3 / 85
第一章 太陽の王子様と氷の王子様
2.話がおかしな方向に
しおりを挟む
大きなエレベーターで指定の五十三階に向かう。
働くみんなは次々と途中の階で降りて行くし、私の階まで行く人は誰もいなくなった。
「ちょっと待って……」
心臓がドキドキしてきた。
誰もいなくなってしまうくらいの階層って一体どういうこと?
ここは何がある階層なのかも分からないし……。
エレベーターの扉がスッと開いた。
緊張しながら足を踏み出す。
そこは清潔で真っ白な空間。
とても綺麗だけど人気もない静かな通路を進む。
「部屋は何処なの? 奥?」
静かに歩いて行くと、綺麗なプレートが掲げられた扉の前に辿り着く。
「えっと……プレ……プレジデント?」
プレジデントルーム?
そ、それって……
「社長室って……最初に面接でもするの? 急遽配置換えのことをわざわざ社長が?」
よく分からないけれど、とにかく行くしかないよね。
慎重にノックをして扉を開く。
「失礼します」
部屋に入ると、少し広い空間で私が想像していた社長室と違っていた。
いくつかの机が並んでいて少しおしゃれな感じ。
そこには女性が座っていて、私が入って来たのに気づくと立ち上がる。
立ち上がった彼女はゆったりとした紺のワンピースを着ていた。
(あ、赤ちゃんいるんだ……)
柔和な笑みを私に向けてくれた。
何だか可愛らしい雰囲気の人だ。
「新入社員の小鳥さんですね? 私は秘書の岬です。どうぞこちらへ」
「はい」
ニッコリと笑いかけてくれると、緊張していた身体から少し力が抜ける。
岬さんの後に続いて室内を進んでいく。
ガラス張りなのに中が見えない部屋が左に見えているけれど、何だか広そう。その部屋を左手に見ながら奥へと進んでいくとまた扉が見えてきた。
岬さんがノックをすると、中からどうぞという声が聞こえてきた。
一緒に中へと足を踏み入れる。
「やあ、待っていたよ。どうぞ」
「それが社員に対する口調か? それでよく社長が務まるものだ」
室内にいたのは社長と呼ばれたふわっとした茶色の髪の綺麗な顔をしたイケメンと、冷たい雰囲気の黒髪のキチッとした佇まいの男性。
私を見ている視線がとても痛い。
そんなに変な格好はしていないはずなのに、なんだろう?
「社長、そんなに見つめたら駄目ですよ。小鳥さんが困ってます。これから社長のお世話をするのは彼女なのに」
「まぁまぁ。見た通りの地味っ子でいいね。これなら安心だ」
何だか失礼なことを言われている気はするけど。
会社で派手な格好をする方がおかしいと思う。
「本当に彼女でいいのか?」
「あぁ。彼女で決まりだ。俺の目に狂いはない。小鳥さん、だよね。ようこそ、橘コーポレーションへ。社長の橘 海音です。よろしく」
「私は副社長の氷室 秦弥だ。君には社長秘書をお願いしたい」
今、とんでもないことを言われた気がする。
その事実を飲み込むまでに固まってしまって声が出なかった。
働くみんなは次々と途中の階で降りて行くし、私の階まで行く人は誰もいなくなった。
「ちょっと待って……」
心臓がドキドキしてきた。
誰もいなくなってしまうくらいの階層って一体どういうこと?
ここは何がある階層なのかも分からないし……。
エレベーターの扉がスッと開いた。
緊張しながら足を踏み出す。
そこは清潔で真っ白な空間。
とても綺麗だけど人気もない静かな通路を進む。
「部屋は何処なの? 奥?」
静かに歩いて行くと、綺麗なプレートが掲げられた扉の前に辿り着く。
「えっと……プレ……プレジデント?」
プレジデントルーム?
