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25.ちょっと通りがかっただけよ
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なんだか慌ただしい日々が続いたけれど、ようやく落ち着いた気がする。普段通り朝からメイドの控室に行って先輩方とお喋り、そしていつものお仕事。王宮は広いから、建物の外回りだけでもやることは尽きない。多分まだ行ったことがない場所もあるけれど、それでもかなり詳しくなったし沢山の人と仲良くなったわ。
今日は朝から正門付近の草刈りと、厩舎周りの掃除。先輩方はなぜか厩舎近くの掃除を嫌がるので、ここの仕事は私がすることが多くなったわね。馬、可愛いのになあ。お陰で人だけではなく馬たちとも仲良くなれた。ここに繋がれているのは馬車馬で、最初にミランダ様にお会いした時に馬車を引いていた馬もいる。
「おはようございます!」
「おはよう、マリオンちゃん。今朝も元気だな」
「はい」
「ブルルルルゥ」
厩舎係のおじさんに挨拶すると、馬たちも一緒に挨拶してくれた。柵の向こうから首を伸ばして、撫でろ、撫でろと催促する馬たち。
「あんたが来ると、皆嬉しそうだな」
「それじゃあ、馬たちを外に出しますね」
「マリオンちゃんはメイドだから、そこまでしなくていいんだぜ。周りだけ掃除してくれるだけでも助かるんだから」
「大丈夫ですよ、慣れてますので」
本当は馬たちの世話や厩舎内の掃除は作業の内に入ってないけれど、領地では毎日やっていたことだし懐かしくてついつい手伝ってしまう。外に放牧された馬たちが楽しそうにしているのを見ると嬉しいし、彼らの部屋もキレイにしてあげたいから。最近馬には乗ってないから、いつかこの子たちに乗せてもらえればいいなあ。
午前中の作業を終えて控室に戻ってみると、皆がいつもよりピリピリしている感じがした。
「ただいま戻りました」
「あ、マリオン。これから卒業パーティーの配置説明があるから、あんたもちゃんと聞いておいて」
ニッキーさんに言われて彼女とローナさんの隣に座ると、ヘザーさんが皆に段取りなどを説明し始める。普段の舞踏会や茶会は王族の方々お付きの執事やメイド主導で行われるので、私たちが手伝うことはあまりない。しかし卒業パーティーは卒業生とその父兄も参加するので人手が足りず、毎年私たちも借り出されるそうだ。例えるなら大人数で舞踏会と茶会の両方をやる様なもの……なるほど、それは大変ね。
「パーティーは明後日ですが、明日の午後から会場の設営に入ります。当日は料理などの配膳とドリンク類の提供、お客様の案内なども行います。各班長は私や執事たちと連絡を取り、班員に指示を出してちょうだい」
私はニッキーさんの班なので、基本的にはニッキーさんの指示に従えばいいとのこと。どれほど沢山の方が来られるのかちょっとドキドキするけれど、頑張らないと!
翌日、いよいよ設営が始まるとのことで王宮内にある大広間へ。私は入ったことがなかった部屋だけど、その大きさには度肝を抜かれてしまう。
「す、凄いですね! ローナさん!」
「でしょ? 私も最初に入った時はビックリしたなー。でも驚くのはこれからだよ」
どういうことかと思っていたけど、その答えはすぐに分かった。官僚の方々に加えて執事や使用人、それにメイドまで多くの人がゾロゾロと会場に入ってきて、これだけ沢山の人が王宮内で働いているのだと改めて知る。ウチの領地よりも人が多いかも!? その雰囲気に飲まれて愕然としているところへニッキーさんが小走りでやってきた。
「ローナ、マリオン、仕事の割り振りが決まったよ」
「あ、はい!」
「私とローナは例年通り、テーブルクロス張りとかテーブル上のセッティングね。マリオンは力仕事する人が足りないそうだから、そっちを手伝ってくれる? テーブル、結構重いんだけど大丈夫?」
「大丈夫です!」
「ありがとう。あとは窓周りの飾り付けとか舞台の設営とか、あんたは高い所の作業もできるから手伝えそうだったら手伝ってあげて」
「はい!」
全体を取り仕切っているのは官僚の方かな? その近くにはヘザーさんもいて、指示を伝達してくれている様だった。大きな組織の中で人々が規律正しく動く様は圧巻だわ。さあ、私も自分のできることを頑張らないと!
