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第四章 私たちが歩む道
65.気持ちは大食い選手
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途中でスパムを食べながら、ゆっくりとパンケーキを食べ進めていたんだけど……急にお腹いっぱいになってくる。
おいしいんだけど、やっぱり甘さが後々きいてきてキツイ気がしてきた。
「たぶんゆっくり食べればいけるはずなんですけど……」
「無理をするなと言ったのは君だからな。私もこの味じゃなかったら食べきることは不可能だった」
キツそうにしていたのに、秦弥さんはもう食べ終わって私を心配そうに見ている。
持ち前の胃袋が強靭なのか単純に生地の違いなのかもしれないけど、全部食べられると思ってなかった。
「すごいですね、食べきっちゃうなんて。さすが男の人って感じです」
「私も普通のパンケーキを食べきる自信は全くない。抹茶味のおかげだろうな」
苦笑しながら、そっとスパムをつまんでいるから口の中はそれなりに甘いんだろうな。
私もなんとか食べきろうと、必死にナイフとフォークを動かしていく。
「おいしく食べられてますから! まだ大丈夫ですよー」
余裕さをアピールしてみたけど、たぶんあとほんの少ししか食べられない気がする。
スパムのしょっぱさに、こんなに助けられるだなんて思ってなかった。
「口直しって大事なんですね。おいしいんです。おいしいんだけど、手が動かなくなってくる……」
「それは食べることを体が拒否しているのでは? 無理せずに美味しいと思える範囲で食べて、あとは残しても仕方ないことだ」
仕方ないんだろうけど、なんか食べきりたい気持ちが強くって困る。
水でパンケーキを流し込んでいると、大食い選手になった気分。
「なんか、フードファイトって感じがしてきました」
「パンケーキとは本来楽しんで食べるものだと思うのだが。立場が逆転してきているのは気のせいだろうか」
さっきまでは秦弥さんがスポーツ感覚だったのに、今は私が何かと戦っている気分だから気のせいじゃない。
「待って、胃に落とせばいけますから!」
「最早、大食い選手権と相違ないな」
私は胃に落とし込むように、座ったまま体を少し浮かせて上下に動く。
揺すって食べているのを見たことあるし、ラストスパートはこれであってるはず。
「いつから大食い選手権になったのかは分からないが、ギブアップしても誰も咎めないのだから。本当に無理せずにな」
「分かってます。これでも無理はしてないですよ。ギリギリですけど、気持ち悪い訳じゃないんです。たぶん甘さに負けてる……」
ケーキの食べ放題に行っても、思ったよりケーキが食べられないのと似ている状況なのかな。
気持ちは食べたいのに、喉を通らない感覚。
本当に何に挑んでいるのかよく分からないけど、でもちょっと楽しくなってきた。
おいしいんだけど、やっぱり甘さが後々きいてきてキツイ気がしてきた。
「たぶんゆっくり食べればいけるはずなんですけど……」
「無理をするなと言ったのは君だからな。私もこの味じゃなかったら食べきることは不可能だった」
キツそうにしていたのに、秦弥さんはもう食べ終わって私を心配そうに見ている。
持ち前の胃袋が強靭なのか単純に生地の違いなのかもしれないけど、全部食べられると思ってなかった。
「すごいですね、食べきっちゃうなんて。さすが男の人って感じです」
「私も普通のパンケーキを食べきる自信は全くない。抹茶味のおかげだろうな」
苦笑しながら、そっとスパムをつまんでいるから口の中はそれなりに甘いんだろうな。
私もなんとか食べきろうと、必死にナイフとフォークを動かしていく。
「おいしく食べられてますから! まだ大丈夫ですよー」
余裕さをアピールしてみたけど、たぶんあとほんの少ししか食べられない気がする。
スパムのしょっぱさに、こんなに助けられるだなんて思ってなかった。
「口直しって大事なんですね。おいしいんです。おいしいんだけど、手が動かなくなってくる……」
「それは食べることを体が拒否しているのでは? 無理せずに美味しいと思える範囲で食べて、あとは残しても仕方ないことだ」
仕方ないんだろうけど、なんか食べきりたい気持ちが強くって困る。
水でパンケーキを流し込んでいると、大食い選手になった気分。
「なんか、フードファイトって感じがしてきました」
「パンケーキとは本来楽しんで食べるものだと思うのだが。立場が逆転してきているのは気のせいだろうか」
さっきまでは秦弥さんがスポーツ感覚だったのに、今は私が何かと戦っている気分だから気のせいじゃない。
「待って、胃に落とせばいけますから!」
「最早、大食い選手権と相違ないな」
私は胃に落とし込むように、座ったまま体を少し浮かせて上下に動く。
揺すって食べているのを見たことあるし、ラストスパートはこれであってるはず。
「いつから大食い選手権になったのかは分からないが、ギブアップしても誰も咎めないのだから。本当に無理せずにな」
「分かってます。これでも無理はしてないですよ。ギリギリですけど、気持ち悪い訳じゃないんです。たぶん甘さに負けてる……」
ケーキの食べ放題に行っても、思ったよりケーキが食べられないのと似ている状況なのかな。
気持ちは食べたいのに、喉を通らない感覚。
本当に何に挑んでいるのかよく分からないけど、でもちょっと楽しくなってきた。
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