悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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学園編 17歳

84 王子様から逃げましょう

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 西の国アスタリア王国の第二王子、シルヴィオが学術院に留学してきてからというもの、令嬢方の身だしなみには気合が入っており、あちらこちらで情報交換がされていた。シルヴィオは学術院で主に政治と歴史を学び、学園では芸術分野を専攻するらしい。彼の絵画の腕前は宮廷画家と遜色なく、多くの人々を感動させてきたそうだ。

 そんな彼は暇さえあれば外で絵を描いているようで、昼休みにお気に入りの庭園に足を踏み入れたエリーナは、太陽を受けて輝くオレンジの髪を見て血の気が引いたのだった。
 ベンチに腰掛け庭の風景を描いているシルヴィオは、それだけで絵になる。むしろ、その姿を絵に収めたほうが価値がありそうだ。エリーナは気づかれないうちに退散しようと、そっと体の向きを変えた。だがその背に甘美な声がかかる。

「おや、遠慮しなくてもいいよ。もしかしてここは、君のお気に入りだったかな? エリーナ嬢」

(いやぁぁぁ! バレてる上に、名前も憶えられてるわ!)

 恐ろしい王族の記憶力。これは逃げられないと、エリーナは覚悟を決めて振り返った。さらりと挨拶だけして戻ろうと決める。

「申し訳ありません、殿下のお邪魔になってはいけないと思いまして」

 距離を取ったまま、制服のスカートをつまんで挨拶をする。これ以上近づいたら悪役令嬢の魂が浄化されそうな気がした。

「ここはラルフレア王国なんだから、僕の身分は気にしなくていいよ」

 そう麗しい微笑を浮かべるシルヴィオはもはや美の結晶だ。
 エリーナはそれは無理ですと心の中で叫ぶが、表情はうふふと微笑を浮かべておく。早く会話を切り上げたいと思っていると、シルヴィオは画材を置いて立ち上がった。

(わぁ、美しい彫刻が動いているわ)

 早くも現実逃避が始まっていた。シルヴィオはエリーナの前に立つと、魅惑的な笑みを浮かべた。太陽の光を透かしたオレンジ色の髪は明るく光り、金の瞳はしっかりエリーナを捉えている。

「エリーナ嬢は美しいね。さぞキャンパスの中で映えるだろう。僕に君を描かせてくれないかい?」

 一瞬聞き流しそうになった。ちょっと話についていけない。エリーナは笑顔が引きつるの感じ、おほほとごまかす。

「そんな、わたくしよりも殿下自身をお描きになったほうが有意義ですわ」

「僕は、僕が描きたいと思うものを描くんだ。それに完璧な美を描いてもつまらないだろう」

 自分が完璧な美という自覚はあるんですねと、エリーナは心の中で呟いた。いかん、顔に出てしまいそうだ。

「今日はここで出会えた奇跡に感謝しておくだけにするよ。今度は君をキャンパスの中に閉じ込めてあげるから」

 手を差し伸べられ、雰囲気に飲まれて右手を乗せてしまう。金の瞳を怪しげに光らせたシルヴィオはエリーナの右手を取り、軽くかがんで手の甲に口づけを落とした。

「次に会えるのを楽しみにしているよ」

 爆弾級の行為と笑顔を投げ込まれ、エリーナは気づけば廊下を走っていた。心臓が高鳴っており、息が荒い。

(無理だわ! あのレベルのかっこよさは無理!)

 どうやって御前を辞したか覚えていない。粗相をしたのではと少し血の気が引くが、構うものかと開き直る。

(だめよ。次の茶会は絶対断るわ!)

 だがそうはいかないのがこの世界であり、授業が終わって屋敷に戻ったエリーナは、クリスにバレンティア公爵家の茶会に行くよと告げられたのだった。
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