地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

楓乃めーぷる

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第三章 自分のこと、これからのこと

56.助手席での距離感

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 駐車場まで普通な顔をして到着できて、ホッとする。
 間違っても、これから二人でドライブに行きます! だなんて思われる訳にはいかないから良かった。
 内心は嬉しい気持ちもあるから、顔に出てしまいそうだったし。

「スポーツカーみたいな車が出てくるのかと思いました」
「いや、維持するのが大変だし税金も高い」
「それは、物凄く現実的で氷室さんらしいですね」

 氷室さんの車は黒のEV車で、セダンタイプだった。
 この会社はEV車の充電設備がある、珍しい会社みたい。
 
 助手席にお邪魔すると、普段とは違う距離感に少し緊張する。
 氷室さんは慣れた手付きで車を発進させた。
 EV車は音が静かだから、不思議な感じがする。

 運転している姿ってカッコいいとは良く聞くけど、確かに納得してしまう。
 なんだろう、仕草がそう見えるのかな?
 それとも、表情?

 気になって、何だか観察してしまう。

「そんなに観察されると、逆に緊張するのだが。普通に運転しているだけなのに、何か君の興味を引くようなものがあるだろうか?」
「運転の邪魔になっちゃいますよね、すみません」

 慌てて顔を正面に戻すと、隣からクスと笑う声が聞こえてきた。

「そんなことはない。物珍しいのなら見ていてもらっても構わないが、私は小鳥さんの顔がじっくりと見られないのは残念だな」
「それは危ないので、運転に集中してください!」

 急にそんなことを言われても困ってしまう。
 私には冗談交じりに色々と話してくれるのは、新鮮だし嬉しい。

 社長にはあんなに注意して辛辣なのに。
 私には心を許してくれているって感じがする。

「どこか行きたいところはあるか?」
「すぐに思いついたりはしませんけど……でも、車に載せてもらったのなら、景色の良いところに連れていってもらうとか、サービスエリアに行くとか?」

 ドライブに連れて行ってもらうだなんて、私も初めてだからどこへ行くのが王道とか、良く分からない。

「そうだな、私も女性と行くのは初めてだ。アイツの知恵を借りるのも癪だが、景色が綺麗だと言っていたところに行ってみようか」
「アイツって……もしかして社長ですか? 確かに社長なら景色の綺麗な場所を知っていそうですね」

 社長はデート慣れしてそうなイメージがあるから、知識を借りるという意味ではピッタリかも。
 笑いながら納得しちゃう。

「社長がオススメするなら、間違いなさそうですし。良い意味で社長を利用すると思えばいいんじゃないですか?」
「成る程。そう考えれば腹も立たないな。小鳥さんはアイツの使い方が良く分かっている」

 二人で社長のことを弄っているから、今頃くしゃみでもしてたりして。
 本人の前で言ったとしても、きっと許してくれると思うし。
 今は言いたい放題言わせてもらおう。
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