地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

楓乃めーぷる

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第四章 私たちが歩む道

74.セオリー通りの展開に

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 今日もあっという間に時間が過ぎていく。
 目まぐるしくて忙しいけど、やりがいもあるし。
 最近は秘書業務と雑用業務もしていて私は何をしているのか分からなくなっているけど、それはそれで楽しい。

 コピー用紙がなくなってしまったから、備品を詰め込んである小部屋へ取りに来たんだけど、私の姿を見かけた秦弥さんが荷物を持つと言ってわざわざついてきてくれた。

「仕事中も海音と共に過ごす時間が長すぎないか? 私は仕事柄仕方ないが、君がそこまでマネージメントする必要はないだろう」

 私は社長の秘書兼マネージャーになっているから、秦弥さんが最近不満を訴えている。
 でも今は人材も不足しているし、効率も考えたら私が兼任するのは適任だって分かっているはずなんだけどな。

「またそんなことを言って。これはお仕事ですよ? それに社長のマネージャーが見つかるまでの辛抱じゃないですか」
「しかし、アイツはやたらとにやにやしているし。本当に探す気があるのかもう一度問いただして――」

 秦弥さんとマネージャー問題のやり取りをするのも何度目か分からないけど、ヤキモチを妬いてるってことだよね。
 嬉しい反面、仕事中に毎回じゃお互いにいつか疲れちゃう。
 一歩踏み出した秦弥さんの腕を、両手で掴んで無理やりに足を止めさせる。

「もう! 何回言わせるんですか! 社長は弟なんですよ? 前から言っているでしょう、恋愛対象として見たことないって。ヤキモチは嬉しいですけど、何回も同じやり取りをしていると真面目を通り越して厄介です!」

 私が少し声を張り上げて訴えると、秦弥さんは真下の私を見て気まずそうに両眉を下げた。
 さすがにまずいと思ってくれたみたい。
 
「すまない。だが、一言だけ言わせて欲しい。風音、もっと危機感を持ってくれないか?」

 秦弥さんが身体を屈めて小声で呟く。
 まだ仕事中だというのに、私の名前を呼ぶだなんて……それこそズルイ。
 真剣な声色に怒れなくなっちゃう。

「危機感って……まだ仕事中なのに急に何ですか?」
「だから、海音にもそういう顔を見せるなと言っている」
「わ、分かってますから! もう、近い……っ!」

 壁際に追い込まれてるんですけど!
 別に壁ドンとか、望んでないから離れて欲しいのに真剣に見つめられるから動けなくなる。
 思いっきり突き飛ばせばいいのに、腕が動かない。

「今は周りに誰もいないから。それにさっきドアの鍵は閉めておいた」
「は……? 仕事中に余計なことするのはありえないとか言ってた人が何をしようと?」

 フッと楽しそうに笑う顔が間近に迫ってきた。
 さっきと立場が逆転して、今度は私が何故か追い詰められている。

「さて、何をしようか」
「待って、そんな悪い顔して。そういうキャラじゃないのに、無理しなくても……」

 秦弥さんは楽しそうに左手を壁について、完全に壁ドンを楽しんでるし。
 私が逆側に一歩踏み出すと、右手が私の頬に添えられた。
 
 切れ長の黒い瞳がスッと細められて、私を逃さないと射抜いてくる。
 心なしか眼鏡の銀縁すら光った気がした。

 私は相変わらず動けないし、心臓のドキドキが秦弥さんにも聞こえてしまいそう。
 高鳴る気持ちを誤魔化そうと、必死な顔で見上げることくらいしかできない。

「こういうシチュエーションというものが、盛り上がると聞いたことがあるのだが。間違っているだろうか」
「教えたの社長ですか? 後で絶対に文句言おう……」

 秦弥さんは私の呟きに反応して苦笑する。
 最後にもう一度笑ってから、ゆっくりと身体を離してくれた。
 頬に触れていた手が離れていくのが、少し名残惜しくて。
 視線で追ってしまう。
 
「全く、この状況でもアイツの名前を出すところが風音らしい」
「だって、秦弥さんに悪影響じゃないですか。あのチャラ男」

 ため息と一緒に社長の文句を吐き出して、緊張感から解放されたと思ったのに――
 油断して身体の力を抜いた途端に、腕を引かれてギュッと抱きしめられてしまった。
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