家へと向かった。招待状はクリスにも来ていたが、仕事が忙しいようで断りを入れたらしい。そして公爵家に着き、侍女たちに迎え入れられたエリーナは目を丸くした。

「リズ!? どうしてここにいるの?」

 侍女たちに混ざってリズが頭を下げていたからだ。驚いて近づくと、彼女は侍女としての姿勢を崩さずに答える。

「本日の茶会にお手伝いとして呼ばれたんです」

「そう。よかったわね」

 間近で攻略キャラたちを見られるのだから、ゲームファンのリズにとってこの上ない幸せだろう。

「はい!」

 リズはキラキラした眩しい笑顔を見せ、茶会の手伝いへと速足で向かっていったのだった。
 サロンに案内されれば、ジーク、ベロニカ、ルドルフがテーブルを囲んで座っており、遅れてラウルも来ると聞かされた。意外に思ったエリーナだが、この一年でジークはずいぶんラウルのところに通い、教えを受けていたらしい。

 エリーナがベロニカの隣に座ると侍女がお茶を淹れてくれる。リズは部屋の隅で待機していた。顔がにやけている。

「ジーク殿下、お誕生日おめでとうございます」

 ベロニカの奥に座るジークへそうお祝いの言葉を述べた。昨日のような形式ばったものではなく、友人として心をこめた言葉だ。

「あぁ、今日は来てくれてありがとう」

 ジークもきさくに返し、朗らかに笑っていた。王子として凛々しく振舞うジークよりも、今のように同じ目線にいるジークのほうが彼らしいと感じる。
 そしてほどなくラウルも姿を見せ、ジークに祝いの言葉を述べるとエリーナとルドルフの間に座った。エリーナがラウルに視線を向けると、彼はにこりといつもの柔らかな笑みを浮かべた。

(なんか、先生がみんなと一緒にいるって不思議)

 聞けばルドルフもラウルの授業を取っていたらしく、ここにいる全員がラウルの学生になる。

「殿下、昨日はお疲れになったでしょう」

 そうラウルがジークに気遣う言葉をかければ、ジークは紅茶をすすりながらうんざりした表情を浮かべた。

「俺の誕生日なのに、俺が一番疲れるってどういうことかって毎年思う」

 本音が駄々洩れのジークに、小さく笑いが起こった。王子という立場上しかたがないことだが、愚痴ぐらいは許されるだろう。そしてラウルは視線をエリーナに向ける。

「エリーナ様は、初めての生誕祭だったのでしょう? いかがでしたか?」

「すごい人でこっちも疲れたわ。それに陛下に初めてご挨拶をして、お言葉までいただいたのよ」

 そう先生に報告すれば、ラウルはわずかに眉を顰めてジークに視線を移した。

「俺が前に父上に話したことがあったから、興味を持ったらしい」

「……そうですか。それは滅多にない経験ですね」

 ラウルは教え子の成長を喜ぶように、穏やかに微笑んだ。なんだか褒められたようでうれしくなってきた。

「先生は最近お会いできていなかったけど、元気だったの? 研究が忙しいと聞いていたけど」

 ラウルと会うのは数か月ぶりだった。彼は筆まめなので一か月二度は手紙が来ていたが、同じ学園にいても研究の邪魔をしそうで気が引けて訪ねに行けなかったのだ。

「なかなかお会いする時間が取れず申し訳ありません。研究の目途がついて仕上げの作業に入っているんです」

「元気ならいいのよ。いつでも会えるから」

 いつもの調子でラウルと話していると、からかうような笑みを浮かべたベロニカが割って入って来た。

「あら、やっぱり仲がいいわね。ラウル先生はエリーナにとって特別なのかしら」

「ベロニカ様! からかわないでくださいよ!」

 ベロニカは右手を口元に当て、おほほとわざとらしく笑っている。
 そこにカップを置いたルドルフが口を挟んできた。

「そこは年数が違うということだ。こちらはこちらのやり方がある」

 そう眼鏡の奥の瞳を光らせて、ルドルフは逃がさないぞとエリーナの視界に捉える。エリーナはあははと曖昧に笑ってすっと視線を逸らした。今言葉を返せば、何倍にもなって返されそうだ。

「しかし、去年までは三人のお茶会だったが今年は賑やかでいいな」

 少し空気が引き締まったところを、ジークが呑気に打ち壊す。ジークもラウルとは張り合うつもりはないのだろう。

「そうね。普段も会っているから変わり映えもないし、つまらないものだったわ」

 基本がこの三人でそれぞれの兄弟が増えるぐらいだったのだ。

「それでも、毎年されていたんでしょう? 素敵じゃないですか」

 ベロニカ、ジーク、ルドルフは年が近いこともあって幼馴染だ。三人が揃えば昔馴染み特有の気安い空気が流れる。

「別にすぐに会えるんだから、わざわざ三人で会わなくてもいいのに」

 ツンっとジークの前では意地っ張りになるベロニカを見て、エリーナはうふふと生暖かい笑みを浮かべた。エリーナは南の王女の一件で、ベロニカの本音を知っている。そして最近、ツンで塗り固められたベロニカ語をデレに翻訳することができるようになったのである。

「ベロニカ様。ジーク殿下と二人で会いたいってことでしょう? 今回の誕生祭だって、プレゼントをどうするか一緒に考えてお店を回ったじゃないですか」

 そう晴れやかな顔で、善意八割先ほどの仕返し二割の翻訳を披露した。ついでにベロニカが選んだジークへのプレゼントは万年筆であり、政務が忙しくなるジークを想ってのものだ。

「ちょっとエリーナ! 何を言ってるの!」

「そうなのか、ベロニカ」

 顔を赤くしてエリーナに鋭い視線を向けるベロニカに、声を弾ませて嬉しそうなジーク。

「それに春休みが来たら、北の領地へ慰安を兼ねて旅行するって楽しみに」

「エリーナ!」

 パシンっといい音が鳴って、ベロニカに扇子で頭をはたかれた。さすがベロニカ、膝の上に扇子を隠し持っていたようだ。

「それ以上言ったら、今後ロマンス小説貸さないわよ」

「申し訳ありません!」

 ロマンス小説がかかれば、エリーナの身の切り替えも早い。これには全員がクスクスと笑い、場が和んだ。そして話題は多岐に渡り、楽しい時間を過ごしたのだった。


 その帰り際、エリーナはジークに呼び止められた。

「あら殿下、ベロニカ様といい感じのようで嬉しいですわ」

 そう茶化せばジークは苦笑いを浮かべ、離れたところでルドルフ、ラウルと談笑していたベロニカから鋭い視線が飛んできた気がした。

「おかげさまでな。だけど、お前のことを諦めたわけじゃないから」

 そう宣戦布告され、エリーナはえっ、と目を見開く。リズとジークルートは無くなっただろうと考えていたため、意表をつかれた。

「ベロニカとも仲がいいし、お前じゃないとだめなんだ」

 その言葉は、以前にも口にしていた。

「お、お断りしますわ」

 震えた声でそう返すが、ジークはただにこやかに笑っているだけだった。
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