88 / 194
学園編 17歳
84 王子様から逃げましょう
しおりを挟む
西の国アスタリア王国の第二王子、シルヴィオが学術院に留学してきてからというもの、令嬢方の身だしなみには気合が入っており、あちらこちらで情報交換がされていた。シルヴィオは学術院で主に政治と歴史を学び、学園では芸術分野を専攻するらしい。彼の絵画の腕前は宮廷画家と遜色なく、多くの人々を感動させてきたそうだ。
そんな彼は暇さえあれば外で絵を描いているようで、昼休みにお気に入りの庭園に足を踏み入れたエリーナは、太陽を受けて輝くオレンジの髪を見て血の気が引いたのだった。
ベンチに腰掛け庭の風景を描いているシルヴィオは、それだけで絵になる。むしろ、その姿を絵に収めたほうが価値がありそうだ。エリーナは気づかれないうちに退散しようと、そっと体の向きを変えた。だがその背に甘美な声がかかる。
「おや、遠慮しなくてもいいよ。もしかしてここは、君のお気に入りだったかな? エリーナ嬢」
(いやぁぁぁ! バレてる上に、名前も憶えられてるわ!)
恐ろしい王族の記憶力。これは逃げられないと、エリーナは覚悟を決めて振り返った。さらりと挨拶だけして戻ろうと決める。
「申し訳ありません、殿下のお邪魔になってはいけないと思いまして」
距離を取ったまま、制服のスカートをつまんで挨拶をする。これ以上近づいたら悪役令嬢の魂が浄化されそうな気がした。
「ここはラルフレア王国なんだから、僕の身分は気にしなくていいよ」
そう麗しい微笑を浮かべるシルヴィオはもはや美の結晶だ。
エリーナはそれは無理ですと心の中で叫ぶが、表情はうふふと微笑を浮かべておく。早く会話を切り上げたいと思っていると、シルヴィオは画材を置いて立ち上がった。
(わぁ、美しい彫刻が動いているわ)
早くも現実逃避が始まっていた。シルヴィオはエリーナの前に立つと、魅惑的な笑みを浮かべた。太陽の光を透かしたオレンジ色の髪は明るく光り、金の瞳はしっかりエリーナを捉えている。
「エリーナ嬢は美しいね。さぞキャンパスの中で映えるだろう。僕に君を描かせてくれないかい?」
一瞬聞き流しそうになった。ちょっと話についていけない。エリーナは笑顔が引きつるの感じ、おほほとごまかす。
「そんな、わたくしよりも殿下自身をお描きになったほうが有意義ですわ」
「僕は、僕が描きたいと思うものを描くんだ。それに完璧な美を描いてもつまらないだろう」
自分が完璧な美という自覚はあるんですねと、エリーナは心の中で呟いた。いかん、顔に出てしまいそうだ。
「今日はここで出会えた奇跡に感謝しておくだけにするよ。今度は君をキャンパスの中に閉じ込めてあげるから」
手を差し伸べられ、雰囲気に飲まれて右手を乗せてしまう。金の瞳を怪しげに光らせたシルヴィオはエリーナの右手を取り、軽くかがんで手の甲に口づけを落とした。
「次に会えるのを楽しみにしているよ」
爆弾級の行為と笑顔を投げ込まれ、エリーナは気づけば廊下を走っていた。心臓が高鳴っており、息が荒い。
(無理だわ! あのレベルのかっこよさは無理!)
どうやって御前を辞したか覚えていない。粗相をしたのではと少し血の気が引くが、構うものかと開き直る。
(だめよ。次の茶会は絶対断るわ!)
