【完結】新米メイドは男装令嬢のお気に入り

たおたお

文字の大きさ
31 / 36

30.学園生活を楽しんでこい

しおりを挟む
 入学式の朝。兄さんと一緒に朝食を取った後、制服に着替えて通学の準備をする。まだ兄さんには制服姿を見せていなかったので、今日がお披露目だ。

「どうかしら?」
「似合ってるぞ……って、女性用じゃないか!?」
「ミランダ様が学校に問い合わせてくださって、この格好でも問題ないって」
「ミランダ嬢か。彼女も女性なのに男子用の制服を着ているらしいな。流石はヘンストリッジ家のご令嬢だ」
「じゃあ、行ってきます!」
「ああ、気を付けて行ってこいよ。学園生活を楽しんでこい」
「はい!」

 学園までは馬車で十分ほど。パトリシア様が一緒に乗せてくださると仰ったけれど、下の身分の私がいつもパトリシア様と一緒では迷惑がかかってしまうかも知れないので、私は歩いて通学することにした。私の足なら歩いてもそんなに時間はかからないし、学園に行けばいつでも彼女に会えるのだから。

 ワクワクしすぎて家を出るのが少々早かったのか、学園に着くとまだほとんど新入生は来ていなかった。正門近くでは引率のために生徒会の方々が集まっておられて、ミランダ様が私に気付いてくださる。

「おはよう、マリオン。随分早くに到着したね? パトリシアは?」
「私は歩いて参りましたので……少し早く来すぎてしまいました」
「フフフ、昨日は良く眠れたかい? ラリーは興奮してあまり寝てない様だったけど」
「私も同じです。ドキドキしてしまって」
「私も入学する時はそうだったさ。懐かしいな」

 ミランダ様とお喋りしていると、やがてちらほらと入ってくる馬車が増えてきた。その中に見慣れた馬車もあって、降りてきたのはパトリシア様……いえ、学園ではパトリシアと呼ぶんだったわ!

「おはよう、マリオン! お姉様も!」
「おはよう、パトリシア」
「おはようございます」

 パトリシアはあまり緊張した様子もなく、流石だな、と思う。入学式ではフランツ様が在校生代表、パトリシアが新入生代表で挨拶されるそう。

「パトリシアは緊張しないの?」
「まあね。王族は人前でスピーチすることも結構あるから、慣れちゃったかな」
「頼もしいね。フランツは緊張で失敗しない様に、一人部屋に籠もって練習しているよ」
「生徒会長になると言うのにそれでは先が思いやられるわね、お兄様は」

 三人で談笑している内にどんどん人も増えてきた。入学式には父兄も参加するので、先日の卒業パーティーの様な賑わいだ。私たちもミランダ様に促される形で講堂へ。パトリシアが登壇する都合で一番前の列に座ることになり、余計に緊張してしまう。

「ううう、こんなに緊張するとは思いませんでした」
「ほら、マリオンも男の子なんだから。それにあなたが登壇するわけじゃないでしょ? そこで私を見守っててよ」

 そう言ってパトリシアが手を握ってくれたので、ちょっとだけ緊張が解れた気がする。少し遅れてラリー様も来られて、私と反対側のパトリシアの隣に座った。後ろを振り返ると席はほとんど埋まっていて、ほどなく式の開始が告げられた。

 学園長の挨拶から始まって来賓の多分偉い方々の話が続き、新生徒会長であるフランツ様の挨拶、そして最後はパトリシアが登壇。喋り始める前に私に向かって軽くウインクしてくれたのがとても嬉しかった。彼女のスピーチはとても堂々としていて、やっぱり王女様なんだと改めて感心する。私はメイドとして王宮に入ったのに、王族の方々やその周囲の方々とも知り合えてとても贅沢なんだわ。

「ねえ、どうだった?」
「とても素敵でした! パトリシアはやはり王女様なのですね。壇上のあなたはとても輝いて見えました」
「もう! そんなに褒められたら照れるじゃない!」

 私に抱きつきながらチラっとラリー様の方を見るパトリシア。

「何だよ!」
「あなたの感想はないわけ?」
「ま、まあ流石だよな。代表に相応しい挨拶だったと思う」
「そう? ありがとう」

 パトリシアにそう言われ、ポッと頬を染めるとそっぽを向いてしまったラリー様。照れておられるのかしら?

 式が終わるとクラス分けが発表されて、私とパトリシア、それにラリー様も同じクラスだった。一クラス四十人が三クラス。一クラス内は男子が二十五名で女子が十五名。これから二年間、このクラスで過ごすことになる。クラス合同の授業などもあるらしいから、沢山の方々とお友達になれるといいなあ。

 教室に移動すると男女分かれて座る様に言われたので、私は男子の列へ。当然この服装なのでジロジロ見られるわけで、女子たちからもヒソヒソ話が聞こえる。そんな中パトリシアだけはちょっと意地悪そうに微笑んでいた。助けて……くれないわよね、離れてるし。

「君、君、女子はあっちだよ」

 親切にも、隣に座っていたメガネをかけた賢そうな男子が教えてくる。

「いえ、あの……」
「そんな服装だけど、そいつは男だよ。全くそうは見えないけど」

 と、私が答える前に後ろに座っていたラリー様がフォローしてくださった。暫く間があって、教室中が一気に驚きの声で満ちる。

「えーっ!! ウソだろ!?」
「本当です。男です」
「信じられん……」

 ガヤガヤしているところを担当の教師に注意されてようやく静かになり、出席確認が始まった。

「マリオン・ランズベリー」
「はい!」

 教師からは特に何も言われなかったのは、ミランダ様が予め伝えておいてくださったお陰かしら? 元々そうなのか、ミランダ様と言う前例があるからか、学園はその手のことに関しては比較的寛容なんだそう。願わくは生徒の皆もそうであって欲しいんだけど……注目を集めてしまうのは仕方ないわね。

 教師から一通り注意事項などの説明があり、この日は解散となる。終業した途端に私の周りには人だかりができ、男子に囲まれるのかと思いきや彼らを押しのける形で女子の輪が……当然その中にはパトリシアもいた。

「本当に男の子なの!? その見た目で!? そんなに可愛いのに!?」
「ねえねえ、なんで女子の格好を? 一体どういう生活したらそんなに美人になるの? ランズベリーって北の方の辺境地じゃなかったっけ?」
「えーっと……」
「ダメダメ! マリオンが困ってるじゃない! 彼女は私の命の恩人なんだから……」

 パトリシアが庇ってくれて、王女様の言うことだから皆素直に従っていたけど、

「質問は一個ずつ順番ね!」

と、結局質問することは許容してしまった。

「パトリシアー」
「洗礼だと思って我慢しなさい。皆、あなたに興味津々なんだから。ほらほら、男子側の整理はラリー、あなたがやりなさいよ」
「なんで僕が!」
「あなただって、マリオンを見た時照れていたでしょうが!」
「そ、それはそいつが男だって知らなかったからだ!」

 結局ラリー様も巻き込まれてしまい……でもそのお陰か男子も輪の中に入って質問大会の様になり、色々答える羽目に。しばらくそんなことが続き、皆もそれなりに納得してくれた様子。ふう、良かったわ……そう思ったのも束の間、皆の間では今後私を男子として扱うか女子として扱うかと言う話に。

「……女子だな」
「女子ね」
「女子で決まりね」

 なぜかそこだけは満場一致。

「じゃあ、よろしくな、マリオン」
「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」

 嬉しくて満面の笑みで返すと、しばらく間があって男子は顔を背けてしまう。パトリシアを始め女子たちはクスクスと笑っていた。

「マリオンも、女子扱いだからと言って男子のハートを掴みすぎない様に注意しなさいよ!」
「ハートを、ですか? でも、私、男ですよ? ねえ、ラリー様」
「そ、そういう所だよ! ほら、もう帰る時間だから行くぞ!」

 男子がゾロゾロと部屋を後にし始めたので、私もパトリシアと一緒に教室の外へ。とにかく、パトリシアとラリー様のお陰でクラスに溶け込めた気がする。

「ありがとう、パトリシア。お陰でクラスの皆に認めてもえました」
「私が言わなくても、皆あなたのことを認めたと思うわよ。マリオンはそれだけ魅力的なんだから」
「そうですか?」
「そうよ!」

 男と分かってもこうやって腕に抱き付いてきてくれるのは本当に嬉しい。彼女とはこれからもずっと、こんな関係を続けていけるだろうか。

「でも、私の手を煩わせたバツとして、帰りは私の馬車で王宮に戻ってもらいますからね! まだまだイッパイ、あなたと喋りたいの!」
「私もです。じゃあ、お邪魔しますね」
「やったー!」

 学園生活初日は予想以上に慌ただしく、そして充実した一日となった。まだまだクラスメイトとは打ち解け切れていないけれど、パトリシアやラリー様もいてくれるのできっと大丈夫。学園にはミランダ様もおられるし、王宮に戻れば兄やメイドの皆さんも。ここ数ヶ月で周りの環境は大きく変わったけれどこんなにも皆さんから助けて頂いているので、私は王都で頑張っていけそうだと実感している。これもあの方が授けてくださった加護のお陰かしら? それとも母さんが導いてくれてるの? 今は自分のことで精一杯だけど、私も皆の役に立てる様に頑張らなくちゃ。さあ、入学式も終わったし明日からは学園生活の本番よ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

前の野原でつぐみが鳴いた

小海音かなた
恋愛
鶫野鹿乃江は都内のアミューズメント施設で働く四十代の事務職女性。ある日職場の近くを歩いていたら、曲がり角から突然現れた男性とぶつかりそうになる。 その夜、突然鳴った着信音をたどったらバッグの中に自分のものではないスマートフォン入っていて――?! 『ほんの些細な偶然から始まるラブストーリー』。そんなありきたりなシチュエーションにもかかわらず、まったく異なる二人の立場のせいで波乱含みな恋愛模様をもたらしていく――。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

二百年の眠り姫は、五人の薔薇騎士と龍に溺愛される

七海美桜
恋愛
旧タイトル:五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです! フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処理中です...