166 / 228
Chap.15 A Mad T-Party
Chap.15 Sec.1
しおりを挟む
温かなシーツのなか、伸ばしたセトの手に何かが当たった。寝起きのぼやけた頭で(……なんだ?)疑問に思いながら左を向く。シーツに埋もれるようにして眠る彼女の顔に、心臓が跳ね上がった。完全に覚醒した。
窓の外は暗い。しかし、遮光モードが解かれているということは、時刻は7時を過ぎている。息を止めていたのに気づいて、そうっと呼吸を再開する。目の前の彼女が起きるようすはない。横を向いて身を護る動物のように丸くなっている。……寒いのだろうか。上体を起こして、ベッドの上にあったはずのブランケットを捜し……端に追いやられていたそれを取って、薄い掛け布団の上から彼女の身体を覆うように掛けた。さらりと黒髪が流れ、彼女の目許が隠れる。とっさに手が出ていた。髪をすくい上げて後頭部に流したが、起きる気配は全くない。
——疲れさせてしまっただろうか?
深く眠るようすに罪悪感が生まれ、昨夜が思い出された。
§
——くらくて、なにもみえない……。
触れる前、照明をすべて消したセトに、彼女の小さな指摘が投げられた。完全なる暗闇で、夜目の利かない彼女の視覚が奪われることは承知のうえ。
「見えないほうが気が楽だろ。喋らずにおくから、他のやつでも思い浮かべとけよ。……好きなやつとか」
シャワー中に冷静になっていろいろと考えてしまったセトの、最終的な判断。(いっそ見えなきゃいいんじゃねぇか?)結論は極端な配慮になったが、互いにメリットはあるはず。彼女はセトを意識しなくて済み、セトは彼女の身体に残る行為の痕を見ずに済む。アイディアに対して彼女が無言になったのは気になったが……早く済ませたほうがいいだろうと思い、ためらわず肌に触れた。
優しくする。胸中だけで誓っていたが、いざ始めてみると非常に戸惑う。一般的に優しく——とは、どうするのか。痛くしない、乱暴にしない、相手の反応を確認する。そんな当たり前のことだけの話ではない気がする。触れ方は? 進め方は? 声かけ——は、できない。なら、何ができるのか。何が許されるのか。
ロキはどうするのだろう——疑問が浮かんだ途端、不愉快な気持ちになった。余計な思考は止める。目の前の存在だけに集中する。
触れた肌は、しっとりとして手になじんだ。暗いせいで反応が分かりにくいが、視覚刺激がないぶんセトには余裕があった。耳をそばだてて反応をみるが静かすぎて、(前もこんなだったな……眠ってねぇよな?)挿入でかすかに声をもらすまで、彼女が声を耐えていることに気づかなかった。
(口を塞いでんのか?)
暗闇といっても、慣れれば輪郭くらいは見える。暗順応しやすいセトの目は、ぼんやりとだが形を捉えていた。横を向き、握った拳で口を押さえているように見える。キスはしていなかったから、その唇が握られた手の甲で塞がれているなんて知らずにいた。
何をしているのだろうと考えつつ、どう見ても苦しそうなので、握った拳に手を伸ばして引き離した。「——あっ」嬌声にびっくりした声が混じったような、珍しく可愛い声が聞こえた。それが引き金になって、声を聴きたい欲求に駆られる。
“優しくする”の許容範囲内で、強く。腰を動かすたびに、細い声がこぼれていく。——と思うと、また消える。閉じられた唇をこじ開けたいが、それは“優しく”ないだろうと、思いとどまる。様子をみると、外した拳が枕の端を掴んでいて、身体には変に力が入っていた。まさか——
「痛いのか?」
思わず声をかけてしまった。無言だが首を振ったので、違うらしい……が、かたくなに口を開かないのは何故か。前回も静かなほうではあったが、ここまでではない。捉え方によっては反抗的な態度にも思える。
(早く終われ——って?)
導き出した答えは、あまり気分のよいものではなかった。そんな不確定なことで怒る気はないが——ないが、代わりに遠慮していた唇を重ねた。固く閉じた唇を開かせると、合わさった唇の隙間で吐息まじりの声が鳴った。
枕の端を握る手をほどいて、指を絡める。擦るように突くたび、ぎゅっと力が入るのが——縋られているような、求められているような錯覚を生む。以前よりもずっと感じやすくなっている気がした。どこまでが演技なのかは——知らない。ただ、演技ならば、前みたいに言葉ひとつくらい……くれてもいいだろうに。
胸に湧く自己中心的な不満は打ち消して、セトはその後、一言も話すことなく終わらせた。
§
ふと窓の外に目がいった。寝顔を見つめているうちに視界がはっきりしてきたな、と。気づけば空は白んでいて、薄明の時を迎えていた。
——アリスちゃんの寝顔を見つめる時間はおしまいだよ。
どこからかティアの鬱陶しい声が聞こえそうなので、ベッドから出てシャワーを浴びることにした。眠りを妨げないよう窓は遮光モードに。目が覚めれば、どうせ出て行ってしまうのだろうが……メルウィンの手伝いなら、まだ。当然のようにロキのところへ戻ってしまうよりは、まだマシだと思える。
顔を合わせたらなんと言おうか。サクラと何があったのか問い詰めたいが、話してくれないだろうか。ぐるぐると考えながらシャワーをさっと浴びて戻ってきたセトの前には、変わらずに眠る姿があった。起こすのは忍びない。かといって、同じ空間にいるのも……気まずい。
空腹感を覚えたので、セトはひとまず食堂に行こうと決めた。起きた彼女もまた食堂に来るはず。メルウィンの手伝いか朝食のために。ここで目を覚まして顔を合わせるより、幾分かは状況がよくなると思えた。温かい珈琲とトーストでもあれば、拒絶しがちな心も緩むだろう——と。
窓の外は暗い。しかし、遮光モードが解かれているということは、時刻は7時を過ぎている。息を止めていたのに気づいて、そうっと呼吸を再開する。目の前の彼女が起きるようすはない。横を向いて身を護る動物のように丸くなっている。……寒いのだろうか。上体を起こして、ベッドの上にあったはずのブランケットを捜し……端に追いやられていたそれを取って、薄い掛け布団の上から彼女の身体を覆うように掛けた。さらりと黒髪が流れ、彼女の目許が隠れる。とっさに手が出ていた。髪をすくい上げて後頭部に流したが、起きる気配は全くない。
——疲れさせてしまっただろうか?
深く眠るようすに罪悪感が生まれ、昨夜が思い出された。
§
——くらくて、なにもみえない……。
触れる前、照明をすべて消したセトに、彼女の小さな指摘が投げられた。完全なる暗闇で、夜目の利かない彼女の視覚が奪われることは承知のうえ。
「見えないほうが気が楽だろ。喋らずにおくから、他のやつでも思い浮かべとけよ。……好きなやつとか」
シャワー中に冷静になっていろいろと考えてしまったセトの、最終的な判断。(いっそ見えなきゃいいんじゃねぇか?)結論は極端な配慮になったが、互いにメリットはあるはず。彼女はセトを意識しなくて済み、セトは彼女の身体に残る行為の痕を見ずに済む。アイディアに対して彼女が無言になったのは気になったが……早く済ませたほうがいいだろうと思い、ためらわず肌に触れた。
優しくする。胸中だけで誓っていたが、いざ始めてみると非常に戸惑う。一般的に優しく——とは、どうするのか。痛くしない、乱暴にしない、相手の反応を確認する。そんな当たり前のことだけの話ではない気がする。触れ方は? 進め方は? 声かけ——は、できない。なら、何ができるのか。何が許されるのか。
ロキはどうするのだろう——疑問が浮かんだ途端、不愉快な気持ちになった。余計な思考は止める。目の前の存在だけに集中する。
触れた肌は、しっとりとして手になじんだ。暗いせいで反応が分かりにくいが、視覚刺激がないぶんセトには余裕があった。耳をそばだてて反応をみるが静かすぎて、(前もこんなだったな……眠ってねぇよな?)挿入でかすかに声をもらすまで、彼女が声を耐えていることに気づかなかった。
(口を塞いでんのか?)
暗闇といっても、慣れれば輪郭くらいは見える。暗順応しやすいセトの目は、ぼんやりとだが形を捉えていた。横を向き、握った拳で口を押さえているように見える。キスはしていなかったから、その唇が握られた手の甲で塞がれているなんて知らずにいた。
何をしているのだろうと考えつつ、どう見ても苦しそうなので、握った拳に手を伸ばして引き離した。「——あっ」嬌声にびっくりした声が混じったような、珍しく可愛い声が聞こえた。それが引き金になって、声を聴きたい欲求に駆られる。
“優しくする”の許容範囲内で、強く。腰を動かすたびに、細い声がこぼれていく。——と思うと、また消える。閉じられた唇をこじ開けたいが、それは“優しく”ないだろうと、思いとどまる。様子をみると、外した拳が枕の端を掴んでいて、身体には変に力が入っていた。まさか——
「痛いのか?」
思わず声をかけてしまった。無言だが首を振ったので、違うらしい……が、かたくなに口を開かないのは何故か。前回も静かなほうではあったが、ここまでではない。捉え方によっては反抗的な態度にも思える。
(早く終われ——って?)
導き出した答えは、あまり気分のよいものではなかった。そんな不確定なことで怒る気はないが——ないが、代わりに遠慮していた唇を重ねた。固く閉じた唇を開かせると、合わさった唇の隙間で吐息まじりの声が鳴った。
枕の端を握る手をほどいて、指を絡める。擦るように突くたび、ぎゅっと力が入るのが——縋られているような、求められているような錯覚を生む。以前よりもずっと感じやすくなっている気がした。どこまでが演技なのかは——知らない。ただ、演技ならば、前みたいに言葉ひとつくらい……くれてもいいだろうに。
胸に湧く自己中心的な不満は打ち消して、セトはその後、一言も話すことなく終わらせた。
§
ふと窓の外に目がいった。寝顔を見つめているうちに視界がはっきりしてきたな、と。気づけば空は白んでいて、薄明の時を迎えていた。
——アリスちゃんの寝顔を見つめる時間はおしまいだよ。
どこからかティアの鬱陶しい声が聞こえそうなので、ベッドから出てシャワーを浴びることにした。眠りを妨げないよう窓は遮光モードに。目が覚めれば、どうせ出て行ってしまうのだろうが……メルウィンの手伝いなら、まだ。当然のようにロキのところへ戻ってしまうよりは、まだマシだと思える。
顔を合わせたらなんと言おうか。サクラと何があったのか問い詰めたいが、話してくれないだろうか。ぐるぐると考えながらシャワーをさっと浴びて戻ってきたセトの前には、変わらずに眠る姿があった。起こすのは忍びない。かといって、同じ空間にいるのも……気まずい。
空腹感を覚えたので、セトはひとまず食堂に行こうと決めた。起きた彼女もまた食堂に来るはず。メルウィンの手伝いか朝食のために。ここで目を覚まして顔を合わせるより、幾分かは状況がよくなると思えた。温かい珈琲とトーストでもあれば、拒絶しがちな心も緩むだろう——と。
20
あなたにおすすめの小説
憧れのお姉さんは淫らな家庭教師
馬衣蜜柑
恋愛
友達の恋バナに胸を躍らせる教え子・萌音。そんな彼女を、美咲は優しく「大人の身体」へと作り替えていく。「ねえ萌音ちゃん、お友達よりも……気持ちよくしてあげる」眼鏡の家庭教師が教えるのは、教科書には載っていない「女同士」の極上の溶け合い方。
女性向け百合(レズビアン)R18小説。男性は出てきません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる