14 / 36
13.人食い大蛇の魔物ですって
しおりを挟む
「失礼します、兄上!」
「呼び立ててすまないな、フランツ。ミランダも一緒に聞いてくれ」
「はっ!」
兄のグラハムに呼ばれて部屋を訪ねる。四つ年上の兄上は既に王宮内で働いていて、次期王としての呼び声も高い。次男の僕が兄上を飛び越して王になることはないだろうから、間違いなく兄上が次期王座に着くことになるだろう。小さい時からとても頼りがいのある、僕の自慢の兄だからな。
「先日の狩猟大会はすまなかったな。私は所用で王都を離れていたから、協力できなくて」
「問題ありません。あの程度なら私でも何とかなりましたので。ミランダも手伝ってくれましたし」
「そうか。二人とも良くやってくれて感謝しているよ。それで、その時の話を少し聞きたいと思ってね」
執務机の前に立つと、兄上が紙を一枚差し出した。そこに描かれていたのは凶暴そうなイノシシで、『ケンドールの怪物』と書かれている。
「これは?」
「パトリシアが言っていた巨大なイノシシと言うのは、恐らくこいつだ。猟師の間では凶暴なことで有名で、この様な注意書きが出回るほどだったらしい」
「こんな怪物がパトリシアを……申し訳ございません、兄上。僕がもっと良く調べておけば」
「いや、気にすることはないさ。この注意書きが出回っていたのは西の山より向こう側、更に山を二つほど越えた街だからな」
そうか、ケンドールと言う名前はどこかで聞いたことがあると思っていたが、兄上の言われた通り王都よりかなり西、クエイル領にある街だ。
「ケンドールにもそのイノシシが狩られたことが伝わった様でね、ちょっとした騒ぎになっているらしい」
「しかし、その怪物の話は我々以外知らないはずでは……」
「数日前、王都にある商会に巨大なイノシシの毛皮と牙を売りに来た者がいたそうだ。そこから広まったんだろうな」
「ああ……」
パトリシアの話によれば、その人物はマリオンと言う王宮勤めのメイドらしい。ミランダも彼女のことがお気に入りで最近良くその名前を聞く。彼女の噂は兄上の耳にも入っている様だった。
「私も一度そのメイドには会ってみたいものだが、今は置いておこう。それよりもなぜその怪物が西の山まで来ていたか、だ」
「野生動物ですから、気まぐれに移動してきたのではないですか?」
「それも考えられる。しかしケンドール付近の山や森で、最近良く魔物が出没しているらしくてな。私はその影響ではないかと考えている」
「魔物……ですか?」
「そうだ。王都周辺ではここ十数年は出没していないが、地方ではまだまだ数が多くて魔物討伐が行われているのさ」
魔物……人間に害を為さなければ野生動物とさほど変わりない存在だが、中には非常に知能が高く攻撃的な種族もいる。その姿も様々で巨大な猿の様なもの、巨大なトカゲや大蛇、双頭の狼、そしてドラゴン。彼らは魔力を帯びていて、同じく魔力の強い人間には野生動物との差が一目瞭然に分かると聞いた。
王都があるこの地は元々多くの魔物がいた地域で、そこに我々の先祖がやってきて魔物を討伐し王都を建立したとされている。十数年前までは頻繁に魔物討伐が行われていて、その結果近隣に魔物はいなくなったと学園でも習ったが……僕は地方の実情までは知らなかったな。
実は王族、それに二位や三位の貴族は魔力が強いとされる家系だ。僕やミランダも魔力を持っているのだろうが、実際に魔法を使用することはない。基礎的なことを学園では学ぶが、それを使う局面はないのだから。それでも『魔法師』と呼ばれる職業の者はいる。王都にいる魔法師は主に魔法による治療を行う者で、その他いわゆる生活魔法を使っている者も。過去には王宮所属の魔法師がいて魔物退治で活躍していたそうだが、今はもうその姿はない。
「まだ王都の近くに魔物が出たという報告は聞いていない。しかし、この様な兆候があることは心に留めておいてくれ。お前たちが討伐に駆り出されることはないが、何かあった時に学園の生徒を避難させるのはお前たちの役目だからな」
「承知しました! 兄上」
兄上の部屋を出てミランダと話しながら廊下を歩く。流石のミランダも魔物と聞いては神妙な面持ちだ。
「それにしても魔物とは……我々とは無縁の存在と思っていたけどね」
「そうだな。僕も今どき魔物なんて、とは思ったが、先日の狩猟大会の件を考えればあり得ない話ではないさ。むしろ、パトリシアが襲われたのが魔物ではなくイノシシで良かったのかも知れない」
「そうだな。それで? パトリシアにはこのことを伝えるのか?」
