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24.これを僕たちに譲ってくれ
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「はぁ……」
もうため息しか出ない。卒業生を送り出すと言うのはこんなにも大変なのかと、改めて実感している。卒業式まであと一ヶ月を切ったこのタイミングで、まさかこんな問題が発生するとは……
「どうした? 随分と疲れている様だが」
対処しなければならないことは分かっているが、すぐには方法が思い浮かばない。椅子にもたれかかって天井を眺めているところへミランダが戻ってきた。
「ミランダか……学園案内は終わったのか?」
「ああ。三人ともとても楽しんでくれていたよ。この機会をくれた君にも礼を言っておいてくれと頼まれた」
「そうか、楽しんでもらえたなら結構なことだ。こっちはそれどころではないんだがな」
「また問題が?」
「先ほど、記念品を発注していた工房から連絡がきてな」
卒業生に渡す記念品は毎年生徒会が準備することになっている。鹿に関連する品を準備するのが慣例で、これは学園のシンボルが雄鹿であり校章にも鹿が描かれていることに由来している。鹿角製の印章が必ず贈られることになっていて、あと一つは生徒会が自由に選んで発注できる。今年は鹿角を用いた万年筆と、印章とそれを一緒に入れておける鹿革張りの箱を発注したのだが……ここに来て工房から『素材が足りない』と連絡が来たのだ。
「鹿の角や皮が足りないなんて、今まで聞いたことがないな」
「ああ。僕もそう言ったのだが、ここのところ立て続けに魔物騒動やクエイル領の問題があっただろう? それで鹿角や皮の需要が予想以上に増えたらしい」
「今から狩りに行けばいいんじゃないのか?」
「それがそうも行かないらしいんだ。鹿の角は春に落ちて秋頃が最大だ。今の時期はまだ小さいものが多くて、角を取るために狩るには向いていないらしい。中には春に角を落とさずに立派な角を持っている雄鹿もいるらしいが、魔物騒動のお陰で猟師たちがあまり山に入りたがらないと聞いた」
狩猟大会の優勝者が狩った鹿は立派な角を持っていたそうだが、それは既に売却済。商会に問い合わせたが別の業者の手に渡っていたとのこと。今から記念品を変えることも可能だがそうなると市場に出回っている廉価品になってしまうし、後日渡すとなると折角の記念が台無しになってしまう。
「どれぐらいの角が必要なんだ?」
「大きい鹿なら一頭分でいいらしい。小さいものならかなりの頭数分必要だそうだ。小さいと削り出せる大きさも限られるからな」
そう伝えるとミランダは暫く考えていて、何かを思い出した様子。
「大きな鹿の角か……いや、待てよ。私に心当たりがある!」
「本当か!? どこで手に入る!?」
「フフフ、王宮だ」
「王宮?」
ここはもうミランダの心当たりに頼るしかない。彼女が『急いだ方がいい』と言うので、二人で馬車に乗り王宮を目指した。王宮に着いてミランダに付いていくと、メイド寮の方へ。しかしそこは通りすぎて林の中に入っていく。
「こんな所に鹿がいるのか? 木々はあるが王宮の中だぞ?」
「付いてくれば分かるよ」
不思議に思いつつも付いていくと、やがて一件の小さな家が見えてきた。近付いていくとちょうど扉が開いて女性が出てくる。そして彼女が背負っているのは……巨大な鹿の角!?
「マリオン」
「ミ、ミランダ様! それにフランツ様も!? ……どうしてこの格好の時にばかり来られるんですか!」
真っ赤になりながら俯いているのはマリオン。鹿の角を背負って恥ずかしがっているその姿がなんともアンバランスで可愛らしいが、今はそんなことを言っている場合ではない。これがミランダの心当たりか!
