地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

楓乃めーぷる

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第二章 社長のための期間限定パートナー

31.優しい雰囲気

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「私だって落ち込んだり、悲しくなったりしますよ? 施設の園長先生は、いつも私が落ち込むと頭を撫でてくれたんです。だから園長先生のことが大好きで子供の頃は甘えてました」

 夜の冷たい風が二人の間を吹き抜ける。
 私の髪が風にさらわれると、氷室さんが手を伸ばして私の頭へポンと乗せた。

 今の話を聞いたから、励ましてくれているのかな?
 もしかして撫でようとしてくれてる……?

 私が落ち込んでいるかもって思ったのかな。
 ぎこちない手の動きだけど、その気持ちは嬉しい。

「氷室さん……ありがとうございます」

 私が笑いかけると、氷室さんは困ったような照れたような微妙な表情で私を見る。
 
「勝手に触れてしまってすまない。だが、話を聞いていたら君に手を伸ばしていた。加減がイマイチ分からないのだが……」

 やんわりと力を入れずに、頭上を何度か往復させてからゆっくりと手が離れていった。

「もしかしてなでなでしたことないんですか?」
「自分がされたという記憶がないから余計にな。ふざけた社長……海音にされた気がするが」
「ご両親や恋人にもされた記憶がないなんて、どういう人生を送ったらそうなるのか私には分かりませんけど……」
「お付き合いした女性はいないし、少し特殊な家庭だ。私にとってはそれが普通だったが、大多数がそうではないと理解しているつもりだ」

 会社で密かに人気があるし、あの社長と仲が良いのに恋愛関係は慣れてないってこと?
 氷室さんの弱点がまさか恋愛だとは思わなかった。

「そこまで恋愛にご縁がない人生だとは思いませんでしたけど……それなのに私に優しくしてくれたんですね」
「優しいか? 君には厳しいことばかり言っている気がするが」

 自分で認めるから、思わずクスリと笑ってしまう。
 
「口調はキツイですけど、それだけじゃないなって。でも、言われた方は言い返したくなっちゃうんですけど」
「そうか。君も普通の女性と違う感じがする。しかし、悪くはない。私が厳しく言うと大体音を上げて離れていくからな」
 
 あだ名は氷なんだけど、氷というかただ単に不器用な人なのかもしれない。
 色々考えてはいるんだけど、社長と違って行動や表情に示さないから、伝わらない。
 誤解されやすいタイプ。

「私も上司に歯向かうような態度ばかりとってはいけないのですが、氷室さんとやり合うのが習慣みたいになってしまっているのかも」
「それはそれでどうかと思うが、君と会話するのは悪くないな」

 フ、と笑った顔は嫌味がなくて、氷っぽさがない。
 普段とのギャップで逆にドキっとする。
 この前も少し笑っていたけど、氷室さんが笑うのはなんだか特別感がある。

 もっと笑ってくれればいいのにと思う私も、雰囲気に流されているかも。
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