ニッキーさんに指示された通り、テーブルを運ぶ係の人たちに加わって説明を受ける。周りは比較的体の大きな男性ばかりでメイドの私は場違いな感じ。ジロジロ怪訝そうに見られていたけれど、テーブルを運び始めると彼らの対応も変わった。テーブルはニッキーさんが言っていたほどの重さはなく、一人でも十分運べるわね。それでも広い会場内、並べるテーブルの数も多くてしばらくはテーブルを持って走り回ることに。設置したテーブルにはニッキーさんやローナさんたちが手際良くクロスを張っていた。
テーブルの配置が終わって一番前にある舞台上の設営に参加する。荷物を取ってきて欲しいと言われ、木箱を三つほど重ねて運んでいると、誰かに呼び止められた。
「マリオン!」
木箱の後ろから顔を覗かせると、入り口付近にパトリシア様が。手を止めて彼女に挨拶しようとする人たちを制して、私の元に来てくださる。
「パトリシア様!」
「頑張ってるわね。あなたそんな大きな木箱を持って……こき使われてるんじゃないの!?」
「大丈夫ですよ、皆さんのお役に立てて私も嬉しいですし。パトリシア様はどうされたのですか?」
「ちょっと通りがかっただけよ。あなたの姿が見えたから寄ってみただけ」
「有り難うございます。明日はパトリシア様も参加されるんですか? 素敵なパーティーになるといいですね」
「ええ、私も参加するわ。本当はあなたにも参加して欲しいところだけど、仕事じゃしょうがないわね」
「パトリシア様のドレス姿を拝見できること、楽しみにしてますね」
「フフフ、じゃあ私も気合入れないと。邪魔になるといけないからもう行くわね。頑張って」
「はい!」
通りがかっただけと仰っていたけれど、きっと様子を見にきてくださったんだわ。パトリシア様に応援して頂いたんだから、ぼやぼやしてられないわね!
どれぐらい時間が経ったのか、設営もそろそろ終了しそうな頃。梯子を使って窓近くの飾り付けやカーテンの取り替えなどをやっていると、下から声が。
「やあ、頑張っているね。落ちないでくれよ」
「ミランダ様!」
梯子の縁に足をかけて滑る様に下に降りると、ミランダ様はクスクスと笑っておられた。
「ハハハ、今日は飛び降りないんだね」
「……さきほど飛び降りたら、怒られてしまったので」
「君らしいな。今日は頑張ってくれたみたいだね」
「私がやったのはごく一部です。ここにいる皆さんのお力で、素敵な会場になりました」
「そうだね。フランツも満足していたよ、これなら明日のパーティーは成功間違いなしだってね」
お二人は会場の最終確認に来られたそう。次期生徒会長のフランツ様は、会場のレイアウトや装飾品など全てを監修されていて、明日のパーティー自体も取り仕切っておられるのだとか。
「君に改めて礼を言いたいそうだが、パーティーが終わるまで待ってやってくれるかい?」
「そんな! もう十分言って頂きましたし、色々と無理もされているでしょうからお構いなく、とお伝えください」
「マリオンは優しいな。そう伝えておくよ。じゃあ、まだ準備があるから私は戻るね。明日も頼んだよ」
「はい!」
設営はほどなく終了し、メイドの私たちは解散となる。皆ゾロゾロと控室に戻っていき、先輩方も流石にぐったりとなっていた。
「あんたは元気そうね、相変わらず」
「でも、流石に少し疲れました。卒業パーティーとはあんなにも大変なものなんですね」
「これでまだ明日の本番も、明後日の撤収もあるんだから、私たちにとっては年に一度の大イベントなんだよ。そうそう、あんたの働きっぷりを見てファンになった男どもが沢山いたわよ。姫様のお気に入りだって伝えたら残念がってたわ」
「残念がる?」
「だって姫様のお気に入りのあんたに、おいそれと手は出せないでしょう? まあ、あんたに手を出す命知らずはそうそういないでしょうけど」
「フフフ、パトリシア様も私も、怖がる様なことは何もないですよ」
そう言うと周りから一斉に突っ込まれてしまった。パトリシア様には権力があるけれど、私なんて本当に何もないんだけどなあ。
「それより、この箱は何? マリオンへって書いてあるけど」
「私に?」
控室のテーブルに置いてあった箱には、確かに私の名前が書かれた紙が挟んである。開けてみるとそれはお菓子で、私一人では食べられない量……筆跡からもそれがパトリシア様からの差し入れであることはすぐに分かった。
「パトリシア様からの差し入れの様ですね、皆で頂きましょう! お茶を入れますね」
「姫様が!? あんた本当に気に入られてるのね」
「私へ、と書いてありますが皆さんの分もちゃんとあるので、これはきっと私たち全員への差し入れです。本当はとてもお優しい方なので、皆を労ってくださったんだと思いますよ」
そう言うと皆意外そうにしていたけれど、実際に彼女はとてもお優しい姫様。きっと明日も頑張って! と言う意味も込められているのだと思うわ。明日のパーティー本番も、彼女の期待に応えられる様に一生懸命仕事しましょう!