「いや、それは兄上も望まれるところではないだろう。伝えたいなら一緒に部屋に呼べば良かったのだからな。我々の所で止めておこう」
「賛成だ。無闇に恐怖心を煽るものではないからな」
しかし僕とミランダの決意はすぐに無意味なものとなってしまう。パトリシアだけではなく王宮中、いや王都中が魔物の出現を知ることとなってしまった。そう、西の山付近で魔物の目撃が相次いだのだ。そしてついには被害者まで……狩りに出ていた猟師が魔物に襲われたらしい。その魔物とは巨大な蛇で、何人かの猟師が食われたとか、食われていないとか。
「お兄様! 聞きましたか!? 人食い大蛇の魔物ですって」
「ああ、知っている。そんなに騒ぐんじゃない、パトリシア。王宮内の皆がパニックになったらどうするんだ」
「えー、でももう王宮どころか王都のほとんどの人が知っていますわ。こんな紙も出回ってますし」
どこから入手したのか、パトリシアが差し出した紙には大蛇が人を襲う挿絵があって、様々な煽り文句も綴られていた。既に王宮が討伐隊を手配した、とも書かれている。誰がこんなハッタリを……
「大蛇なんて怖いですぅ、お姉様」
「大丈夫だよ、パトリシア。すぐに騎士団を中心とした討伐隊が組まれるだろうから。十数年ぶりの魔物討伐だから、きっと士気も上がっているはずさ。何かあったら君のことは私が守るから」
「頼もしいです、お姉様!」
またお前は兄の僕が言うべき台詞を全部言ってしまって! いや、それよりも先日兄上から言われた通り、学園で何かあれば僕たちが先頭に立って対処しなければならない。僕は戦力にならない分、王族としてできる限りのことはやらなければ。ミランダの方を見ると彼女も同じ考えらしく、二人で無言のまま頷き合い気を引き締めた。
「呼び立ててすまないな、フランツ。ミランダも一緒に聞いてくれ」
「はっ!」
兄のグラハムに呼ばれて部屋を訪ねる。四つ年上の兄上は既に王宮内で働いていて、次期王としての呼び声も高い。次男の僕が兄上を飛び越して王になることはないだろうから、間違いなく兄上が次期王座に着くことになるだろう。小さい時からとても頼りがいのある、僕の自慢の兄だからな。
「先日の狩猟大会はすまなかったな。私は所用で王都を離れていたから、協力できなくて」
「問題ありません。あの程度なら私でも何とかなりましたので。ミランダも手伝ってくれましたし」
「そうか。二人とも良くやってくれて感謝しているよ。それで、その時の話を少し聞きたいと思ってね」
執務机の前に立つと、兄上が紙を一枚差し出した。そこに描かれていたのは凶暴そうなイノシシで、『ケンドールの怪物』と書かれている。
「これは?」
「パトリシアが言っていた巨大なイノシシと言うのは、恐らくこいつだ。猟師の間では凶暴なことで有名で、この様な注意書きが出回るほどだったらしい」
「こんな怪物がパトリシアを……申し訳ございません、兄上。僕がもっと良く調べておけば」
「いや、気にすることはないさ。この注意書きが出回っていたのは西の山より向こう側、更に山を二つほど越えた街だからな」
そうか、ケンドールと言う名前はどこかで聞いたことがあると思っていたが、兄上の言われた通り王都よりかなり西、クエイル領にある街だ。
「ケンドールにもそのイノシシが狩られたことが伝わった様でね、ちょっとした騒ぎになっているらしい」
「しかし、その怪物の話は我々以外知らないはずでは……」
「数日前、王都にある商会に巨大なイノシシの毛皮と牙を売りに来た者がいたそうだ。そこから広まったんだろうな」
「ああ……」
パトリシアの話によれば、その人物はマリオンと言う王宮勤めのメイドらしい。ミランダも彼女のことがお気に入りで最近良くその名前を聞く。彼女の噂は兄上の耳にも入っている様だった。
「私も一度そのメイドには会ってみたいものだが、今は置いておこう。それよりもなぜその怪物が西の山まで来ていたか、だ」
「野生動物ですから、気まぐれに移動してきたのではないですか?」
「それも考えられる。しかしケンドール付近の山や森で、最近良く魔物が出没しているらしくてな。私はその影響ではないかと考えている」
「魔物……ですか?」
「そうだ。王都周辺ではここ十数年は出没していないが、地方ではまだまだ数が多くて魔物討伐が行われているのさ」
魔物……人間に害を為さなければ野生動物とさほど変わりない存在だが、中には非常に知能が高く攻撃的な種族もいる。その姿も様々で巨大な猿の様なもの、巨大なトカゲや大蛇、双頭の狼、そしてドラゴン。彼らは魔力を帯びていて、同じく魔力の強い人間には野生動物との差が一目瞭然に分かると聞いた。