「すまないマリオン。それを売りに行くつもりなら、ちょっと待ってくれ!」
彼女に駆け寄って角を見せてもらうと、今までに見たことがないほどの巨大な鹿角。これだけあれば記念品を作っても余りが出るだろう。
「も、もしかして皮もあるのか?」
「はい、ありますけど……」
ドサッと角を下ろすと、背負っていた鞄の中から折りたたまれた巨大な皮を取り出す。その皮からも鹿の巨大さが良く分かった。
「これを僕たちに譲ってくれ、頼む!」
興奮してしまって彼女の肩を掴んで迫ると、驚いて困惑した表情のマリオン。
「そんな剣幕で迫ったらマリオンも困ってしまうだろう? 実はね……」
気が急いている僕に変わってミランダが事の次第を説明してくれる。時々頷きながらミランダの話に耳を傾け、聞き終わると彼女は角と皮をこちらに差し出した。
「そう言うことでしたらどうぞお使いください。役立てて頂けるならそちらの方がいいですし」
「いいのか!? 恩に着るよ! では早速工房に持っていこう」
角に手をかけて持ち上げようとしたが、あまりの重さに片手では持ち上がらなかった。
「あれ?」
「あ、ちょっと重いので気を付けて持っていってくださいね」
ちょっと? ミランダに手伝ってもらおうと彼女の方を見たが、呆れた様に首を左右に振っている。まあ、僕が持ち上げられない物は、普通の女性では無理だよな。
「マリオン、すまないが運ぶのを手伝ってもらえるかい? 非力な私たちには少々重すぎる様だから」
「承知しました」
皮を鞄にしまって背負い、角を軽々と持ち上げて鞄の上に乗せていく。二本の角だけで彼女体重ぐらいはありそうなんだが……
「それでは参りましょうか」
「あ、ああ。助かるよ」
そう言えば以前、彼女が巨大なイノシシを軽々持ち上げて運んだとパトリシアが言っていた記憶がある。その時は女性が持ち上げられるぐらいだからそんなに大きくなかったのだろうと想像していたが、どうやら本当に巨大なイノシシだったらしい。この華奢な少女のどこにこんなに力があるのやら……いや、今はそれを考えている場合ではなかった。とにかく工房に向かわなければ。
工房は王族御用達で王宮からもほど近い場所にある。王都内でも一、二の大きな工房で、皮や角の加工はもちろん、陶器や鉄器など幅広く職人を揃えている。通りに面した建物は店舗も兼ねていて奥に工房があり、僕たちが入ると係の者が走ってきた。
「殿下、本日はどの様な品をご所望で?」
「今日は商品を見に来たんじゃないんだ。学園の卒業記念品の件で、親方を呼んで欲しい」
「承知しました」
しばらく待っていると髭面でごつい体格の男が、奥からノシノシと出てきた。今回の件であちこち走り回ってもらっているのだが、未だ解決策がなく彼もいつにも増して不機嫌そうだ。
「忙しいところを呼び出してすまないな。角と皮の件だが……」
「あれからあちこち当たってみたんですがね、どこも在庫不足でして」
「そうか。こちらで譲ってくれると言う知り合いを見付けたので連れてきた。モノを確認してくれないか?」
「そいつは有り難い!」
マリオンが親方の前に角と皮を並べる。最初は怪訝そうにマリオンを見ていた親方だったが、特大の鹿角と皮を目の前にしてすぐに職人の鋭い眼差しになった。熟練工の目から見てもそれらは上級品らしい。
「こいつはすげぇ! 嬢ちゃん、これをどこで?」
「森で狩ってきたんですけど」
「嬢ちゃんが!? いや、今はそれよりもこっちだな。これだけあれば十分足りますぜ、殿下」
「卒業式に間に合いそうか?」
「ちょっと厳しいですが、職人の腕の見せどころだ。間に合わせて見せますぜ! それで嬢ちゃん、幾ら支払えばいい?」
「うーん、値段のことは良く分からないので、差しあげますよ。フランツ様のお役に立つならそれでいいですし」
「そうはいかねえ! 余った分はウチが使わせてもらうし、学園からも代金を貰うことになっているからな。よし分かった! 全部で金貨百二十枚だ。おい、金を準備してくれ」
親方の一声で係の者が走っていき、直ぐに袋を持って戻ってきてマリオンに支払っていた。
「有り難うございます」
「礼を言うのはこっちだ。これで御用達の面目も立つってもんだ。嬢ちゃん、気に入ったぜ。何か欲しい物があったらいつでも言ってくれ」
「はい!」
こんなことを言う親方も珍しいが、マリオンにはそういう魅力があるのかも知れないな。とにかくこれで卒業式とパーティーの準備は全て整った。僕もミランダもまたマリオンに助けられてしまったが、パーティーが終わってからゆっくり礼をするとしよう。さあ、あとは当日を待つだけだ。
もうため息しか出ない。卒業生を送り出すと言うのはこんなにも大変なのかと、改めて実感している。卒業式まであと一ヶ月を切ったこのタイミングで、まさかこんな問題が発生するとは……
「どうした? 随分と疲れている様だが」
対処しなければならないことは分かっているが、すぐには方法が思い浮かばない。椅子にもたれかかって天井を眺めているところへミランダが戻ってきた。
「ミランダか……学園案内は終わったのか?」
「ああ。三人ともとても楽しんでくれていたよ。この機会をくれた君にも礼を言っておいてくれと頼まれた」
「そうか、楽しんでもらえたなら結構なことだ。こっちはそれどころではないんだがな」
「また問題が?」
「先ほど、記念品を発注していた工房から連絡がきてな」
卒業生に渡す記念品は毎年生徒会が準備することになっている。鹿に関連する品を準備するのが慣例で、これは学園のシンボルが雄鹿であり校章にも鹿が描かれていることに由来している。鹿角製の印章が必ず贈られることになっていて、あと一つは生徒会が自由に選んで発注できる。今年は鹿角を用いた万年筆と、印章とそれを一緒に入れておける鹿革張りの箱を発注したのだが……ここに来て工房から『素材が足りない』と連絡が来たのだ。
「鹿の角や皮が足りないなんて、今まで聞いたことがないな」
「ああ。僕もそう言ったのだが、ここのところ立て続けに魔物騒動やクエイル領の問題があっただろう? それで鹿角や皮の需要が予想以上に増えたらしい」
「今から狩りに行けばいいんじゃないのか?」
「それがそうも行かないらしいんだ。鹿の角は春に落ちて秋頃が最大だ。今の時期はまだ小さいものが多くて、角を取るために狩るには向いていないらしい。中には春に角を落とさずに立派な角を持っている雄鹿もいるらしいが、魔物騒動のお陰で猟師たちがあまり山に入りたがらないと聞いた」
狩猟大会の優勝者が狩った鹿は立派な角を持っていたそうだが、それは既に売却済。商会に問い合わせたが別の業者の手に渡っていたとのこと。今から記念品を変えることも可能だがそうなると市場に出回っている廉価品になってしまうし、後日渡すとなると折角の記念が台無しになってしまう。
「どれぐらいの角が必要なんだ?」
「大きい鹿なら一頭分でいいらしい。小さいものならかなりの頭数分必要だそうだ。小さいと削り出せる大きさも限られるからな」
そう伝えるとミランダは暫く考えていて、何かを思い出した様子。
「大きな鹿の角か……いや、待てよ。私に心当たりがある!」
「本当か!? どこで手に入る!?」
「フフフ、王宮だ」
「王宮?」
ここはもうミランダの心当たりに頼るしかない。彼女が『急いだ方がいい』と言うので、二人で馬車に乗り王宮を目指した。王宮に着いてミランダに付いていくと、メイド寮の方へ。しかしそこは通りすぎて林の中に入っていく。
「こんな所に鹿がいるのか? 木々はあるが王宮の中だぞ?」
「付いてくれば分かるよ」
不思議に思いつつも付いていくと、やがて一件の小さな家が見えてきた。近付いていくとちょうど扉が開いて女性が出てくる。そして彼女が背負っているのは……巨大な鹿の角!?
「マリオン」
「ミ、ミランダ様! それにフランツ様も!? ……どうしてこの格好の時にばかり来られるんですか!」
真っ赤になりながら俯いているのはマリオン。鹿の角を背負って恥ずかしがっているその姿がなんともアンバランスで可愛らしいが、今はそんなことを言っている場合ではない。これがミランダの心当たりか!