今日は朝から正門付近の草刈りと、厩舎周りの掃除。先輩方はなぜか厩舎近くの掃除を嫌がるので、ここの仕事は私がすることが多くなったわね。馬、可愛いのになあ。お陰で人だけではなく馬たちとも仲良くなれた。ここに繋がれているのは馬車馬で、最初にミランダ様にお会いした時に馬車を引いていた馬もいる。
「おはようございます!」
「おはよう、マリオンちゃん。今朝も元気だな」
「はい」
「ブルルルルゥ」
厩舎係のおじさんに挨拶すると、馬たちも一緒に挨拶してくれた。柵の向こうから首を伸ばして、撫でろ、撫でろと催促する馬たち。
「あんたが来ると、皆嬉しそうだな」
「それじゃあ、馬たちを外に出しますね」
「マリオンちゃんはメイドだから、そこまでしなくていいんだぜ。周りだけ掃除してくれるだけでも助かるんだから」
「大丈夫ですよ、慣れてますので」
本当は馬たちの世話や厩舎内の掃除は作業の内に入ってないけれど、領地では毎日やっていたことだし懐かしくてついつい手伝ってしまう。外に放牧された馬たちが楽しそうにしているのを見ると嬉しいし、彼らの部屋もキレイにしてあげたいから。最近馬には乗ってないから、いつかこの子たちに乗せてもらえればいいなあ。
午前中の作業を終えて控室に戻ってみると、皆がいつもよりピリピリしている感じがした。
「ただいま戻りました」
「あ、マリオン。これから卒業パーティーの配置説明があるから、あんたもちゃんと聞いておいて」
ニッキーさんに言われて彼女とローナさんの隣に座ると、ヘザーさんが皆に段取りなどを説明し始める。普段の舞踏会や茶会は王族の方々お付きの執事やメイド主導で行われるので、私たちが手伝うことはあまりない。しかし卒業パーティーは卒業生とその父兄も参加するので人手が足りず、毎年私たちも借り出されるそうだ。例えるなら大人数で舞踏会と茶会の両方をやる様なもの……なるほど、それは大変ね。
「パーティーは明後日ですが、明日の午後から会場の設営に入ります。当日は料理などの配膳とドリンク類の提供、お客様の案内なども行います。各班長は私や執事たちと連絡を取り、班員に指示を出してちょうだい」
私はニッキーさんの班なので、基本的にはニッキーさんの指示に従えばいいとのこと。どれほど沢山の方が来られるのかちょっとドキドキするけれど、頑張らないと!
翌日、いよいよ設営が始まるとのことで王宮内にある大広間へ。私は入ったことがなかった部屋だけど、その大きさには度肝を抜かれてしまう。
「す、凄いですね! ローナさん!」
「でしょ? 私も最初に入った時はビックリしたなー。でも驚くのはこれからだよ」
どういうことかと思っていたけど、その答えはすぐに分かった。官僚の方々に加えて執事や使用人、それにメイドまで多くの人がゾロゾロと会場に入ってきて、これだけ沢山の人が王宮内で働いているのだと改めて知る。ウチの領地よりも人が多いかも!? その雰囲気に飲まれて愕然としているところへニッキーさんが小走りでやってきた。
「ローナ、マリオン、仕事の割り振りが決まったよ」
「あ、はい!」
「私とローナは例年通り、テーブルクロス張りとかテーブル上のセッティングね。マリオンは力仕事する人が足りないそうだから、そっちを手伝ってくれる? テーブル、結構重いんだけど大丈夫?」
「大丈夫です!」
「ありがとう。あとは窓周りの飾り付けとか舞台の設営とか、あんたは高い所の作業もできるから手伝えそうだったら手伝ってあげて」
「はい!」
全体を取り仕切っているのは官僚の方かな? その近くにはヘザーさんもいて、指示を伝達してくれている様だった。大きな組織の中で人々が規律正しく動く様は圧巻だわ。さあ、私も自分のできることを頑張らないと!