王都があるこの地は元々多くの魔物がいた地域で、そこに我々の先祖がやってきて魔物を討伐し王都を建立したとされている。十数年前までは頻繁に魔物討伐が行われていて、その結果近隣に魔物はいなくなったと学園でも習ったが……僕は地方の実情までは知らなかったな。
実は王族、それに二位や三位の貴族は魔力が強いとされる家系だ。僕やミランダも魔力を持っているのだろうが、実際に魔法を使用することはない。基礎的なことを学園では学ぶが、それを使う局面はないのだから。それでも『魔法師』と呼ばれる職業の者はいる。王都にいる魔法師は主に魔法による治療を行う者で、その他いわゆる生活魔法を使っている者も。過去には王宮所属の魔法師がいて魔物退治で活躍していたそうだが、今はもうその姿はない。
「まだ王都の近くに魔物が出たという報告は聞いていない。しかし、この様な兆候があることは心に留めておいてくれ。お前たちが討伐に駆り出されることはないが、何かあった時に学園の生徒を避難させるのはお前たちの役目だからな」
「承知しました! 兄上」
兄上の部屋を出てミランダと話しながら廊下を歩く。流石のミランダも魔物と聞いては神妙な面持ちだ。
「それにしても魔物とは……我々とは無縁の存在と思っていたけどね」
「そうだな。僕も今どき魔物なんて、とは思ったが、先日の狩猟大会の件を考えればあり得ない話ではないさ。むしろ、パトリシアが襲われたのが魔物ではなくイノシシで良かったのかも知れない」
「そうだな。それで? パトリシアにはこのことを伝えるのか?」
「いや、それは兄上も望まれるところではないだろう。伝えたいなら一緒に部屋に呼べば良かったのだからな。我々の所で止めておこう」
「賛成だ。無闇に恐怖心を煽るものではないからな」
しかし僕とミランダの決意はすぐに無意味なものとなってしまう。パトリシアだけではなく王宮中、いや王都中が魔物の出現を知ることとなってしまった。そう、西の山付近で魔物の目撃が相次いだのだ。そしてついには被害者まで……狩りに出ていた猟師が魔物に襲われたらしい。その魔物とは巨大な蛇で、何人かの猟師が食われたとか、食われていないとか。
「お兄様! 聞きましたか!? 人食い大蛇の魔物ですって」
「ああ、知っている。そんなに騒ぐんじゃない、パトリシア。王宮内の皆がパニックになったらどうするんだ」
「えー、でももう王宮どころか王都のほとんどの人が知っていますわ。こんな紙も出回ってますし」
どこから入手したのか、パトリシアが差し出した紙には大蛇が人を襲う挿絵があって、様々な煽り文句も綴られていた。既に王宮が討伐隊を手配した、とも書かれている。誰がこんなハッタリを……
「大蛇なんて怖いですぅ、お姉様」
「大丈夫だよ、パトリシア。すぐに騎士団を中心とした討伐隊が組まれるだろうから。十数年ぶりの魔物討伐だから、きっと士気も上がっているはずさ。何かあったら君のことは私が守るから」
「頼もしいです、お姉様!」
またお前は兄の僕が言うべき台詞を全部言ってしまって! いや、それよりも先日兄上から言われた通り、学園で何かあれば僕たちが先頭に立って対処しなければならない。僕は戦力にならない分、王族としてできる限りのことはやらなければ。ミランダの方を見ると彼女も同じ考えらしく、二人で無言のまま頷き合い気を引き締めた。
0
あなたにおすすめの小説
前の野原でつぐみが鳴いた
小海音かなた
恋愛
鶫野鹿乃江は都内のアミューズメント施設で働く四十代の事務職女性。ある日職場の近くを歩いていたら、曲がり角から突然現れた男性とぶつかりそうになる。
その夜、突然鳴った着信音をたどったらバッグの中に自分のものではないスマートフォン入っていて――?!
『ほんの些細な偶然から始まるラブストーリー』。そんなありきたりなシチュエーションにもかかわらず、まったく異なる二人の立場のせいで波乱含みな恋愛模様をもたらしていく――。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される
七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~
放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」
最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!?
ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる