悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

文字の大きさ
98 / 194
学園編 18歳

92 王宮へ赴きましょう

しおりを挟む
 庭先の花が咲き乱れ、穏やかな風に甘い匂いが運ばれる。学園が始まる前の休日。エリーナとクリスは王宮に会食に呼ばれていた。

 遡ること一か月前。春休みが少し過ぎた頃に難しい顔をしたクリスが、手紙を持ってエリーナの自室に入って来た。そして重い口調で「王宮から会食に招かれた」と手紙の内容を伝えてきたのだ。王宮の会食。つまり陛下との食事会だ。エリーナもポカンと口を開けてクリスを見つめ返す。どうしてそうなったのかがわからない。
 断ることもできなくはないが、光栄な機会だ。ジークからの手紙も同封されており、一緒に食事をしたいだけだから気軽に来てほしいと書かれていた。国の最高権力者との食事に気軽に行ける貴族はいない。

「お断りは……できないわよね」

「行くしかないね」

 クリスは仕方がないと会食に向けた準備を始め、とうとう当日を迎えたのだった。



 エリーナは馬車に揺られながら、本日何度目かのため息をついた。新調したドレスは春先に咲く花を意識した淡い薄紫のものだ。腰の後ろにリボンがついており、控えめなフリルがつつましい印象を与える。
 どう見ても乗り気ではないエリーナを見て、向かいに座るクリスは困ったように眉尻を下げた。

「エリーは演技派だから問題ないけど、そんな顔王宮に着いたら見せないでね」

 今日はクリスもしっかりと正装をしており、パリッとしたスーツの胸元にはエリーナがあげたブローチが光っている。

「もちろんよ。完璧に演じきってみせるわ」

 悪役令嬢人生が豊富で長年貴族として生きているエリーナでさえ、王との会食は気が重い。マナー、話題、気遣いと普段の食事の何倍も疲れるのだ。ため息もつきたくなる。

「頼りにしているよ」

 そう言うとクリスはポケットから懐中時計を取り出して開き、時間を確認した。

「時間はまだあるから、ゆっくり気持ちを落ち着けたらいいよ」

「あら、クリスってそんなもの持ってたのね」

 初めてみる懐中時計を、エリーナは珍しそうに身を乗り出して見た。誰かの贈り物というには少し古びた懐中時計だ。使い込まれており細かい傷や見て取れる。

「これは、ローゼンディアナ家の当主の証だよ。ディバルト様から託されたんだ」

 クリスから手渡された懐中時計をエリーナはまじまじと見る。

「本当ね。家紋があるわ」

 祖父がこれを持っていた記憶はないが、当主としての身分を示すときに使われるのだろう。

「僕は代行という立場だから普段は身に着けていなかったのだけど、今日は陛下との会食だから念のためね」

 エリーナはふ~んと返事をして、懐中時計をクリスに返した。そしてそんな話をしているうちに、馬車は王宮へと到着したのだった。



 さすが王宮とあって、食事を摂るための長机は屋敷のものよりずっと長い。三十人ぐらいが余裕で座れそうだ。その両端に、というわけにもいかないので席は中央に四席設けられている。エリーナは従者によって引かれた椅子に腰かけ、キラキラと光るカトラリーに視線を落とす。食器や花瓶一つをとってもそうだが、部屋全体が煌びやかで気が引けてくる。

(気合を入れるわよ! 今までにも何度か王族と食事をしたことくらいあるでしょ!)

 気後れしている自分に活を入れ、隣に座るクリスの表情をチラリと伺った。彼はいつもと変わらず、落ち着いた表情をしている。不安そうな表情を向けるエリーナに気づき、顔を横に向けてにこりと微笑んだ。

「大丈夫だよ。僕が傍にいるから」

「ありがとう……わたくしは極力置物になるわね」

 いくら今まで悪役令嬢を演じていてもそれはオートモード。今のエリーナに王族に立ち向かう度胸はない。

(あ……別に立ち向かう必要はないわよね)

 つい断罪シーンが頭によぎってしまい、エリーナは水を飲んで頭を冷やした。
 そうしていると、侍女がドアの前に立ち陛下たちの入来を告げ、ドアを開く。二人は立ち上がり挨拶をしようとするが、王は手を軽く挙げてそれを制した。

「そのままでいい。今日は気兼ねのない会食だからな」

 王の後ろにはジークもおり、顔が少し強張っている。緊張でもしているのだろうか。
 そして王とジークが向かいに座り、緊張に満ちた会食が始まった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

悪役令嬢が睨んでくるので、理由を聞いてみた

ちくわ食べます
恋愛
転生したのは馴染みのない乙女ゲームの世界だった。  シナリオは分からず、登場人物もうろ覚え、タイトルなんて覚えてすらいない。 そんな世界でモブ男『トリスタン』として暮らす主人公。 恋愛至上主義な学園で大人しく、モブらしく、学園生活を送っていたはずなのに、なぜか悪役令嬢から睨まれていて。 気になったトリスタンは、悪役令嬢のセリスに理由を聞いてみることにした。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない

As-me.com
恋愛
完結しました。 自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。 そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。 ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。 そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。 周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。 ※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。 こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。 ゆっくり亀更新です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...