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第三章 自分のこと、これからのこと
32.久しぶりの私の家
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氷室さんに送っていってもらった次の日、早速休暇を取って生まれ育った施設へと足を伸ばす。
今住んでいるところから電車で二時間ほど行ったところにあるこじんまりとした施設だ。
最寄り駅から少し距離があるからタクシーを使う。
「相変わらず……この施設の名前って子どもには絶対言えないと思うんだけど……」
久しぶりにやってきた施設ヴィヴァーチェ。
元音楽家だったという園長先生のご主人が建てた施設で、園長先生も実は元ヴァイオリニスト。
そのせいか施設にはクラシックが良く流れていて、私もそれを聞きながら育ったっけ。
「昨日連絡したのに、待ってるわって言ってくれる園長先生……やっぱり優しい」
お昼ごろにつくように調整したので、今ちょうど一時。
懐かしい白塗りの建物を眺めながら、中に入る。
施設の子たちと途中すれ違いながら通路を進んでいき、一番奥の園長先生のいるお部屋の前で扉をノックする。
中から、はい、という返事があったので、そっと扉を開けた。
「久しぶりね、風音ちゃん。元気だった?」
「園長先生こそ、お元気そうで何よりです。突然連絡してすみません。どうしてもお聞きしたいことがあったもので」
園長先生はもう七十代のはずだけど、今も現役で優しいお顔の先生。
ふわふわっとした白髪のショートで、いつも触らせてもらっていた記憶がある。
笑顔でソファーを勧めてくれたので、私も向かいに腰掛ける。
先生はお茶を入れてくれて、テーブルに置く。
自分の出生のことを知るためにここまでやってきたから。
久しぶりの再会を楽しむばかりじゃいられない。
「私は今まで気にしてなかったのですけど、今になって自分のことを知らなければいけなくて。園長先生は私を預けたという母のことをご存知なんですよね?」
「……ええ。私が貴方のお母様とお話をしましたから。お母様はとても綺麗で、優しそうな方でしたよ」
「あの……母はなぜ、私をこの施設に預けたのでしょうか……」
そこまで一息に言うと、園長先生は悲しそうに笑う。
今も生きているのかどうかも、私は施設を出る時に聞かなかったから何も知らない。
普通は会ってみたいと思うのが普通なのかもしれない。
だけど母より園長先生のことが好きだったし、自分を預けるということは自分を育てたくなかった、もしくは何か事情があるのかなって。
調べたところで母は会ってくれないかなと今まで考えようともしなかった。
アルバイトで自立できるようになってからはここから出てしまったし、必死に働いていたから考えることもなかった。
「その時聞いた話だと、貴方のお母さんは元々身体が丈夫ではなかったそうよ。貴方のお父さんとも結ばれなかったと言っていたわ。元々の持病が悪化してしまって、病院から出られなくなるからって」
「そうですか……母にも家族がいなかったのかな? 頼る人もいなかったから、ここに?」
「そうね……やっぱり特殊な事情をお持ちの方を支援するための場所だから。育てたくてもどうしても育てることができないという人もたくさんいるわ」
話をゆっくりと聞きながら、なんだか不思議な気持ちになってくる。
母に会いたいという気持ちと、このまま聞かない方が今まで通りでいいんじゃないかという気持ちがせめぎ合って複雑な気持ちだ。
今住んでいるところから電車で二時間ほど行ったところにあるこじんまりとした施設だ。
最寄り駅から少し距離があるからタクシーを使う。
「相変わらず……この施設の名前って子どもには絶対言えないと思うんだけど……」
久しぶりにやってきた施設ヴィヴァーチェ。
元音楽家だったという園長先生のご主人が建てた施設で、園長先生も実は元ヴァイオリニスト。
そのせいか施設にはクラシックが良く流れていて、私もそれを聞きながら育ったっけ。
「昨日連絡したのに、待ってるわって言ってくれる園長先生……やっぱり優しい」
お昼ごろにつくように調整したので、今ちょうど一時。
懐かしい白塗りの建物を眺めながら、中に入る。
施設の子たちと途中すれ違いながら通路を進んでいき、一番奥の園長先生のいるお部屋の前で扉をノックする。
中から、はい、という返事があったので、そっと扉を開けた。
「久しぶりね、風音ちゃん。元気だった?」
「園長先生こそ、お元気そうで何よりです。突然連絡してすみません。どうしてもお聞きしたいことがあったもので」
園長先生はもう七十代のはずだけど、今も現役で優しいお顔の先生。
ふわふわっとした白髪のショートで、いつも触らせてもらっていた記憶がある。
笑顔でソファーを勧めてくれたので、私も向かいに腰掛ける。
先生はお茶を入れてくれて、テーブルに置く。
自分の出生のことを知るためにここまでやってきたから。
久しぶりの再会を楽しむばかりじゃいられない。
「私は今まで気にしてなかったのですけど、今になって自分のことを知らなければいけなくて。園長先生は私を預けたという母のことをご存知なんですよね?」
「……ええ。私が貴方のお母様とお話をしましたから。お母様はとても綺麗で、優しそうな方でしたよ」
「あの……母はなぜ、私をこの施設に預けたのでしょうか……」
そこまで一息に言うと、園長先生は悲しそうに笑う。
今も生きているのかどうかも、私は施設を出る時に聞かなかったから何も知らない。
普通は会ってみたいと思うのが普通なのかもしれない。
だけど母より園長先生のことが好きだったし、自分を預けるということは自分を育てたくなかった、もしくは何か事情があるのかなって。
調べたところで母は会ってくれないかなと今まで考えようともしなかった。
アルバイトで自立できるようになってからはここから出てしまったし、必死に働いていたから考えることもなかった。
「その時聞いた話だと、貴方のお母さんは元々身体が丈夫ではなかったそうよ。貴方のお父さんとも結ばれなかったと言っていたわ。元々の持病が悪化してしまって、病院から出られなくなるからって」
「そうですか……母にも家族がいなかったのかな? 頼る人もいなかったから、ここに?」
「そうね……やっぱり特殊な事情をお持ちの方を支援するための場所だから。育てたくてもどうしても育てることができないという人もたくさんいるわ」
話をゆっくりと聞きながら、なんだか不思議な気持ちになってくる。
母に会いたいという気持ちと、このまま聞かない方が今まで通りでいいんじゃないかという気持ちがせめぎ合って複雑な気持ちだ。
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