「すまないマリオン。それを売りに行くつもりなら、ちょっと待ってくれ!」
彼女に駆け寄って角を見せてもらうと、今までに見たことがないほどの巨大な鹿角。これだけあれば記念品を作っても余りが出るだろう。
「も、もしかして皮もあるのか?」
「はい、ありますけど……」
ドサッと角を下ろすと、背負っていた鞄の中から折りたたまれた巨大な皮を取り出す。その皮からも鹿の巨大さが良く分かった。
「これを僕たちに譲ってくれ、頼む!」
興奮してしまって彼女の肩を掴んで迫ると、驚いて困惑した表情のマリオン。
「そんな剣幕で迫ったらマリオンも困ってしまうだろう? 実はね……」
気が急いている僕に変わってミランダが事の次第を説明してくれる。時々頷きながらミランダの話に耳を傾け、聞き終わると彼女は角と皮をこちらに差し出した。
「そう言うことでしたらどうぞお使いください。役立てて頂けるならそちらの方がいいですし」
「いいのか!? 恩に着るよ! では早速工房に持っていこう」
角に手をかけて持ち上げようとしたが、あまりの重さに片手では持ち上がらなかった。
「あれ?」
「あ、ちょっと重いので気を付けて持っていってくださいね」
ちょっと? ミランダに手伝ってもらおうと彼女の方を見たが、呆れた様に首を左右に振っている。まあ、僕が持ち上げられない物は、普通の女性では無理だよな。
「マリオン、すまないが運ぶのを手伝ってもらえるかい? 非力な私たちには少々重すぎる様だから」
「承知しました」
皮を鞄にしまって背負い、角を軽々と持ち上げて鞄の上に乗せていく。二本の角だけで彼女体重ぐらいはありそうなんだが……
「それでは参りましょうか」
「あ、ああ。助かるよ」
そう言えば以前、彼女が巨大なイノシシを軽々持ち上げて運んだとパトリシアが言っていた記憶がある。その時は女性が持ち上げられるぐらいだからそんなに大きくなかったのだろうと想像していたが、どうやら本当に巨大なイノシシだったらしい。この華奢な少女のどこにこんなに力があるのやら……いや、今はそれを考えている場合ではなかった。とにかく工房に向かわなければ。
工房は王族御用達で王宮からもほど近い場所にある。王都内でも一、二の大きな工房で、皮や角の加工はもちろん、陶器や鉄器など幅広く職人を揃えている。通りに面した建物は店舗も兼ねていて奥に工房があり、僕たちが入ると係の者が走ってきた。
「殿下、本日はどの様な品をご所望で?」
「今日は商品を見に来たんじゃないんだ。学園の卒業記念品の件で、親方を呼んで欲しい」
「承知しました」
しばらく待っていると髭面でごつい体格の男が、奥からノシノシと出てきた。今回の件であちこち走り回ってもらっているのだが、未だ解決策がなく彼もいつにも増して不機嫌そうだ。
「忙しいところを呼び出してすまないな。角と皮の件だが……」
「あれからあちこち当たってみたんですがね、どこも在庫不足でして」
「そうか。こちらで譲ってくれると言う知り合いを見付けたので連れてきた。モノを確認してくれないか?」
「そいつは有り難い!」
マリオンが親方の前に角と皮を並べる。最初は怪訝そうにマリオンを見ていた親方だったが、特大の鹿角と皮を目の前にしてすぐに職人の鋭い眼差しになった。熟練工の目から見てもそれらは上級品らしい。
「こいつはすげぇ! 嬢ちゃん、これをどこで?」
「森で狩ってきたんですけど」
「嬢ちゃんが!? いや、今はそれよりもこっちだな。これだけあれば十分足りますぜ、殿下」
「卒業式に間に合いそうか?」
「ちょっと厳しいですが、職人の腕の見せどころだ。間に合わせて見せますぜ! それで嬢ちゃん、幾ら支払えばいい?」
「うーん、値段のことは良く分からないので、差しあげますよ。フランツ様のお役に立つならそれでいいですし」
「そうはいかねえ! 余った分はウチが使わせてもらうし、学園からも代金を貰うことになっているからな。よし分かった! 全部で金貨百二十枚だ。おい、金を準備してくれ」
親方の一声で係の者が走っていき、直ぐに袋を持って戻ってきてマリオンに支払っていた。
「有り難うございます」
「礼を言うのはこっちだ。これで御用達の面目も立つってもんだ。嬢ちゃん、気に入ったぜ。何か欲しい物があったらいつでも言ってくれ」
「はい!」
こんなことを言う親方も珍しいが、マリオンにはそういう魅力があるのかも知れないな。とにかくこれで卒業式とパーティーの準備は全て整った。僕もミランダもまたマリオンに助けられてしまったが、パーティーが終わってからゆっくり礼をするとしよう。さあ、あとは当日を待つだけだ。
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