ニッキーさんに指示された通り、テーブルを運ぶ係の人たちに加わって説明を受ける。周りは比較的体の大きな男性ばかりでメイドの私は場違いな感じ。ジロジロ怪訝そうに見られていたけれど、テーブルを運び始めると彼らの対応も変わった。テーブルはニッキーさんが言っていたほどの重さはなく、一人でも十分運べるわね。それでも広い会場内、並べるテーブルの数も多くてしばらくはテーブルを持って走り回ることに。設置したテーブルにはニッキーさんやローナさんたちが手際良くクロスを張っていた。
テーブルの配置が終わって一番前にある舞台上の設営に参加する。荷物を取ってきて欲しいと言われ、木箱を三つほど重ねて運んでいると、誰かに呼び止められた。
「マリオン!」
木箱の後ろから顔を覗かせると、入り口付近にパトリシア様が。手を止めて彼女に挨拶しようとする人たちを制して、私の元に来てくださる。
「パトリシア様!」
「頑張ってるわね。あなたそんな大きな木箱を持って……こき使われてるんじゃないの!?」
「大丈夫ですよ、皆さんのお役に立てて私も嬉しいですし。パトリシア様はどうされたのですか?」
「ちょっと通りがかっただけよ。あなたの姿が見えたから寄ってみただけ」
「有り難うございます。明日はパトリシア様も参加されるんですか? 素敵なパーティーになるといいですね」
「ええ、私も参加するわ。本当はあなたにも参加して欲しいところだけど、仕事じゃしょうがないわね」
「パトリシア様のドレス姿を拝見できること、楽しみにしてますね」
「フフフ、じゃあ私も気合入れないと。邪魔になるといけないからもう行くわね。頑張って」
「はい!」
通りがかっただけと仰っていたけれど、きっと様子を見にきてくださったんだわ。パトリシア様に応援して頂いたんだから、ぼやぼやしてられないわね!
どれぐらい時間が経ったのか、設営もそろそろ終了しそうな頃。梯子を使って窓近くの飾り付けやカーテンの取り替えなどをやっていると、下から声が。
「やあ、頑張っているね。落ちないでくれよ」
「ミランダ様!」
梯子の縁に足をかけて滑る様に下に降りると、ミランダ様はクスクスと笑っておられた。
「ハハハ、今日は飛び降りないんだね」
「……さきほど飛び降りたら、怒られてしまったので」
「君らしいな。今日は頑張ってくれたみたいだね」
「私がやったのはごく一部です。ここにいる皆さんのお力で、素敵な会場になりました」
「そうだね。フランツも満足していたよ、これなら明日のパーティーは成功間違いなしだってね」
お二人は会場の最終確認に来られたそう。次期生徒会長のフランツ様は、会場のレイアウトや装飾品など全てを監修されていて、明日のパーティー自体も取り仕切っておられるのだとか。
「君に改めて礼を言いたいそうだが、パーティーが終わるまで待ってやってくれるかい?」
「そんな! もう十分言って頂きましたし、色々と無理もされているでしょうからお構いなく、とお伝えください」
「マリオンは優しいな。そう伝えておくよ。じゃあ、まだ準備があるから私は戻るね。明日も頼んだよ」
「はい!」
設営はほどなく終了し、メイドの私たちは解散となる。皆ゾロゾロと控室に戻っていき、先輩方も流石にぐったりとなっていた。
「あんたは元気そうね、相変わらず」
「でも、流石に少し疲れました。卒業パーティーとはあんなにも大変なものなんですね」
「これでまだ明日の本番も、明後日の撤収もあるんだから、私たちにとっては年に一度の大イベントなんだよ。そうそう、あんたの働きっぷりを見てファンになった男どもが沢山いたわよ。姫様のお気に入りだって伝えたら残念がってたわ」
「残念がる?」
「だって姫様のお気に入りのあんたに、おいそれと手は出せないでしょう? まあ、あんたに手を出す命知らずはそうそういないでしょうけど」
「フフフ、パトリシア様も私も、怖がる様なことは何もないですよ」
そう言うと周りから一斉に突っ込まれてしまった。パトリシア様には権力があるけれど、私なんて本当に何もないんだけどなあ。
「それより、この箱は何? マリオンへって書いてあるけど」
「私に?」
控室のテーブルに置いてあった箱には、確かに私の名前が書かれた紙が挟んである。開けてみるとそれはお菓子で、私一人では食べられない量……筆跡からもそれがパトリシア様からの差し入れであることはすぐに分かった。
「パトリシア様からの差し入れの様ですね、皆で頂きましょう! お茶を入れますね」
「姫様が!? あんた本当に気に入られてるのね」
「私へ、と書いてありますが皆さんの分もちゃんとあるので、これはきっと私たち全員への差し入れです。本当はとてもお優しい方なので、皆を労ってくださったんだと思いますよ」
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