そ、それって……
「社長室って……最初に面接でもするの? 急遽配置換えのことをわざわざ社長が?」
よく分からないけれど、とにかく行くしかないよね。
慎重にノックをして扉を開く。
「失礼します」
部屋に入ると、少し広い空間で私が想像していた社長室と違っていた。
いくつかの机が並んでいて少しおしゃれな感じ。
そこには女性が座っていて、私が入って来たのに気づくと立ち上がる。
立ち上がった彼女はゆったりとした紺のワンピースを着ていた。
(あ、赤ちゃんいるんだ……)
柔和な笑みを私に向けてくれた。
何だか可愛らしい雰囲気の人だ。
「新入社員の小鳥さんですね? 私は秘書の岬です。どうぞこちらへ」
「はい」
ニッコリと笑いかけてくれると、緊張していた身体から少し力が抜ける。
岬さんの後に続いて室内を進んでいく。
ガラス張りなのに中が見えない部屋が左に見えているけれど、何だか広そう。その部屋を左手に見ながら奥へと進んでいくとまた扉が見えてきた。
岬さんがノックをすると、中からどうぞという声が聞こえてきた。
一緒に中へと足を踏み入れる。
「やあ、待っていたよ。どうぞ」
「それが社員に対する口調か? それでよく社長が務まるものだ」
室内にいたのは社長と呼ばれたふわっとした茶色の髪の綺麗な顔をしたイケメンと、冷たい雰囲気の黒髪のキチッとした佇まいの男性。
私を見ている視線がとても痛い。
そんなに変な格好はしていないはずなのに、なんだろう?
「社長、そんなに見つめたら駄目ですよ。小鳥さんが困ってます。これから社長のお世話をするのは彼女なのに」
「まぁまぁ。見た通りの地味っ子でいいね。これなら安心だ」
何だか失礼なことを言われている気はするけど。
会社で派手な格好をする方がおかしいと思う。
「本当に彼女でいいのか?」
「あぁ。彼女で決まりだ。俺の目に狂いはない。小鳥さん、だよね。ようこそ、橘コーポレーションへ。社長の橘 海音です。よろしく」
「私は副社長の氷室 秦弥だ。君には社長秘書をお願いしたい」
今、とんでもないことを言われた気がする。
その事実を飲み込むまでに固まってしまって声が出なかった。
39
あなたにおすすめの小説
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました
藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。
そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。
ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。
その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。
仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。
会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。
これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。
祖父の遺言で崖っぷちの私。クールな年下後輩と契約結婚したら、実は彼の方が私にぞっこんでした。
久遠翠
恋愛
広告代理店で働く仕事一筋のアラサー女子・葉月美桜。彼女の前に突きつけられたのは「三十歳までに結婚しなければ、実家の老舗和菓子屋は人手に渡る」という祖父の遺言だった。崖っぷちの美桜に手を差し伸べたのは、社内で『氷の王子』と噂されるクールな年下後輩・一条蓮。「僕と契約結婚しませんか?」――利害一致で始まった、期限付きの偽りの夫婦生活。しかし、同居するうちに見えてきた彼の意外な素顔に、美桜の心は揺れ動く。料理上手で、猫が好きで、夜中に一人でピアノを弾く彼。契約違反だと分かっているのに、この温かい日だまりのような時間に、いつしか本気で惹かれていた。これは、氷のように冷たい契約から始まる、不器用で甘い、とろけるような恋の物語。
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される
アルケミスト
恋愛
崔国の皇太子・龍仁に仕える女官の朱音は、人間と花仙との間に生まれた娘。
花仙が持つ〈伴侶の玉〉を龍仁に奪われたせいで彼の命令に逆らえなくなってしまった。
日々、龍仁のいじわるに耐えていた朱音は、龍仁が皇帝位を継いだ際に、妃候補の情報を探るために後宮に乗り込んだ。
だが、後宮に渦巻く、陰の気を感知した朱音は、龍仁と共に後宮の女性達をめぐる陰謀に巻き込まれて……
ヒロインになれませんが。
橘しづき
恋愛
安西朱里、二十七歳。
顔もスタイルもいいのに、なぜか本命には選ばれず変な男ばかり寄ってきてしまう。初対面の女性には嫌われることも多く、いつも気がつけば当て馬女役。損な役回りだと友人からも言われる始末。 そんな朱里は、異動で営業部に所属することに。そこで、タイプの違うイケメン二人を発見。さらには、真面目で控えめ、そして可愛らしいヒロイン像にぴったりの女の子も。
イケメンのうち一人の片思いを察した朱里は、その二人の恋を応援しようと必死に走り回るが……。
全然上手くいかなくて、何かがおかしい??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる