その怪談、お姉ちゃんにまかせて

藤香いつき

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9. 呪いのヒミツ

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「……冬也会長は、どうして順番を逆にして私に話したんですか」
「同情は目をくもらせるからね。イジメの話を後に出すより、先にしたほうが、Aさんのイメージが大きく変わると思ったんだ」
 
 冬也の言うとおりだった。イチカはまずAのことを、『か弱くてだれにも相談できない子』だと想像した。
 でも、真実を知った瞬間、頭の中のAはがらりと印象を変えた。
 じゃまをするな——そう訴える強く冷たい声が聞こえた気がした。後からイジメの話を聞いていたら、ここまで強いイメージにはならなかっただろう。
 
(……リクツは分かったけど。なんか私、冬也会長の手のひらの上で転がされてるみたい……)
 
 イチカは口をつぐんだ。
 イチカの気持ちを知ってか知らずか、冬也はキリッとした会長らしい顔で言った。
 
「イチカくん、これは七不思議やイジメ問題の裏に、何か別のカゲがひそんでいる。僕はこのカゲの正体を、はっきりさせたい」
 
 そして、ほほえむ。
 
「僕といっしょに、まずは『マチコ先生』の呪いを解こう」
「……それなら、もう解けました」
「え?」

 きょとんとした冬也に、イチカはむっつりとした顔を少しだけゆるめた。
 
「呪いのヒミツは簡単です」
「……まさか、『たまたまカラスがぶつかったんだ』なんて言わないよね?」
「言いません!」
 
 イチカがちょっと怒ったように言うと、冬也は「あはは」と明るく笑った。
 
「それなら、呪いの正体は?」
「それは——ちょっとしたトリックです」

 イチカは立ち上がると、隣の机に置いていたランドセルから給食セットの入った巾着袋を取り出した。結ばれていたヒモを解いて長くすると、それを持って窓まで歩いて行く。窓を開けて、ヒモの先をつかんだまま巾着袋だけ投げた。
 
「こうやってヒモの先に黒い布袋の付いた物を、遠くに投げます。そうすると、ヒモをつかんでいるので、黒い布袋は遠くに飛んでから、下に落ちますよね?」
 
 イチカの巾着袋は、窓のすぐ下に当たった。
 
「前もってヒモの長さを合わせておけば、窓にぴったり当たります」
 
 イチカはすぐさまヒモを引っ張り上げる。
 
「すばやく回収したら、だれも上に消えたなんて分からない。『マチコ先生』の方に集中して、窓をじっと見ている子もいないし」
「それだと、下のカラスは?」
「カラスの死体と紙は、先に置いておけばいいと思います」
「なるほどね」 
 
 冬也はうでを組んでうなずいた。
 
(……もっと、おどろくかと思ったのに)
 
 冬也の反応は意外と冷静だった。まるで初めから答えを知っていたみたいに。
 意見を披露ひろうしたイチカは、少し声量を落として説明を追加する。
 
「『マチコ先生』のおまじない場所を旧校舎の四年二組にしたのも、あそこは二階で、窓の外は裏山だから見つかりにくいし……だから、トリックをしかけた犯人は、そのとき三階の六年二組にいたはず……」
 
 旧校舎というのは、イチカたちがふだん使う学校の隣にある、もうひとつの古い学校のことだ。外からは入れず、二階の渡り廊下だけつながっている。図書室・図工室・音楽室などの一部だけ今も使われていて、普通の教室は使われていない。今年の夏休みから解体される予定だ。
 
「……旧校舎か」
 
 イチカの話に、冬也がぽつりとつぶやいた。イチカは首をかしげる。
 
「旧校舎がどうかしたんですか?」
「『夢見坂小の七不思議』は、旧校舎が中心だ。僕も今気づいたけど……詳しく分かっているものは、すべて旧校舎を舞台にしているね」
「え、ほんと?」
「ああ」
 
 冬也は答えると、タブレットの画面をイチカにかたむけ、七不思議についてまとめたものを見せた。
 
——————————————
 
①『二宮金次郎の増える木』
 ○旧校舎の東門にある二宮金次郎像のシバの数が変わる。
 ●数え間違いが原因と思われる。
 
②『まばたきするモナリザ』
 ○旧校舎の図工室にあるモナリザの絵がまばたきして見える。
 ●目の錯覚だと思われる。
  
③『泣くピアノ』
 ○旧校舎の音楽室で、ピアノから泣き声のようなものが聞こえる。
 ●換気口から鳴る風の音が原因。

④『走る呪いのカゲ』
 ○学校の中を走り回る黒いカゲ。そのカゲを二度見たら呪われる。
 ●未検証
 
⑤『死者からのメッセージ』
 ○学校のどこかに、死者と交流できる場所があるらしい。
 ●未検証
 
⑥『願いをかなえるマチコ先生』
 ○旧校舎の四年二組で、マチ針人形・マチコ先生に願かけするおまじない。
 ●未検証
 
⑦『死者の国につながるドア』
 ○六つの不思議を体験した者の前にドアが現れ、死者の国に吸いこまれる。
 ●未検証
 
——————————————
 
「ほらね? よくウワサされているものは、旧校舎と断定されている」
「ほんとだ……」
 
 画面をのぞきこんだイチカも理解した。
 冬也はあごに指を当てると、考えこむように口を閉ざした。しばらくしてから、まだ少し考えているような顔で話した。
 
「……僕としては、一度、自分で検証してみたいと思っている」
「検証?」
「うん。きみのトリックを信じていないわけじゃなくてね? 言葉の説明だけじゃ、白鳥さや香さんたちの不安は消えないような気がするから」
「えーっと、つまり何をしたいんですか?」
「イチカくんの言うやり方で、実際に試してみて……それを撮影したものを、白鳥さや香さんたちに見せようか。そうすれば、呪いなんてないと納得してもらえるんじゃないかな」
「……犯人のAさんは、どうするの?」
「犯人さがしをする気はないよ。Aさんがトリックの犯人と決まったわけでもないしね」
「ふーん……」
「——というわけで、イチカくん」
 
(あ、嫌な予感)
 
 冬也は名を呼んで、にっこりと笑った。
 
「きみの意見なんだから、当然、検証にも付き合ってくれるよね?」
 
 うむを言わせない笑顔の圧に、イチカは首をすくめる。
 
(氷の王子様っていうより悪魔だ……)

 どうやら、イチカはまだしばらく、この悪魔と行動を共にすることになりそうだ。
 
 
 
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