だがそうはいかないのがこの世界であり、授業が終わって屋敷に戻ったエリーナは、クリスにバレンティア公爵家の茶会に行くよと告げられたのだった。
そんな彼は暇さえあれば外で絵を描いているようで、昼休みにお気に入りの庭園に足を踏み入れたエリーナは、太陽を受けて輝くオレンジの髪を見て血の気が引いたのだった。
ベンチに腰掛け庭の風景を描いているシルヴィオは、それだけで絵になる。むしろ、その姿を絵に収めたほうが価値がありそうだ。エリーナは気づかれないうちに退散しようと、そっと体の向きを変えた。だがその背に甘美な声がかかる。
「おや、遠慮しなくてもいいよ。もしかしてここは、君のお気に入りだったかな? エリーナ嬢」
(いやぁぁぁ! バレてる上に、名前も憶えられてるわ!)
恐ろしい王族の記憶力。これは逃げられないと、エリーナは覚悟を決めて振り返った。さらりと挨拶だけして戻ろうと決める。
「申し訳ありません、殿下のお邪魔になってはいけないと思いまして」
距離を取ったまま、制服のスカートをつまんで挨拶をする。これ以上近づいたら悪役令嬢の魂が浄化されそうな気がした。
「ここはラルフレア王国なんだから、僕の身分は気にしなくていいよ」
そう麗しい微笑を浮かべるシルヴィオはもはや美の結晶だ。
エリーナはそれは無理ですと心の中で叫ぶが、表情はうふふと微笑を浮かべておく。早く会話を切り上げたいと思っていると、シルヴィオは画材を置いて立ち上がった。
(わぁ、美しい彫刻が動いているわ)
早くも現実逃避が始まっていた。シルヴィオはエリーナの前に立つと、魅惑的な笑みを浮かべた。太陽の光を透かしたオレンジ色の髪は明るく光り、金の瞳はしっかりエリーナを捉えている。
「エリーナ嬢は美しいね。さぞキャンパスの中で映えるだろう。僕に君を描かせてくれないかい?」
一瞬聞き流しそうになった。ちょっと話についていけない。エリーナは笑顔が引きつるの感じ、おほほとごまかす。
「そんな、わたくしよりも殿下自身をお描きになったほうが有意義ですわ」
「僕は、僕が描きたいと思うものを描くんだ。それに完璧な美を描いてもつまらないだろう」
自分が完璧な美という自覚はあるんですねと、エリーナは心の中で呟いた。いかん、顔に出てしまいそうだ。
「今日はここで出会えた奇跡に感謝しておくだけにするよ。今度は君をキャンパスの中に閉じ込めてあげるから」
手を差し伸べられ、雰囲気に飲まれて右手を乗せてしまう。金の瞳を怪しげに光らせたシルヴィオはエリーナの右手を取り、軽くかがんで手の甲に口づけを落とした。
「次に会えるのを楽しみにしているよ」
爆弾級の行為と笑顔を投げ込まれ、エリーナは気づけば廊下を走っていた。心臓が高鳴っており、息が荒い。
(無理だわ! あのレベルのかっこよさは無理!)
どうやって御前を辞したか覚えていない。粗相をしたのではと少し血の気が引くが、構うものかと開き直る。
(だめよ。次の茶会は絶対断るわ!)
だがそうはいかないのがこの世界であり、授業が終わって屋敷に戻ったエリーナは、クリスにバレンティア公爵家の茶会に行くよと告げられたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
悪役令嬢が睨んでくるので、理由を聞いてみた
ちくわ食べます
恋愛
転生したのは馴染みのない乙女ゲームの世界だった。
シナリオは分からず、登場人物もうろ覚え、タイトルなんて覚えてすらいない。
そんな世界でモブ男『トリスタン』として暮らす主人公。
恋愛至上主義な学園で大人しく、モブらしく、学園生活を送っていたはずなのに、なぜか悪役令嬢から睨まれていて。
気になったトリスタンは、悪役令嬢のセリスに理由を聞いてみることにした。
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
As-me.com
恋愛
完結しました。
自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。
そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。
ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。
そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。
周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。
※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。
こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。
ゆっくり亀更新です。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる