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32.何でもない、何でもない
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今日は仕事終わりで全体の打ち合わせがあり、ヘザーさんから今度の茶会の予定が告げられる。規模はこの間の学園の卒業式ほどではないが、王宮では結構頻繁に茶会や舞踏会、それに晩餐会が開催されている。多くの場合は王都の貴族相手の催しだけど、ここ、ウィンスレット王国外からの来賓があった場合は晩餐会やら舞踏会やらで大忙しなのよ。明後日の茶会は貴族間のものらしいからそんなに規模は大きくなさそうだけど、働くのは私達なんだから迷惑な話だわ。
「ニッキー、ローナ、マリオンには伝えておいてくださいね」
「はい」
最近はマリオンがいてくれるのでちょっと楽できてるかな。あの子は見かけによらず力持ちだから、いてくれると設営や撤収が格段に楽になる。明後日は学園を休んでもらうことになっちゃうけど、あの子のことだからきっと文句なんて言わないわね。
「どうする? マリオン、今日は来ないって言ってたっけ」
「あー、そうだったわね。じゃあ、私が行って直接伝えてくるよ」
ローナには先に寮に戻ってもらって、私はマリオンの家へ。そう言えばお兄さんと住み始めたって言ってたっけ。あの家を立てた本人らしいから、変わり者なんだろうな……そんなことを考えつつ、森の中を通って彼女の家へ。
「マリオーン、いる? 入るよー」
と、ノックしつつ声を掛けてドアを開けると、彼女の姿は見当たらなかった。
「あれ? まだ帰ってないのかな?」
部屋の中を見回してみても彼女の姿はないが、ソファーの所に人の気配。良く見るとそこに寝そべっているだろう人物の足が見え隠れしている。あ、ひょっとして……
「誰だ?」
「あ、えっと……」
本を片手に持ちつつ起き上がったのは男性で、鋭い視線がこちらに飛んでくる。ヤバイ、お兄さんがいたんだ! マリオンの話では昼間はほとんど家におらず、夜中に帰ってくることも多いってことだったから油断してた。
「……マリオンの先輩のニッキー・ウォリスだな。弟が世話になっている」
「あ、はい。どうも……」
私の名前を知っている!? マリオンに聞いたのかしら。でも私の名字までマリオンに伝えた覚えがないんだけど。気まずくてその場に立ち尽くしている間も彼にジーッと観察されている視線を感じる。
「マリオンならまだ帰ってないが、もうすぐ帰ってくるだろう。中で待っているといい。茶ぐらい淹れるか」
断るタイミングも逸したまま家の中で待たせてもらうことに。椅子を進められて座っていると、紅茶とちょっとしたお茶請けも一緒に出してくれた。あ、これ、きっとマリオンが焼いたクッキーだ。じゃあ、これだけ頂いてさっさと退散するかな……そう思っていたけれど、なぜだか彼も対面に座って紅茶をすすり始めてしまった。依然として私のことを観察している様子……気まずい。
「ウォリス家と言えば五位の貴族だろう。王都からは少し離れているが交通の要所の街だから比較的栄えているんじゃないのか? 王宮で働かなくても生活はできるだろう」
「はい。私には兄がいて領地は兄が継ぐことになっています。そうなると私は邪魔になるので、今のうちに王都で相手を探してこいと……」
「ああ、なるほど。そっちか」
「……」
なんでウチの領地にまで詳しい!? マリオンを苛めていたことを責められたりするんじゃ? と、ちょっとドキドキしてたのに。彼はさっきの質問で満足したのか、紅茶を飲みながらまた本を読み始めてしまった。ポリポリとマリオンの作ったクッキーを食べる音だけが部屋に響く。な、何なのこの状況!?
「あ、あの、お兄さんはお仕事は……」
「ああ、今日はたまたま休みだったので家でゴロゴロしていたんだ。休みなどいらんと言ったのにグラハムのヤツがうるさくてな」
グラハムってグラハム王子!? 王宮で働いているとは聞いていたけど、王子を呼び捨てにできる様な要職なの!?
「それと、俺はドミニクだ。ウチは六位の貴族だし、あんたと同い年だから敬語は使わなくてもいいぞ」
「はあ……」
私の年齢まで知ってるの!? って言うか私の身辺調査でもしたの!?
「どうしてそんなことまで?」
「主要な領地の領主と家族構成、それにマリオンの周辺のメイドの年齢や出身は大体頭に入っている。ああ、マリオンが通っている学園の同級生の名前や出身もな」
平然とそんなことを言ったお兄さん、じゃなかった、ドミニク。なんか凄いと言うか、ちょっと怖いぐらい。無愛想な感じだし付き合いにくそうな人だ。あの愛想の塊みたいなマリオンのお兄さんとは思えないんだけど! でもマリオンのお兄さんであることは確かだから、彼女のことも色々知っているんだろうなあ。
「あ、あの、マリオンはどうしてあんな風なの?」
「女みたいな格好してるか、ってことか? あいつも五歳までは地域のガキ大将みたいな存在だったんだぜ」
そうなの!? ドミニクの話しによると五歳まではやんちゃな男の子で、友達と野山を駆け回っていたらしい。しかしある日魔物に拐われたんだとか。
「三ヶ月間、あいつは行方不明になったんだよ。家族は皆、もうあいつはダメだと思っていたんだ。ところが帰ってきた」
『帰ってきた』と言っても普通ではなかったそうで、彼女を連れてきたのはなんとワイバーンだったらしい……ワイバーン!? ワイバーンはドラゴンの使いで、マリオンは魔物に拐われた際に致命傷を負い、それをドラゴンに救われたんだとか。三ヶ月間は治療も兼ねてドラゴンの元で過ごしていたらしい。
「ドラゴンやワイバーンなんておとぎ話の中の存在だと……」
「俺たちもそうだったさ。家の庭にマリオンを乗せたワイバーンが降り立った時は、領地の人間は全員食われるだろうと思ったからな」
そして帰ってきたマリオンはすっかり性格が変わっていて、そこから彼女の母親が過保護気味に女の子として育てる様になったんだって。ドラゴンの元で何があったのかは家族も知らないし、マリオン自身も良く分からないらしい。ただその加護の様なものがあって、あの怪力は多分それによるものだろうと……なるほど。突飛な話だけど、納得はいく。
その後少しドミニクとも打ち解けてきて、お互いの領地のことなどをお喋り。最初は無愛想で取っつきにくい人かと思ったけれど、喋ってみると案外話しやすい。とにかく凄い情報量で、しかも頭がいい人なんだわ。
「ただいまー。あ! ニッキーさん!」
「おかえり、マリオン」
結構話し込んでしまっていたみたいで、やがてマリオンが帰宅。私がドミニクと話していることに驚いた様子。
「兄さんと話を?」
「ええ、ちょっとね」
「ちょうどお前の話をしてたんだ」
「私の!? 何を話してたの!?」
「フフフ、内緒よ。それより明後日の茶会の準備なんだけど……」
何を話していたのか知りたがるマリオンだったけど、ちょっとイジワルしてお茶会のことだけを伝える。長居してしまったのでそろそろ戻らないと。ちょっとむくれているマリオンも可愛いんだけど……やっぱりどうみても女の子にしか見えないわね。
「じゃあ、また明日」
「はい。またいつでも来てくださいね。兄さんも、いいでしょう?」
「ん? 俺は別に構わんぞ」
マリオンの横に立つとどこどなく彼女に似ている気もするドミニク。目つきは鋭いけど、「いい男」ではあるのよね……って、何考えてるの、私!? 喋ってみると案外普通に話してくれるし、弟思いなところも垣間見える。凄く頭がいいんだろうけど小難しい言葉を並べ立てたりしないし……
「どうかしましたか? ニッキーさん」
「えっ!? あ、いや、何でもない、何でもない。じゃあね!」
やばいやばい、マリオンに勘ぐられてしまうところだったわね。私がここにいる理由は良いお相手を見つけることなんだし、六位の貴族じゃきっと父親も納得しないだろうな……でも……やっぱりちょっと彼のことが気になってる。
「ニッキー、ローナ、マリオンには伝えておいてくださいね」
「はい」
最近はマリオンがいてくれるのでちょっと楽できてるかな。あの子は見かけによらず力持ちだから、いてくれると設営や撤収が格段に楽になる。明後日は学園を休んでもらうことになっちゃうけど、あの子のことだからきっと文句なんて言わないわね。
「どうする? マリオン、今日は来ないって言ってたっけ」
「あー、そうだったわね。じゃあ、私が行って直接伝えてくるよ」
ローナには先に寮に戻ってもらって、私はマリオンの家へ。そう言えばお兄さんと住み始めたって言ってたっけ。あの家を立てた本人らしいから、変わり者なんだろうな……そんなことを考えつつ、森の中を通って彼女の家へ。
「マリオーン、いる? 入るよー」
と、ノックしつつ声を掛けてドアを開けると、彼女の姿は見当たらなかった。
「あれ? まだ帰ってないのかな?」
部屋の中を見回してみても彼女の姿はないが、ソファーの所に人の気配。良く見るとそこに寝そべっているだろう人物の足が見え隠れしている。あ、ひょっとして……
「誰だ?」
「あ、えっと……」
本を片手に持ちつつ起き上がったのは男性で、鋭い視線がこちらに飛んでくる。ヤバイ、お兄さんがいたんだ! マリオンの話では昼間はほとんど家におらず、夜中に帰ってくることも多いってことだったから油断してた。
「……マリオンの先輩のニッキー・ウォリスだな。弟が世話になっている」
「あ、はい。どうも……」
私の名前を知っている!? マリオンに聞いたのかしら。でも私の名字までマリオンに伝えた覚えがないんだけど。気まずくてその場に立ち尽くしている間も彼にジーッと観察されている視線を感じる。
「マリオンならまだ帰ってないが、もうすぐ帰ってくるだろう。中で待っているといい。茶ぐらい淹れるか」
断るタイミングも逸したまま家の中で待たせてもらうことに。椅子を進められて座っていると、紅茶とちょっとしたお茶請けも一緒に出してくれた。あ、これ、きっとマリオンが焼いたクッキーだ。じゃあ、これだけ頂いてさっさと退散するかな……そう思っていたけれど、なぜだか彼も対面に座って紅茶をすすり始めてしまった。依然として私のことを観察している様子……気まずい。
「ウォリス家と言えば五位の貴族だろう。王都からは少し離れているが交通の要所の街だから比較的栄えているんじゃないのか? 王宮で働かなくても生活はできるだろう」
「はい。私には兄がいて領地は兄が継ぐことになっています。そうなると私は邪魔になるので、今のうちに王都で相手を探してこいと……」
「ああ、なるほど。そっちか」
「……」
なんでウチの領地にまで詳しい!? マリオンを苛めていたことを責められたりするんじゃ? と、ちょっとドキドキしてたのに。彼はさっきの質問で満足したのか、紅茶を飲みながらまた本を読み始めてしまった。ポリポリとマリオンの作ったクッキーを食べる音だけが部屋に響く。な、何なのこの状況!?
「あ、あの、お兄さんはお仕事は……」
「ああ、今日はたまたま休みだったので家でゴロゴロしていたんだ。休みなどいらんと言ったのにグラハムのヤツがうるさくてな」
グラハムってグラハム王子!? 王宮で働いているとは聞いていたけど、王子を呼び捨てにできる様な要職なの!?
「それと、俺はドミニクだ。ウチは六位の貴族だし、あんたと同い年だから敬語は使わなくてもいいぞ」
「はあ……」
私の年齢まで知ってるの!? って言うか私の身辺調査でもしたの!?
「どうしてそんなことまで?」
「主要な領地の領主と家族構成、それにマリオンの周辺のメイドの年齢や出身は大体頭に入っている。ああ、マリオンが通っている学園の同級生の名前や出身もな」
平然とそんなことを言ったお兄さん、じゃなかった、ドミニク。なんか凄いと言うか、ちょっと怖いぐらい。無愛想な感じだし付き合いにくそうな人だ。あの愛想の塊みたいなマリオンのお兄さんとは思えないんだけど! でもマリオンのお兄さんであることは確かだから、彼女のことも色々知っているんだろうなあ。
「あ、あの、マリオンはどうしてあんな風なの?」
「女みたいな格好してるか、ってことか? あいつも五歳までは地域のガキ大将みたいな存在だったんだぜ」
そうなの!? ドミニクの話しによると五歳まではやんちゃな男の子で、友達と野山を駆け回っていたらしい。しかしある日魔物に拐われたんだとか。
「三ヶ月間、あいつは行方不明になったんだよ。家族は皆、もうあいつはダメだと思っていたんだ。ところが帰ってきた」
『帰ってきた』と言っても普通ではなかったそうで、彼女を連れてきたのはなんとワイバーンだったらしい……ワイバーン!? ワイバーンはドラゴンの使いで、マリオンは魔物に拐われた際に致命傷を負い、それをドラゴンに救われたんだとか。三ヶ月間は治療も兼ねてドラゴンの元で過ごしていたらしい。
「ドラゴンやワイバーンなんておとぎ話の中の存在だと……」
「俺たちもそうだったさ。家の庭にマリオンを乗せたワイバーンが降り立った時は、領地の人間は全員食われるだろうと思ったからな」
そして帰ってきたマリオンはすっかり性格が変わっていて、そこから彼女の母親が過保護気味に女の子として育てる様になったんだって。ドラゴンの元で何があったのかは家族も知らないし、マリオン自身も良く分からないらしい。ただその加護の様なものがあって、あの怪力は多分それによるものだろうと……なるほど。突飛な話だけど、納得はいく。
その後少しドミニクとも打ち解けてきて、お互いの領地のことなどをお喋り。最初は無愛想で取っつきにくい人かと思ったけれど、喋ってみると案外話しやすい。とにかく凄い情報量で、しかも頭がいい人なんだわ。
「ただいまー。あ! ニッキーさん!」
「おかえり、マリオン」
結構話し込んでしまっていたみたいで、やがてマリオンが帰宅。私がドミニクと話していることに驚いた様子。
「兄さんと話を?」
「ええ、ちょっとね」
「ちょうどお前の話をしてたんだ」
「私の!? 何を話してたの!?」
「フフフ、内緒よ。それより明後日の茶会の準備なんだけど……」
何を話していたのか知りたがるマリオンだったけど、ちょっとイジワルしてお茶会のことだけを伝える。長居してしまったのでそろそろ戻らないと。ちょっとむくれているマリオンも可愛いんだけど……やっぱりどうみても女の子にしか見えないわね。
「じゃあ、また明日」
「はい。またいつでも来てくださいね。兄さんも、いいでしょう?」
「ん? 俺は別に構わんぞ」
マリオンの横に立つとどこどなく彼女に似ている気もするドミニク。目つきは鋭いけど、「いい男」ではあるのよね……って、何考えてるの、私!? 喋ってみると案外普通に話してくれるし、弟思いなところも垣間見える。凄く頭がいいんだろうけど小難しい言葉を並べ立てたりしないし……
「どうかしましたか? ニッキーさん」
「えっ!? あ、いや、何でもない、何でもない。じゃあね!」
やばいやばい、マリオンに勘ぐられてしまうところだったわね。私がここにいる理由は良いお相手を見つけることなんだし、六位の貴族じゃきっと父親も納得しないだろうな……でも……やっぱりちょっと彼のことが気になってる。
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