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【24】忸怩たる思い
しおりを挟む先に部屋を出たジェイラスが前を歩き、その後ろをクライブが歩いていたが、急にジェイラスが歩を緩めてクライブに並んだ。
「おまえは、本当にこれで良かったのか。彼女とやり直したい気持ちもあっただろう?」
「兄上、それはあり得ません。フォスティーヌに僕がしてきたことを考えたら、そう思うことすら許されない話です。
僕は兄上が思うよりも彼女に対して酷く、結婚式の当日、愛することはないと告げて教会に置き去りにしました。
それだけではなく、アーサーにフォスティーヌの監視を命じ毎日報告させていました。
彼女が領主の妻として領民たちの為に行動していることが面白くなく、すべてが小賢しいと思っていたのです。
その間、自分は領主として何の仕事もしていなかった。
本来ならば謝罪を受け入れてもらえなくても当然のところ、フォスティーヌが寛大に接してくれているだけなのです」
「おまえがブリジットと結婚したいと思っていることを知っても、それを許可するわけにはいかなかった。
あの女がマーヴィンと結託して悪事に手を染めていることを掴み、それを調べている最中だった。
まさか首謀者がブリジットのほうでマーヴィンが唆されていたとは思いもしなかったが、おまえと結婚させなくてよかったと思っていたのだ。
だが俺がブリジットを王都から引き離そうとして、それほど深く考えずおまえにブリジットの監視を命じたのが失敗だった」
「すべては僕がブリジットを見抜けなかったのがいけないのです。不敬にも王都から離れているオールブライトならば、監視の名の下にブリジットを囲ってしまえると思いました……」
「では、おまえはどうするのだ」
「結婚はもうするつもりはありません。自分に誰かを幸せにする器がないのです。
新しい領地は、前任のホールデン伯爵が多くの税目に他の領地と比較して高額な税額を設定していた為に、領民の不満がそのコップから溢れる寸前となっています。
早く適正な税額に戻し領民の生活を安定させたいところですが、それを支える財源があるかどうか、早急にやるべきことが山積しています。
また、そうして民から搾り上げた税を懐に入れていたのはホールデン伯爵だけではないでしょう。そちらの後始末もしなくてはなりません。
そして、オールブライト領で何も成さずそこを追われた私に、ホールデン伯爵領の者たちが向ける目は冷たいところか刺すようなものでしょう。
まずはそれを地道に払拭するべく泥を啜っていきます」
「だが、結婚して領主の妻に任せるべき仕事もあるだろう」
「……では、言い方を変えます。僕は自分の愚かさからフォスティーヌを傷つけ、ブリジットに騙されました。
クズでグズで不器用なので、仕事と家庭の両立など無理なのです。
仕事を取らない訳にはいかないので家庭を得ることはできません。
女性の目線や手が必要ならば、そうした仕事ができる女性を雇います」
ジェイラスは、クライブの生育環境においてクライブが女性に接するにあたって、難しいものを抱えていても不思議ではないことを思い出した。
クライブの実母はクライブを、王を自分に都合よく動かす為の道具として扱った。
王の目を惹く必要がある時だけ可愛がるふりをし、それ以外は感心を向けなかった。
成長してからは、王子という地位と容姿だけをみつめる女性たちが群がった。
ある意味、クライブという人間そのものを見てくれていたのは、自分が手酷く扱ったフォスティーヌだけだったということは、クライブにとって本人も知らない傷になっているのだろう。
愛されずに育ったクライブには、難しい領地の経営以上に心を許せる妻を持つことのほうが未踏の高い山なのかもしれない。
マーヴィンは、常に感情を露わにして人を傷つけて享楽的に生きていた。
クライブは、自分の感情を殺しながら、自分が妻を愛さないとすることでそこに優位性を見出し杖にして己を支えた。
二人は似ていないようで本質的にはとてもよく似ている。
「……分かった。仕事が落ち着くまで、おまえの気持ちが変わるまでは私からは何も言わないことにしよう。だがクライブ、これだけは分かってくれ。私はおまえの幸せを願っている」
「……兄上、ありがとうございます。僕も兄上の幸せと、平和で長い治世を願っています」
「最後にさらりと難題を入れてきたな」
「まずは急ぎましょう。身近な従者たちさえ安心させられないようでは玉座に嫌われてしまいます。あの椅子、案外好き嫌いがあるようですよ」
そう言うとクライブは歩みを速めた。
クライブの口から軽口めいたものを聞いたのは初めてだった。
いや、そもそもこうしてじっくり話をすることだってなかったではないか。
第三王子だった頃に掌から落としてしまったものを、クライブは掴み直すことができるだろうか。
ジェイラスも歩みを速め、クライブを追い越した。
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